第18話 文芸部員とVS野球部 上

 放課後、俺は白井先輩と共にグラウンドへと足を運んだ。


 いきなり勝負という訳にもいかないので軽くウォーミングアップしながらベンチで不安そうに見学する白井先輩を一瞥。


 うん、田山さん含め何人かの野球部のメンツに囲まれてる形になっている訳だけど、アウェー感が凄い。

 借りてきた猫みたいになってるんだけど。


 と、こちらの視線に気付いた白井先輩は、こっちは大丈夫という意思表示でもしたかったのか、引きつった笑みを浮かべながら小さくダブルピースを向けてくる。

 なんか急に如何わしい絵面になったな。


 で、そんな先輩を見てちょっと笑いそうになったのを堪えながらウォーミングアップを済ませ、最後に肩を作る為にグラウンドの端に用意されたブルペンで投球練習を行う。


 捕手をしてくれるのは三年生で主将の岩井先輩だ。

 そしてこの後の守備に着いてもらうのも皆三年生となる。


 岩井先輩から聞いた話によると、今回の俺の件については野球部も一枚岩で無いらしく、岩井先輩を始めとする三年生は、やる気があって自分から入部してくる奴ならいくらでも歓迎だけど、無理矢理連れてこられた奴にレギュラー争いをさせるのには反対との事だった。


 ごもっともな話だと思う。

 俺みたいなモチベーションの人間が、限られた席の奪い合いに参加するのはきっと良くない。

 とにかく、そういうスタンスで居てくれて助かった。


「だから全力でお前を勝たせる」


 そう言ってくれたこの人は、最悪の場合ボールを受けてくれるだけの敵になる可能性が有った。

 きっとこの人は各部員の得意不得意を知っている筈だから。

 立ち位置次第で強力な味方にも最悪な的にもなり得た。


 そして十数球の投げ込みを、三年生のギャラリーの前で行い準備完了だ。

 そう、周りに居たのは三年生だけ。

 今回戦う二年生の先輩方は敵となる訳で立ち入り禁止だ。


 ……じゃあ白井先輩居るべきなのこっちじゃね?

 とは思ったけど、全く知らないであろう三年生連中の所にいるより、田山さんや一応一言二言は会話を交わした事がある二年生に囲まれていた方が安心なのだろう。


 いや、どうだろう。やっぱ笑顔引きつってるし……あ、田山先輩からお菓子貰ってる。餌付けかな?

 あ、自然な笑顔。

 ちょろいなあの人。


 と、向こうのベンチに視線を向けていると気付いた。


 いつの間にかその中に武藤が加わっている。

 まさかアイツも出てくるのか? 一年なのに?


 ……だとしたら厄介な奴が来やがったな。


 とはいえ誰が来ようと全力で勝ちに行くだけだ。


 昼休みに白井先輩から送られた、負けないでという言葉。

 それがまだ胸の中で響いている。



 ……勝つぞ。

 俺が文芸部員である為に。

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