朝の院内パトロール 2
朝起きると吾輩はまずタカトシの顔の上に座る。
もちろん奴の寝相によっては頭の上、あるいは耳の上ということもあるが小事はどうでも良い。とにかくタカトシの上に座り、飯を催促する。
それにしても我らの手指というのはなぜこうも使い勝手が悪いのだろう。
こんな尖った爪と短い指ではハサミも使えないし、好物である缶詰のプルタブを引くこともできない。
もちろんキャットフードの袋を噛み破って中身を食うこともできるが、それは後々面倒なことになるのでやらない。非常時なら別だが。
とにかく腹が減っても自分で飯を用意することができないというのはなんとも不便なものである。
まあしかし、ハサミが使えないなら人間を使えば良いのだ。
吾輩が顔の上に座ると、タカトシは決まって奇妙な雄叫びをあげてから起き上がる。そして寝惚けた面をしてフラフラと怪しげに足を運び、置き皿にキャットフードを入れる。
これで難なく朝飯にありつけるというわけだ。
人間を使うのはこうも容易い。
ただし気をつけなければならないのはタカトシが愚かにも吾輩の好みに関してあまり気を配らないという点である。任せておくと時々大変なことになってしまうのだ。
いつだったかずいぶん前のことだが、度々病院を訪れるなんとか製薬の何某かという男が新商品ですと置いていったサンプルフードを入れられた。
高い嗜好性。
低カロリー。
低アレルゲン。
謳い文句は上々だったが、これがまた過去ワーストスリーに入るほどの不味さだった。普段、食い物の良し悪しに頓着しないさすがの吾輩もこれには参って、半分も残してしまった。ただ幸いなことにタカトシが吾輩の不興に気がついたようで、それ以降、このキャットフードが皿に乗ることはなくなった。
が、しかし油断はできない。
また新しい試供品が手に入ったなら同じことが起きる可能性がある。
想定外は想定しなかった者の言い訳だ。
そう考えた吾輩は深夜のうちにゴソゴソと好みのフードをくわえて箱から引きずり出して、皿の上に乗せておいた。
もちろんこの作戦は成功した。
吾輩はこれ以降、食事は自分で選ぶことにした。
これならタカトシも寝ぼけ眼で選ぶ手間が省け、吾輩も美味しい飯が食える。
これぞウインウインの所作なり。
ただし、当初しばらくはタカトシがこれしきのことを珍しがって誰彼かまわず吾輩のその行動を言いふらしていたのには閉口した。
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