二章 文芸部と野球部

第9話 野球少年と朝のルーティーン

「ねっむ……絶対睡眠時間足りてねぇ……」


 早朝、眠い目を擦りながら自室のベットで体を起こした俺は、体を伸ばしながらそう呟く。

 昨日あの後食事や風呂を挟みつつ、ゆっくりと借りたラノベを読み進めた。


 勿論気に入って借りてきた事もあり読む事に苦痛などはなく楽しく読めはしたけども、やはり本を読むという行為に対する経験値が絶望的に足りない。


 続きが気になるから最後まで読む。

 全300ページ程を最後まで読む。


 それを自分のペースでやった結果、その分睡眠時間が犠牲になったという訳だ。


 とはいえ悪い時間の使い方では無かったと思う。

 早く続き読みてえ。


「……さて」


 眠い事に文句を言っていても睡魔が飛ぶわけでもない。

 このままやる事をやってしまおう。



   ◇◆◇


 日課のランニングを済ませ家に帰って来ると、キッチンで姉貴と出くわす。


「ランニング?」


「正解」


「アンタそれ、野球部の朝練が始まるまでの自主練の一環って言ってなかったっけ?」


「まあ言ってたな」


「なんでまだやってんの?」


「習慣になってるからな。運動部に入らねえと日常的な運動をしないってもんじゃねえだろ」


「…………ねえ、アンタやっぱりなんか──」


「姉貴、昨日から真面目な感じ出しすぎ。そんなんじゃ今から一年持たねえぞ」


「私が普段から不真面目みたいな言い方止めてくれる?」


 言いながらアームロックを仕掛けてくる姉貴。


「い、痛い痛い痛い! 折れ……折れるって!」


「野球やんないなら折れても問題無いでしょ」


「日常生活って言葉知ってる!?」


 そんな絶妙に怪我しない程度のパワーによって繰り広げられたプロレスを経由し、朝のルーティーンを終えた。

 ……この言い方だと姉貴の暴力喰らうのがルーティーンみたいで嫌だな。

 あと流石に姉貴が暴力女みたいに聞こえるから失礼……失礼かな? 妥当な侮辱では?


   ◇◆◇


 朝食を済ませた俺は最寄り駅から高校方面行きの電車に乗り込んだ。

 家から近い高校を選んだとは言っても、別に近所という訳ではない。

 近所にあるのは学力バカ高進学校だから、中の中程度の俺の学力的に……ね。


 ……学力バカ高進学校、略してバカ高か。偏差値低そうだな。


 やや眠いせいかそんな訳の分からない事を考えながら揺られていると、半分程埋まっている車両内で、思わず目を見開いた。

 

「先輩だ」


 長椅子の隅の方でちょこんと座りスマホを見る小柄な女子。間違いなく白井先輩だ。

 それを確認して自然と歩み寄る。


「先輩、おはようございます」


「……」


 目の前で話しかけてるのに、スマホに夢中で気付いていないようだ。

 なんか隙だらけで不用心だ。色々と心配である。

 とりあえずもう一度。


「先輩、おはようございます」


「ひょえ!?」


 びっくりしたように声を上げる先輩。でもボリュームは小さい。TPOが守られていて偉い。


「な、なんだ。圭一郎君……か。びっくりした」


「そんなに集中する程、面白い物ありました?」


「い、いや、普段声とか殆ど掛けられないから……ウチじゃないなって」


 理由が悲しい。

 ちょっと同情して泣きたくなっていると、先輩が自分の隣をポンポンと叩く。


「と、隣空いてる……座れば?」


「じゃあお言葉に甘えて」


「あ、ありがと」


「今お礼言われる事しましたっけ?」


「と、隣に知らない人座ってきたら……怖い、から。壁になってくれた……お礼」


 この人満員電車に放り込んだら死にそうだな。

 良かったね、比較的田舎で。

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