第16話 陰キャ先輩と応援 上

 約束を取り付けた田山先輩が部室を出ていった後、右手でボールを握るような仕草をしながらイメージする。


 ……いやほんと、大丈夫かこの勝負。


 時間が経つにつれ焦る気持ちが強くなる俺に対し、意外にも白井先輩の方が余裕そうな表情だった。


 まあ比較的、というかこの人にしてはって前置きは必要かもしれないけど。

 そしてそんな様子のまま問いかけてきた。


「け、圭一郎君……勝てる……よな?」


 恐る恐るというよりは、確認するようね感じの問い掛け。

 ……この人、俺よりも状況を楽観的に考えてるな。


「あ、朝陽も凄いって言ってたし、凄いからか、勧誘もあんなに来るわけで……」


 そう言って期待感を向けてくれる先輩に対し、俺は小さく溜息を吐いてから答える。


「勝算は十分にあると思います。だけど必ず勝てるとは言いません。正直どう転ぶか分からないです」


「……わ、分からない?」


「確かに自分で言うのもアレですけど、ああやって熱心に勧誘してくれる位には強いんだと思いますよ」


「な、なら……」


「だけどそれはつい先日まで中学生だった、高校一年の新入生の枠組みの中での話です」


「……ッ」


「例えば俺の直球は平均したら145前後位なんですけど、これは高1の春って括りならトップクラスな自信があります。でも三年生まで含めた中で見れば全然です。甲子園なんか見てたら今の時代150超えは全然珍しくない」


「……」


「そして田山さんは甲子園出場を冗談抜きで狙ってる眼をしていました。当然そういう強い相手と戦う想定だってしてきている筈です」


 言いながらスマホを取り出し、ネットで去年秋の地区予選の結果を調べる。

 ……確かに一回戦負けではある。

 一回戦負けではあるが、それでもそれなりに名前を聞く所相手に接戦を繰り広げての負け。

 ……そこから約半年、更なるパワーアップを重ねているだろう。


 いやこれほんと大丈夫か?

 考えれば考える程自信が無くなってくんだけど。

 そもそも向こうはパワーアップしてるけど、俺の方は受験勉強の片手間の自主練しかしてねえしさ。

 厳しいってこれ。

 

 そして俺の話を理解したのか、先程まではある程度の余裕を持っていた先輩の表情が、さーっと血の気が引いたようにみるみる悪くなっていく。


 ……参ったな。

 安心させてあげたいけど、こんな話をした手前大丈夫です、なんて言っても気休めにしか聞こえないだろうし。


 そういう風に大変な事が積み重なっていく中、思わず俯いて小さく溜息を吐いたところで先輩が口を開いた。


「あ、あの……け、圭一郎君」


 名前を呼ばれて顔を上げ、そちらに視線を向ける。

 そこにいたのは……既視感がある怪しい画面が映し出されたスマホを。 

 例の催眠アプリが起動したスマホをこちらに向けた先輩だ。


 そしてそれを向けたまま先輩は言葉を紡いだ。


「……ま、負けないで」


 縋るように願望を、おまじないに乗せるように。

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