第36話 僕、究極の一撃を叩き込みます。
あけまして、おめでとうございます!
本年も宜しくお願い申し上げます!
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ドッグポーカーが造りし国境線上の長城。
高さ二十メートル、長さ五千キロ。
その全てを、一撃で破壊する。
凄いな。
女神様が連れて来てくれたこの場所、ここにある点穴しか、長城の全破壊は出来そうにない。
丁度ど真ん中、聖殿のように左右対称に位置するこの場所こそが、応力が走る場所。
「おお、そうじゃ」
「どうかしましたか?」
空中で横になっていたかと思うと、楽しそうに真っ赤な瞳を僕へと向ける。
「どうせならの、カウントダウンをしたいのじゃが」
「……、どうぞ、ご自由になさって下さい」
「クカカッ、では、あの娘にしてもらおうかの。拡声魔法、発動じゃて」
国家解放記念のイベントなんだ、壊れる瞬間のカウントダウンは欲しいのだろう。
しばらくすると、シャランの声が周囲一帯に響き渡った。
『僭越ながら私、シャラン・トゥー・リゾンが、カウントダウンを行いたいと思います!』
わああああああああああああぁ!
待ってましたあああああああ!
きたきたきたきたあああぁ!!
すっごいな、歓声だけで長城が壊れてしまいそうだ。
点穴がズレないように、よく見ないと。
大丈夫? という視線をシャランが飛ばすから、力強く頷いておいた。
準備もいい、いつでもいける。
『いきますよー! 長城破壊まで……カウントダウン! 十! 九! 八! 七!』
シャランによるカウントダウンが始まると、皆も共にカウントダウンを始めた。
この場にいる誰もが、長城の破壊を望んでいる。
五百年もの間、鎮座し続けた巨大な建築物は、終わりを前にして何を思うか。
『……六! ……五! ……四!』
略奪と差別の象徴。
建設当時は、そんな風に思われるなんて、これっぽっちも思わなかったはずだ。
人を守りたい。その想いが五百年という月日を超えて、今もなお引き継がれていた。
でも、それも今日、役目を終える。
『……三! ……二! ……一!』
人は変わることが出来る。
失敗を繰り返しても、その都度反省し改めればいい。
呼吸を止める。
点穴から走る応力、加算される一撃、長城の吐息、命。
『…………ゼロ!!!』
終わりにしよう。
僕達は、未来を手にするんだ。
「イフリーナ流奥義」――――「
全身を流れる力をコントロールする。
この三か月の修行は、応力の制御だけではなく、僕の全身の力を制御させるに至った。
大地から足、足から膝、膝から腰、腰から胸、胸から首、首から肩、肩から腕、腕から拳。
全てを揺るがす一撃が、応力となって長城を走る。
一秒 一撃で、僕の前にあった長城が一瞬で消し跳ぶ。
二秒 左右千キロまでヒビが走り、どこまでも繋がっていく。
三秒 中央部分から崩壊が始まり、左右二千キロまでヒビが入る。
四秒 砂になるも形を保持し、長城の東西の終わりまでヒビが入る。
五秒 長城の端から端まで全てが砂状と化し、崩壊が始まる。
そこから崩れるまで、十秒。
五百年、ドッグポーカーを守り続けた長城は、たったの十秒で全て崩れ去った。
皆が崩れた長城に歓声を上げようとした瞬間。
ドッゴオオオオオォッ!! と、崩れた長城から巨大な顔が出現した。
「我が名は魔人ナベリウスッッ!! 我が築きし長城を破壊した愚か者が、万死に値するッッ!!!」
魔人ナベリウス。
なるほど、五百年前に長城を建築したのは魔人だったのか。
歴史に記されなかった新たな事実だな。よし、殺そう。
でも、そんな僕よりも速く動く人の姿があった。
魔人の手首が炎で包まれると、万歳をした時のように両手を持ち上げられ、宙に浮いた。
引きずり出された魔人の下半身はとても小さく貧弱で、屈強な上半身との落差が凄い。
「せっかくのお祝い気分に、水を差しちゃダメよね」
僕よりも早く動いたのはマーブルさんでした。
白い上下に別れたローブ、袖と裾に赤いラインが入っていて、とっても可愛いデザインだ。
彼女の大きい胸を強調するようにぴったりとフィットし、お腹の部分はくびれた腰が露わになっている。
声も雰囲気も間違いなくマーブルさんだ。
だけど、紫色だった髪が、前髪だけ真っ白に変色している。
瞳の色も白だ。白濁とした瞳は、これまでの彼女ではない。
「後は任せて、強くなった私を見せてあげるから」
一歩踏み出すと、彼女は呪文を唱える。
「
彼女はその瞬間、人間を辞めた。
真っ白に加熱する肉体、炎を身に纏った彼女を見て、魔人ナベリウスも叫ぶ。
「炎の魔人、貴様! イフリーナの眷属か!」
「あら、眷属なんて、それもいいかもね」
「ふざけるな! 五百年前、我とイフリーナは不可侵協定を結んだはずだ! それを破るというのであれば容赦はせん、容赦はせんぞおおおおおッ!」
長城があった場所から無数の魔物が出現する。
サソリ型から獣人型、ゴーレムにウルフに、もう何でもござれだ。
「皆殺しだ! イフリーナに与する者は皆殺しにしてくれるわ!」
「……メギドゲート」
長城のあった場所に、炎の門が出現する。
「炎門よ、爆炎と共に我が敵を滅せよ」
炎の門が開くと、真っ白な光が照射され、魔物が一斉に燃え始める。
凄まじい熱波、こんなの直射されたら、生物は死に絶えるしかない。
「本当に残念よね、神にも悪魔にもなれたのに」
「雑魚を倒したぐらいで、調子に乗るなよ小娘がッ!!」
魔人ナベリウスは両腕の枷を強引に外すと、マーブルさんへと飛びかかる。
でも、それを見ても、マーブルさんは涼やかな表情を崩さずにいた。
「魔人とは、崇高な存在でなくてはならないの。暴力に溺れ、人を殺すことしか考えられない無知蒙昧な貴方に、魔人の敬称を語って欲しくない。だから、もう二度と、私の前に現れぬよう、徹底的に燃やし尽くしてあげる」
白く輝く両腕を前に差し出すと、マーブルさんは二本の腕を一本へと合体させた。
「ジャン、見ててね。私もう、負けないから」
それだけ言い残すと、マーブルさんはより一層輝きを増していく。
「これが、今の私にできる、唯一無二の極大魔法よ」
白、どこまでも突き抜ける白が、世界を包み込んだ。
呪文の詠唱が、聞こえてくる。
『かの者は言った! 我を超える存在は無し、我を抜き去る存在も無し! とこしえの彼方から訪れる深淵すらも無意味! 白色に燃え盛る極星、この世の全ての熱を発するもの! 見よッ! これが最後の光だッッ!!』――――『〝白色
白の中に白があって、それが幾重にも連なり世界を構築していく。
吸い込まれそうな衝撃、世界を飲み込もうとする熱が、魔人ナベリウスを拒絶する。
やがて白は姿を消し、魔人ナベリウスがいた空間のみ、円形に白炎が残った。
それまでの全てが燃え尽きてしまった。
魔人も、魔物も、何もかも、全部。
残るは青空と、白い雲のみ。
「凄い、たった一発の魔法で、魔人を」
凄まじい威力だった。
僕が見た魔人王ガーガドルフの跡地、あれ以上の魔法を、マーブルさんは繰り出したんだ。
「
白光した肉体を人へと戻すと、赤白いローブが彼女を包み込んだ。
目に掛かる白髪を掻き上げると、彼女は
「どう? 私も結構やるでしょ?」
「はい、さすがです」
「ふふっ、ありがと。じゃあ、しばらく気絶するから、後はお願いね」
笑顔のまま、マーブルさんは僕へと倒れ込んできた。
びっくりして受け止めたけど、既に彼女の意識はない。
寝息を立て、すやすやと眠りについている。
そんな様子を見て、女神様はやれやれと嘆息をついた。
「まだまだじゃの」
「いえ、それでも充分凄いです。魔人に一人で勝てたのですから」
死を経験した彼女が再度魔人に立ち向かう。
どれほどの勇気と、どれほどの恐怖だったのか。
マーブルさんを思うと、僕も負けていられないって、奮起しちゃうよ。
「それにしても、教えてくれれば良かったのに」
「何をじゃ?」
「魔人ですよ。長城に潜んでいるの、知っていたのですよね?」
「クカカッ、あれぐらい対処できんようでは、魔人王ガーガドルフの屈服なんぞ、夢のまた夢じゃて」
本当かな。今回ばかりは疑っちゃうよ。
「ほれ、祭りの主役がいつまでもここにいてはあかんじゃろうて」
「……そうですね。じゃあ、今日は楽しむことに徹底したいと思います」
「クカカカカカッ、明日からは主をガーガドルフを超えるよう特訓を開始するでの。今日が最初で最後の祭りじゃと思うがええぞ」
またそういう怖いことを言う。
でも、そうか、長城の破壊は始まりでしかなかったんだっけ。
なんだか、やり遂げた感が凄いんだけど。
「ジャン!」
でもま、今日ぐらいは、達成感に酔いしれてもいいよね。
これだけの人に囲まれてのお祭りなんて、今後の人生で味わえないかもしれないのだからさ。
~第五章 粉砕! 国境線の大長城 完~
【次回予告】
長城を破壊し、皆が強くなった。
次なる目的の為に、三人は動き出す。
~終章 逃亡譚は、まだまだ続く ~
次話『僕、彼女の点穴を見ます。』
明日の朝7時、年始も休まず公開予定です。
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