転生したら百合エロゲのモブキャラだったので、百合を見守ろうと決意したのに主人公とヒロインに好かれて困ってます

笹塔五郎

第1話 百合エロゲの世界

「ボクね……君のことが好きになってしまったかもしれない」


 ――そんな告白を受けた私、リオラ・ヴァンテルはただ困惑するしかなかった。

 カーテンを閉め切って少し薄暗くなった部屋の中で、話し方は少年のようだけれど――間違いなく少女であるルイン・アーベルトに押し倒されている。


「いきなり、こんなこと言われるのは迷惑かもしれないけれど……」


 そう言って、少し儚げな表情を彼女は見せた。

 迷惑――そんなことはないのだけれど本来、告白されるべきは私ではないはずなのだ。

 私は――攻略対象ではないモブのはずなのだから。


「え、えっと……その、気持ちは嬉しいんだけど」


 私は言い淀むことしかできなかった。

 気持ちは嬉しい――つまりそれは、彼女の気持ちを受け入れることはできない、というような物言いだ。


「そ、そうだよね……。女同士で、こんなこと言われるのは――」

「いや、そこは全然問題じゃないです」


 ルインの言葉を遮ってまで否定してしまう。

 ――だって、それは仕方のないことだ。

 私は『百合』が好きだから。

 女同士だからとか、そういうことは否定できない。


「! じゃあ、ボクのことが嫌い、とか?」

「それも絶対にない!」


 合わせて力強く否定してしまい、私はハッとしてしまう。

 これでは――告白を断る理由がなくなってしまうではないか、と。


「……なら、ボクの気持ちに答えられない理由を、聞かせてくれない?」

「それは――」


 ――言えない。

 私は前世の記憶を持っていて――私が知っているこの世界が、発売を楽しみにしていた百合エロゲの世界と同じなどと、どうして言うことができるだろう。

 そして、目の前にいるルインがその百合エロゲの主人公であり――本来は、ヒロインがいて結ばれるべき存在がいるのだ、と。

 正直、誰と結ばれるのかなんて分からない。

 だって、ここはゲームに似ているけれどゲームの世界ではなく、今生きている現実なのだから。

 私は、あくまで前世の記憶を思い出してしまっただけのモブなのだから。

 ――いや、だからこそなのかもしれない。

 ここはゲームと違うのだから、ヒロインと結ばれるとは限らない……?


「拒絶しないのなら、いいってこと、だよね?」


 ルインはそう言って、私を静かに押し倒す――迫られる選択。

 ここは百合エロゲ――つまり、この後の展開は決まっている。

 ベッドの上ですることと言えば、つまり『そういうこと』だ。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 私はただ……『百合』が見ていたいだけのモブキャラでよかったのに。

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