第21話 陰キャ先輩と認識の改め
野球部の二年生や一年生の一部と共に勝負を観戦していた陽向は、後輩の活躍を見て思わず息を飲んだ。
(……凄い)
陽向自身、野球の事はあまり知らない。
持っている朝陽から聞いた話や、たまに夕食の際にテレビに映されていた野球中継から得た物だけで。
だから後輩の実力について漠然と凄い人という知識や認識しか無かった。
それ故に現実的に勝てる勝負だと思い込み、それを否定されれば本気で焦り、この勝負が始まる直前までも、実際に自分が戦う訳ではないのに心臓がバクバクと脈を打っていた。
そんな素人の漠然としたイメージは、眼の前の事実を眼にした事で明確な物へと変わった。
ああ、本当に凄い人だったんだなと。
そしてどうやら赤羽が勝ったらしいタイミングで、心底残念そうに小さく溜息を吐いた田山が呟く。
「……勿体無い。多分、いや、絶対……プロにだってなれる逸材なのに」
今なら分かる。
その言葉が誇張でもなんでもない事は。
そして勝負が終わってマウンドを降り、こちらに駆け寄ってくる赤羽の姿を見て、改めて沸いてくる。
昨日、朝陽から彼の話を聞いた時にも沸いた罪悪感。
彼を文芸部へと導いた要因の一端であるという罪悪感。
……本当は赤羽圭一郎という後輩を自分の元に置いておいてはいけないのでは無いのだろうか?
そんな思いが募る。
だけどそれ以上に。
それこそ昨日と同じように。
そんな人が自分の居る文芸部を選んでくれたという嬉しさや優越感のような物が覆いかぶさっていく。
そして赤羽は陽向の前までやってきて笑みを浮かべた。
「勝ちましたよ、先輩」
……果たして本当にこれで良かったのか。
どうなる事が正しかったのか。
どうであれその答えはそう簡単には出てこないだろうけど。
その言葉に笑みを浮かべてしまったり。
突き出された拳に躊躇無く拳を軽く打ち付けたりした辺り。
どうなって欲しいと思ったのかは、あまりにも分かりやすい。
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