第26話 文芸部員達と元部長
「いらっしゃいませ、お席までご案内しま……」
駅近くのファミレスへ立ち寄ると、早速ウエイトレス姿で笑顔の姉貴と遭遇した。
そしてものの数秒で殺意を感じ取る。
うん、殺意だ。
変わらず笑顔ではあるものの、その目線からは「来るなって行ったのになんで来てんだよぶち殺すぞ」というメッセージがビンビンに伝わってくる。
……どれだけ働いてる所見られたくなかったんだよ。
そう感じながら白井先輩へと視線を向けると、来るんじゃなかったと言わんばかりの引きつった笑みを浮かべている。
アンタが来たいって言ったんだぞ、しっかりしてくれ。
だけどまあ表面上はまともに接客をしてくれるみたいで、俺達は姉貴に席を案内された。
「ご注文お決まりでしたら、そちらのボタンを推してお呼びください」
そう言って私情を出さない仕事モードで俺達にそう言った姉貴だったが、席から離れる際に一瞬こちらを見てガンを飛ばしてくる。
まさしく後で覚えてろよと言わんばかりに。
そして離れていく姉貴を見送ってから先輩は言う。
「い、意外とさまになってる」
「なってますかね。俺達殺害予告されてますよ」
「わ、割と既定路線……」
だとしたらそれ俺に対する殺人幇助では?
というのは冗談で、俺や多分先輩にとっても姉貴との関わり方はこれでワンセット。
俺としても此処まで既定路線。
なんなら姉貴の来るなも実質来いって事なのだろう。しらんけど。
そしてメニューを見つつ姉貴を観察。
「……しっかしこういう場だと普通の人なんだよな姉貴」
「う、うん。普通の人」
「でも普段は?」
「や、やべー奴」
「できれば普段も普通であってくれー」
「さ、さっきも言ったけど、あ、愛称だから」
そう言って笑う先輩を見つつ、注文する商品を選ぶ。
ドリンクバーと季節のパンケーキ。これでいいだろ。うまそうだし、そんなに量ないし。
「じゃあ俺決まったんで店員呼びますね」
「う、うん。よろしく」
そして呼び出しボタンを押すと再び姉貴がやってくる。
「ご注文お伺いします」
「じゃあ季節のパンケーキとデラックスパフェ。あとドリンクバー2つで」
「ありがとうございます。辛さ調節はどういたしましょうか。1から5辛までお選びいただけます」
ニコニコととんでもねえ事言いやがったよ。
ちなみに辛さ調節できる激辛カレーが期間限定で提供されている為、端から見れば普通の問答に聞こえなくもないのが、絶妙にテクニカルで嫌だ。
「ゼロ辛でお願いします」
「1から5となっております」
この野郎。
これ1って言っても最低限辛くしてくる奴じゃねえの? 辛いパンケーキってなんだよ。
「じゃ、じゃあ2つともおまかせで」
先輩が俺の代わりにそう答える。
「かしこまりました。ドリンクバーのコップは只今お持ちします」
そう言って再び姉貴は立ち去っていく姉貴を見てから言う。
「まあそれが正解か」
「う、うん。多分……あ、赤羽先輩、た、食べ物で遊ぶ事はしないし」
「……それが分かってても姉貴ならやりかねないって思う辺り信頼がねえ」
「ぎゃ、逆にそれでもやりそうっていう信頼がある、とも言える」
「それほんと信頼ですか?」
「ぶ、無事来るかな、甘い物」
「祈りましょう」
そう言った後、なんとなく先輩と一緒にこの店舗のレビューを調べる。
☆4。コメントには店員の接客が良いと書かれている。
「……見た感じ知り合い来て暴れる、みたいな事はしてねえな」
「てぃ、TPOをわきまえてる……」
「学校でもそれをわきまえていてほしかった」
と、しばらくスクロールしていくと一つのレビューが目に留まる。
【スタッフの接客が素晴らしいです。あと良くも悪くもやべー奴が居て刺激的でいいと思います】
「……」
「……」
「み、見なかった事にしません?」
「う、うん。見なかった事にしよう」
そしてしばらくすると姉貴とは違う店員がドリンクバーのコップを持ってきて、それで飲み物を調達しつつ料理が来るのを待つ。
それからやがて配膳ロボが持ってきたパンケーキとパフェはというと。
「うん、全然普通だな」
一口食った感じも普通に美味しいパンケーキ。
良かった……流石の姉貴も食べ物で遊ぶような一線は越えてこない。
うん、平和に食べれそうだ平和に。
……俺の方は。
「えっと、先輩……大丈夫ですか?」
「……」
先輩の眼の前にはデラックスパフェが鎮座している。
いやもうデラックスもデラックス。
でっけえ。
「しゃ、写真と違う……思ったより倍位大きい……」
飲食店でたまにある逆パネルマジックである。
「あの、結構一緒にお昼食ったりしてるから知ってますけど、先輩って少食でしたよね? ……大丈夫ですか?」
「ど、どう思う?」
「大丈夫じゃないですよね。というか写真通りの物が出てきたとしても厳しかったんじゃないですか?」
「で、デザートは別腹……みたいな」
「別の方の腹の容量も考えてくださいよ」
言いながら自分のパンケーキを一口。
うん、普通に美味しい。
そして量も適量。
やはり何事も多けりゃ良いってもんじゃない。
そして適量じゃない物を前にした先輩は、縋るような目付きでこちらを見てくる。
「あ、あの……圭一郎君」
「なんです?」
「て……手伝って」
そうお願いしてくる先輩の手には流石にスマホは握られていない。
あれは俺と二人の時しか使わない訳だ。
端から見たら痛いしね。
……で、そんな物を使われなくても、腹は決まってる。
「良いですよ。可能な限りですけど」
流石にこれ全部食わせるのは酷だと思ったし、あとフードロス的な事をするのも避けたい。
こんなでかいの頼んどいて残すみたいなのは、それこそ食べ物で遊んでいる感じがするからな。
そっちの理由で姉貴にシバかれてもおかしくない。
「じゃ、じゃあ」
そう言ってパフェの上の方をスプーンで掬ってこちらに差し出してくる。
「きょ、協力して貰うわけだから……一口目、あげる」
「あ、どうも」
そして差し出されたパフェを一口。
うん、今からこの巨大パフェを半分以上食べないといけないと思うと気が重いけど、適量ならうまいんだよな。甘いの好きだし……ってちょっと待て。
……なんか冷静に考えたら滅茶苦茶恥ずかしい事してねえ?
そう思いながら先輩の方を見ると、同じく今更になって気付いたのか顔が赤くなってる。かわいい。
……うん、味も悪くないし、こういうイベントも悪くない……ほんと悪くないんだ。
このバカでかいパフェが目の前にさえ無かったら、もうちょっとそういう感情に浸れたんだけどな!
これあれじゃん! 店が一番食べ物で遊んでねえか!?
……とまあそんな恥ずかしい事が有りつつも、最終的に無事完食。
予想通り半分は俺が食べた。
先輩の別腹は本当にサブの胃袋って感じで、全然入らないみたいだった。
……後日聞いた話によると、晩御飯全然食べられなかったらしい。
俺はしっかり晩御飯食べました。
食べ盛りだからね。
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