scenario

かもめ7440

第1話

綺麗きれいだ。

他に適当な形容詞が浮かんでこない。

潮の匂いが緑色のともし火のようなうみ

善悪が融着した、黎明ひので

水平線から不逞な自由の象徴シンボルたる太陽が昇ろうとし、

薔薇色の空が波の鱗に反射して、執着も悲哀も性も抜かれ、

かような謬着物こうちゃくぶつをもぎ取られている透明な空気は、

無限の空間を感じさせ―――る。


無政府狀態アナーキーって言うのか、これを・・・・・・。

無政府狀態アナーキーって言うのか、君は・・・・・・。


  *


ふと、映画シネマのことを思い出し―――た。

度重なる核戦争で荒廃した世界。

人類は、地底の避難所シェルターでの生活を余儀なくされていた。

その中のシティ

外界への気密扉エアロックは半世紀前に閉じられている。


―――・・)


  *


電子擬態をこらした機械マシン

それも思考回路にたった一瞬流れたに過ぎない彗星・・。

人工化学物質アーティフィシャル・ホルモンを打ちこんだ人造感覚、

本物か虚偽か見分けのつかない映像網マトリックス

暗号と記号に満ちた会話と体系システム―――。


奇怪な制度を持つ管理社会に、

地球の空洞や、

のようなものが存在する。

藉由點閱網路廣告アフリエイト―――だ。

寄り添い、捻じ曲がる、

植物のように柔軟性じゅうなんせい・・・。


―――妄想は物語の中にある、

まったく違う物語をつくりあげる餓えた時計。

悲劇的な卵型の空間・・・・・・・。


  *


次の絵へ進む。

美しい珊瑚礁の海底。

そこには色とりどりの魚たちが棲み、幻想的な空間を形成する。

不確かな触手をさしのべる。

燈飾イルミネーション

鍵穴までひろがっている―――んだ・・。

様々な影響力をなめして、幻に溶かしてい―――る。


―――読取開始スタート・レディング


  *


物語は急展開する。

ほとんど流れない粘りつくような光沢を放つ腐った運河にも、

浅く走っていく水の小さなひらめきが、魚の鱗のように重なり合う。

愚かな独裁者と蜂起者達レジスタンスの闘い。

それは深刻な内乱へと発展ステージチェンジする。

残された唯一の環境の中でさえ、人は争い、奪い合う。

石川啄木の『はてしなき議論ぎろんのあと』という詩を思い出す。

様々な種類の音が波のように寄せたり引いたりし、

時々それに混じって自分の心臓の鼓動が聞こえる。

心臓がまるで巨大な営みの内の一つなんだと叫んでいるようだ。

何処から何処へ流れてゆくかも知れない、

地上を這っている爬虫類のような無感情。

臨時演員エキストラ多餘的エキストラ補貼エキストラ

大きく拡がってゆく隔絶感覚。

多くの犠牲を払い、独裁者は倒されたその日でさえ―――も。


(白いくっきりとした、輪郭へ手を伸ばす・・)

(手を伸ばしている内に、僕の記憶は急激に過去へと遡って―――)


  *


や、

LSDやによる

誰かが悪魔を呼び出す呪文を唱え続けているみたい―――だ。


火星でどうやって生きていくかハウ・ター・リブ・オン・マーズ

それが―――『正しい認識』だろう・・・・・・。


脳は、少しでも延命を図るために重要度の低いものから、

と機能を停止してい―――く視点ポイント・オブ・ビューになる。



  *


生命・情報・機械の区別が、

タや、

や、

によって、

擬態的な重合をはたしつつあった、

そして監視用のやぐらに遊泳可能を表す白旗しらはたように、

して―――ゆく、

強行突破という暴走機関車の選択。

―――選擇オプション

大きなに忍び込んで、

ばれないようにちゃっかりと子孫を残す

それらがと裏腹の、

グにもとづいて、

もはや官能が化しつつあった。


それは―――『故障こしょう』ないしは『破損はそん』なのだ。

変化とはつまるところ、綺麗な砂をぼろぼろこぼしながら、

永遠に帰らぬ世界へ持ち去られる―――・・・。


―――悪魔祓いエクソシズム


  *


(道は確かに塞がってゆくのだ、いや、そこに―――・・・)

(でも、そこにある道が確かに、塞がり、行き先を奪うのだ―――)


  *


次の絵へ進む。

陽の光の射さない深海。

降り注ぐ沈降雪マリンスノウ

そして、浮遊する透明な海月くらげ

色のない世界には恐竜の骨ダイノソー・ボーンが展示され、

埃及エジプト木乃伊ミイラが展示され・・、 

それは集合精神グループマインド

蟻の巣アントズ・ネストや、曼荼羅まんだらや、

ユング心理学を想起させる。

その奥底には戸籍謄本こせきとうほんのような、

人類の未熟な過渡期である前頭葉の記念碑がある。


  *


―――


何が『常識じょうしき』で―――。

そして何が『非常識ひじょうしき』であるかは、

時として区別がつかな―――い、導覽手冊ガイドブック・・・。


  *


独裁者が息絶える間際に、

遠い昔に廃棄されたはず―――の、

それこそ打ち棄てられた蛮人の槍のような、細菌兵器を使用した。

ものの崩るる音、亡ぶ響き―――。

想像していたことの最低でも百倍は呑み込まれそうな悲劇は、

恐怖という忘れ去られた人類の地獄へと突き落とし―――た。

地底の避難所シェルターは、その中のシティは、

もう、よる


蚊に刺された処女の太腿みたいな無垢―――だ、

決定性的一票キャスティングボートとでもいうべき、か、

それすらも神々が流させた無益な血―――。


―――そこには歩きづらい道がある。

―――それから曲がりくねった道ウィンディング・ロードが・・・。


  *


それでもそこから疫苗ワクチンの作成・・・・・・、

新人類しんじんるい』とか『超人類ちょうじんるい』の彼等は・・。

内紛の傷跡による避難所シェルターの機能の完全な停止と、

主人公以外は全員死んでしまうという、

空気の底のような鬱展開が始ま―――る。

夢の中で亡くなってしまった恋人は囁く、

「もうこれ以上頑張いじょうがんばらなくてもいい」と。

夢の中で亡くなってしまった友は囁く、

世界せかいわったん―――だ」と。

眼から醒めて、もうすっかり年老いてしまった彼は、

束の間の座椅類的彈性クッションを経て、

夢遊病者むゆうびょうしゃのように歩き出す、

―――あのとびらけるために。


 (黙示アポカリュプシス―――の世界・・)

 (―――どうしたんだい、

 みたいな顔して・・・)


  *


かつての生命の機構が情報系として、

を探りあてていったように、

水風船の破壊、の破壊、の果汁絞り、

飛び掛る、花のまわりを飛ぶ蜂 、火の―――。

主題をつねに人間の思考動向におき、

組み立てはを駆使。

無定形の渦巻。精神の迷路に迷い込む、

―――火傷重傷後嚴重的疤痕ケロイド

邪悪なもの、醜怪なもの―――うようよとうごめいている潜在意識。


  *


―――

が、

一斉射撃いっせいしゃげきとばかりに放出されてい―――る。

低解像度の映像―――単純なの出力。

温かい空気は上に行く。

純白の明晰な―――。

その、の方へ、

顔無かおなしの方へ・・・・。


目覚めざめると波音なみおとみみはいってく―――る・・・。


  *


次の絵へ進む。

悠然と泳ぐ海豚イルカの群れ。

水の面が小砂を投げたように痺れを打ち、

白っぽく粉が吹いたように凪いでいる紺青の海。

波間から射す光は木漏れ日のように、

銀河を圧倒的な量感で複写してい―――る。

光の文様は瑠璃色の酒瓮みわ


  *


世界中の風景・情景を1/87スケールで再現している、

があったらいいなと思う―――んだ・・。

音響心理評価実験みたいな、呼吸こきゅうおとがしていた。


  *


銀行の金庫室よりもさらに厳重な外界への気密扉エアロック

半世紀も放置された扉は重い金属音と共に開き始める。

鮒のように跳ねあえぐ逆説、

つまり人の常識性をくつがえすような不確定要素が、

北極星でありうる所以ゆえん

避難所シェルターに残された最後の電力を使い、

ついに地上への道は開け―――た。

存在証明アイデンティティをとらえきれない。

行動原理がひたすらに見知らぬ銀河ギャラクシーに迷い込んでいる。

躊躇わずに一歩踏み出す。

から脱出した、

もちろん死を覚悟していた。

墜落の夢フォーリング・ドリームへの急速潜航・・。

―――地上ありしひのばしょへ。


  *


初めて見る大地。

初めて吸う大気。 

黒や、鳶色、青、緑、そして金色こんじきへとうつりかわる瞳・・。

空を駆けるとりさえずり。

そこは、今まで信じていた世界とは百八十度違ってい―――た。

核の冬はもう終わっていたのだ。

途端に不在の強烈さ、分かち合う人がいないのを知りなが―――ら、

表示装置又は補助装置の電源投入・・。

なみだあふれる。


  *



ちりのような、けむりのような未来ゆくすえ

僕はを踏みたい。

でも世界は、を踏みたい。

お互いの意志は跳ね返ってゆく。

細かい砂、不均一な黒のある陰鬱な影に染められてゆく。

方向チェンジ・オブ・転換ディレクションが必要だった。

たとえ、世界のはしっこに、

取り残されたような気分のまま過ごすとしても・・・。


「まぶしすぎる海は銀や金、あるいは光の塊であり、

エアロゾルだとか透明人間・・・・・・」


空気ポンプ式の玩具の蛙が跳ねる。

人類のたゆまぬ歩み? 叡智えいち

―――えた可能性かのうせい・・・えてゆく選択肢せんたくし・・・・・・。


  *


遠くから潮が満ちてくる―――。

遠くには、違う世界の岸がある・・・・・・。



ある日の僕達は本当の意味で自分を見つけたいと願ったことがある。

世界は問い掛けるに値するほど中身のあるものではなかったけれど。


―――もっと頼りなく、弱々しい、何枚もの薄紙。


いや、それは透明な硝子かも知れない。

それを重ねたもののように、臆病に思えた。

本当の自分、素直で正直な自分、

いつも真摯に語りかけようとし―――た。



―――だれかと。


  

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scenario かもめ7440 @kamome7440

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