第22話 文芸部員と勝利の後

「もし……もし気が変わったら、その時は何時でも言って。それが一か月後でも二か月後でも。一年後だって、話は聞くから」


 野球部との対決に勝利した後、グラウンドを去る前に田山先輩からそんな言葉を掛けて貰えた。

 ……一年も経てば今の二年生を中心に、武藤を始めとする一年生が加わったチームが形になっている筈で、そんな状態になった時でも遅くないと言ってくれるのは、物凄く幸せな事なんだろうなと思う。


 だけど今の所、自分の選択に後悔は無くて。

 後悔が無いという事は引き返すつもりも無くて。


 きっと俺は最後まで文芸部員なんだろうなと、そう確信する。



 そしてそれから。



「いやーなんとかなりましたね」


 文芸部の部室に戻ってきて、道中買ってきたスポーツドリンクを飲みながらそう言うと、安心したような声音で先輩は、自分用に淹れたお茶を飲みながら言う。


「す、凄かった……圧勝……か、格好良かった……」


「あ、圧勝……か。まあ結果的にそんな感じにはなりましたね。良かった良かった」


 格好良かったと面と向かって言われるのが少し恥ずかしくて、圧勝という言葉に食い付いて話を進める。

 中学の時に試合で活躍しても、それが女の子にチヤホヤされたりなんて方向には直結しなかったし慣れてない。

 現実は厳しい。


 で、今回は漫画みたいな現実離れした強引な勧誘対決の末にこれだ。

 今朝から野球部絡みで起きるイベントが全部漫画みてえ。どうなってんの野球部。

 というかどうなってんのウチの部活全般。変な部活一杯じゃん。



 ……しかし圧勝とは言いつつも……実のところ圧勝とは言い難いか。

 少なくとも武藤相手だと、フォークが無きゃ仮にあの打席を抑えられてもその先で攻略されていたと思う。

 そのフォークですら仮に一試合完投して三打席程勝負した場合、多分攻略されていた。


 まだまだ改善の余地有り。

 圧勝というには程遠い。


 ……まあもうこれで終わりで。

 改善の余地が有ろうと改善する事は多分無いのだろうけど。

 それこそやるにしても、趣味の延長線上での話だ。


 ……俺がこれから伸ばしていくべきスキルは、投球技術じゃないからな。


「とにかくこれで俺は文芸部員です」


 今後部誌を作ったりしていくんだから、まずは最低限書けるようにはなりたい。

 あと、小説投稿サイトか。


 昨日読んだ奴は面白かったし、あんな風に面白い物を書けたらとは思うわけだから。

 つーかもっと色々読まねえと。

 読まねえとっていうか読みてえし。


 まあとにかく、やれる事を一個一個やっていかないと。


 そして小さく息を吐いて、白井先輩は言う。


「うん、き、キミは文芸部員」


 そう言った先輩は俺の眼を見て、一度反らしてから……それでも再び真っ直ぐ俺の眼を見て言葉を紡ぐ。

 今朝の言葉を、改めて。


「文芸部、選んでくれた事……後悔はさせない」


 ……後悔、ね。


「改めてになりますけど、よろしくお願いします」


 するわけがない。

 自分で選んだ選択に。

 自分で勝ち取った選択に。


「うん……よろしく」


 後悔なんてある筈がない。


 小さい頃からそうしてきたように。

 自分で物事を選ぶっていうのは、きっとそういう物だ。

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