第17話 陰キャ先輩と応援 下

 先輩の相変わらずの奇行を見た俺は、自然と肩の力が抜けて笑ってしまった。


「出ましたね、伝家の宝刀」


「そ、そんな大層な物じゃない……お、玩具だし。き、効いたりしないし……だけど」


 白井先輩はスマホに視線を落として言う。


「願いが叶ったら良いなっておまじないのつもりだったのに……何の力も無い筈なのに。き、キミは二回も願いを叶えてくれた」


「見学していけってのと、部活は入れって奴ですね」


「うん……だから」


 そう言ってスマホから視線をこちらへと向けて白井先輩は言う。


「こ、これを使ってキミを応援したら……また叶えてくれるんじゃないかって。うまく行くんじゃないかって」


 ……なるほど。


「……確かに、俺達にとっては最強の必勝祈願アイテムかもしれませんね」


 事実、当然の事ながら先輩の催眠アプリは効かない。

 あの時見学に参加したのも俺が文芸部に入ったのも、俺なりに正当な理由があって。最終的に決め手となったのも先輩の言葉だった筈で。

 催眠アプリなんかは、先輩に対し妙な親しみやすさを付与させた面白アイテムの一つでしかない。


 だけど大事な選択をした際に、その都度それがそこにあったのなら。

 それを田山さんには使わず俺だけに使っているのであれば。


 間違いなくそれは俺達文芸部が前へ進む為の、立派な願掛けアイテムだ。

 そしてそれを使って応援された訳だから。

 おまじないをかけてもらったのだから。


「よし、頑張って叶えますか。文芸部秘伝の催眠アプリおまじないパワーで」


 やれるだけの事をやって前向きに勝ちを目指そう。

 前向きに。

 ……応援のおかげか、先程よりも心が軽い。


 とにかく先輩のおかげだな。


「が、頑張って!」


「ええ。頑張るぞー!」


「お、おー!」


 気合を入れる為にお互い右手を上げ合って、ふと思う。


「……」


「……」


「いや……な、なんかもう辞めた身とはいえ、そんな訳分からないパワー主体で勝つのはなんか嫌ですね」


 このまま良い話風に纏めるのも何か違う気がしてきた。

 勝負へのモチベーション云々は別として。

 それはそれとしてである。


「……と、というか文芸部秘伝の催眠アプリおまじないパワーって……も、もう何部か分からない……それもなんかやだ。す、スピリチュアル研究部みたいだし」


「……スピリチュアル研究部?」


「きょ、去年まであった部活……でも廃部になった」


 部員不足かな?


「あ、赤羽先輩が潰した」


 何やってんの馬鹿姉貴。


「……弟として関係者に菓子折り持ってかないと」


「い、いや、寧ろあの時はウチらがひ、被害者から菓子折りを貰ったというか……」


 いやスピ研何やらかしてたの?

 雲会といいこの学校の文化部自由奔放すぎでは?

 

 ていうか今気付いたけど、文芸部がアグレッシブだったって話、もしかしてこれか。


 ……ほんと此処何部だよ。


 まあとにかく、応援のおかげか緊張は解れた。


 負ける気がしないとまでは言えないけど、それでも。

 きっと大丈夫だって。

 そう思えてきた。

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