第12話 僕、鉱石なら砕けます。
『絶対に許さんぞ、人間共がああああああああああああああぁ!!!!』
うわ、すっごい怒ってる。
でもビックリしたよ、まさかシャランが捕まっているだなんて思いもしなかった。
多分、アレが魔人って呼ばれる奴か。
アレが、勇者ソフランを。
僕、よく尻尾斬れたな。
さすがは父さんが使っていた盾斧、譲ってくれたお師匠さんに感謝だ。
「……」
シャランは気を失っているみたいだし、高台にいるマーブルさんも無事っぽかった。
他の人は、ちょっと、分からないけど。
よし、とりあえず全速力で逃げよう。
僕が戦って勝てる相手じゃないし。
それにしても、さっきの魔法、凄かったな。
あんなに綺麗な爆発見たことがないよ。
でも、それ以上に凄いのは、魔獣にくっついていた鉱石だ。
あれだけの爆発だったのにヒビひとつ無かった。
本気で叩かないと割れない鉱石とか、生まれて初めて体験したよ。
父さんに見せたらどれだけ喜んでくれるかな、今から楽しみ。
『人間ッ! この
速い、いきなり目の前に飛んできた。
そしてなんか、いきなり語り始めた。
『極刑ッ! ゴミムシの権化たる人間の雄に下されるは、四肢をもぎ取ったのち、可能な限りの責め苦を与え訪れる絶対なる死ッ! 肉体を破壊し、貴様の魂を悪霊にし、腐敗者として復活させ、幾光年彼方の未来永劫まで、この
――――ゴッ。
いきなり殴られた。
父さんの拳骨並みに痛い。
でも、痛いだけだ、そんなでもない。
『……』
「……」
『……?』
あれ? 殴ったのにって顔をしている。
もしかして、今の本気?
魔人の攻撃って、実は大したことない?
いや、違う。
そうか、魔法だ。
勇者ソフランも魔法で炭にされたんだ。
魔人っていうぐらいだもんな、魔法がきっと強力なんだ。
どうしよう、さっき尻尾を斬る時に盾斧は投げちゃたし。
やっぱり、逃げないと。
『……ふっ、どうやら、いつの間にか我が力を抑えてしまっていたらしいな。この
回り込まれた。
速度が半端じゃない。
『そうか、人間の雌を抱きかかえていたからか。魔人王ガーガドルフ様への忠誠心が、知らぬ内に我が力を抑えてしまった、ということか。クククッ、この
魔法だ、ヤバい。
『喰らえッ!』――――『響き渡るは死疫の奏〝千殺必滅〟ロスト・トーテンッ!』
真っ黒な空間から骨だけになった人間が沢山現れて、僕達を掴もうとしてくる。
これ、掴まれて引きずり込まれたら、帰ってこれないんじゃないか。
「くそ、離せッ!」
世界が、闇に包まれる。
凄い、もう、骨の海じゃないか。
何万人分っていう数の骨が、僕達を埋め尽くしてくる。
ダメだ、飲み込まれる。
『捕縛し、滅せよ』――――『〝魚座の鎮魂歌〟ポワッソン・レクイエムッ!!』
沢山の骨に捕縛された僕達の前に、二対の魚の形をした骨が姿を現す。
とても大きくて、肉体は存在しないのに、口の中は真っ黒。
真っ黒な口の中から光が発射されると、骨ごと僕達は吹き飛ばされてしまった。
凄い威力で、身体ごと地面の奥底にめり込んでいく。
シャランを傷つける訳にはいかない。
僕は土や石、岩なら、一瞬で砕ける。
「ぐうううううぅッ!」
石の流れや、砂の感触を味わっている暇もない。
全速力で、超高速で地面を掘り進むんだ。
――――
魔法解除。
ふっ、この
我が魔法は最強、これも全て魔人王ガーガドルフ様の御力。
……。
……む?
しまった、あの雌まで殺してしまったか。
……。
……ま、まぁ、いいだろう。
ガーガドルフ様に献上した所で、無残に殺されるが宿命。
死ぬのが少々早くなったに過ぎん。
翅を広げ、破壊してしまった大地を見下ろし、我が力に陶酔する。
『この、
……。
……はぁ。
……。
……むむ? 地面の奥底、烙印の反応が微かにあるではないか。
我が魔法を喰らいながらも、生きながらえたということか?
ふむ、恐らく、あの人間の雄が盾になり、雌を庇ったということか。
『クククッ、見上げたレディファーストな精神ッ! 人間の雄、この
地面にある穴、この穴の奥から烙印を感じる。
ほっと、わが胸をなでおろす。
これで、魔人王ガーガドルフ様にも謁見が出来るというもの。
しかし、あの大魔法を喰らいながらも、よくぞこの様な大穴を掘れたものだ。
あの人間の雄、我が一撃をも耐えたのは、真のことだったのやもしれんな。
『クククッ……』
しかし、狭いな、我が肉体では、這いずりながらでないと奥に進めんぞ。
どれだけ堀ったというのだ、先が見えん。
――――ズンッ
……なに? 光が消えた。
穴の入口が、塞がっただと?
這いずりながら戻るも、足の裏が何かにぶつかる。
ググッ、ダメだ、ビクともせん。
重い、重すぎる。そして硬い、どれだけ蹴りつけてもビクともせん。
入口だけではない、周囲一帯が硬くて出られんぞ。
グッ、これはまさか、超生命体鉱石魔獣のメテオライト鉱石か!
あの人間の雄が、この穴周囲一帯をメテオライト鉱石で埋めたというのか!?
反対側の出口も――――ぬううう、しっかりと埋めてあるではないか!
出られん、この狭苦しい穴から出ることが出来んぞッ!
まさか、我はこのまま、出られないまま終わる――――
『とでも、思っているのか、この馬鹿者がああああぁ!』
――――鉱石と肉体を融合させ、穴を塞ぐ表面へと顔を移動させる。
人間の雄と雌の姿がすぐ目の前にある、クククッ、目の前にあるではないかッ!
『このメテオライト鉱石は我が肉体と同じ! 我が生み出した鉱石で我が死ぬとでも思ったのか! 融合すればこの身体は何度でも復活し、蘇ることが出来る! つまり! この
「……なるほど、その身体は鉱石なんだね?」
なんだ? 人間の雄が、拳を振りかぶっているが。
『まさか、拳でこの、
「鉱石なら、割れるッ!」
――――ンゴッ!』
くっ、くそ、名乗りの最中に殴るとは……ん?
鈍い衝撃が、身体全身を走っている。
鉱石と融合したこの肉体が、割れた?
『ぬぐぐっ、ぬぐおおおおおおおおオオオオオオォォォォッ!?』
割れただけではない、コイツが突いたのは、鉱脈の
鉱物に存在する点穴、そこを突かれた物質は流れに沿って破壊される!
だがしかし! この鉱石の点穴は、鉱石の中央部分にあるッ!
人間が、しかも拳で点ける場所には存在しないッ! しないはずなのにッ!
『まさか、このメテオライト鉱石を破壊出来る人間がいるとはッ! この
「せいっ!」
『グブッ! 貴様ッ! 名乗りを止めるなぞ、騎士として恥を知れぃッ!』
「僕は騎士じゃない、石工職人なんだから、我慢しろッ!」
ふざけるな、石工職人だと!?
この
『それだけは、それだけはあってはならないッ! 敗北は万死に値する恥辱、この
「もういい加減、喋るなッ!」
『ウゴッ! お前! 名乗らせろ! この血――――』
「うおおおおおおおおぉ!」
ドッ、ドゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!!!
『ちょ、ちょっと待て! 我が肉体が! だが、破片でも残れば!』
「破片は握る!」
メギシィッ!!!
『なにいいいいぃッ!? 人間の握力で、メテオライト鉱石を握り潰しただとッ!?』
ありえん、こんなこと、絶対にあってはならない!
我が肉体が、メテオライト鉱石が、人間如きに砕かれるとはッ!
「これで、終わりだああああぁ!」
絶対なる死の拳が、我に迫るッッッ!!!!!!
『うぬぐっ、うぬぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉッッ!!! チクショウ、チクショオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッッッ!!!!!』
【次回予告】
ジャンの力は、魔人を超える。
次話『僕、街の人から感謝されるらしいです』
明日の朝7時、公開予定です。
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