牛乳の話
かもめ7440
第1話
牛乳を飲むと、やれ「死亡リスクが減る」とか、
「大腸癌、前立腺の癌、乳癌になりにくい」とか、
「骨の健康と骨粗鬆症になりにくい」とか、
「低脂肪乳製品をよく消費することは、
高血圧と脳卒中のリスク低減と関連している」とか言う。
ただ、全死因死亡原因を調査したところでは、
どんな関連性もない、というのを改めて理解して欲しい。
すごく初歩的なことだけれど、
「牛乳が好き、牛乳の味が好き」という前提があると、
そこには「リラックス効果」や「健康効果」もある。
哺乳類は生まれた直後は消化器系が未発達かつ小さいため、
母乳を飲んで成長する。
母乳はミネラル・脂肪・ビタミン、そしてラクトース(乳糖)を、
豊富に含んでいる。それらの栄養素に加えて、
感染から身を守る働きを持ち体内の免疫系を正常化してくれる、
抗体や蛋白質も豊富に含んでいる。
さまざまな栄養を持つ母乳を作り出すのは母体に負担が掛かる。
人間の子供は成長するにつれて、母乳を摂るのをやめて、
大人と同じものを食べるようになる。
「生まれた直後は母乳で育ち、次第に大人と同じものを食べるよう成長する」
というのは、人類において長い間変わることもない不変の摂理だった。
しかし、約一万一〇〇〇年前、人類は農耕を始め、
乳を採るために山羊や羊や牛などの家畜を飼い始めたことで、
「母乳で育つ」という過程に変化が生じた。
これらの家畜は、人間には食べられないが豊富に存在する雑草を食べて、
栄養豊富かつ美味しい食べ物に変換してくれる生き物だった。
まだ生き残ることが困難だった時代において、
ミルクは優秀な食品だった。
そうする内に、「ミルクを摂取する」という文化を有するグループには、
遺伝的な変化が生じるようになった。
その変化は、ラクターゼという酵素にまつわるもの。
幼児のときにはラクターゼを体内で産生可能で、
乳糖を分解してミルクを簡単に消化できた。
しかし、遺伝的変異が発生していないグループは、
成長するにつれてラクターゼは体内で産生できなくなる、
「乳糖不耐症」になる。
乳糖不耐症の人は、一日に一五〇ミリのミルクより多くの、
乳製品を摂取しても消化することができない。
すなわちコップ一杯分ぐらいしか栄養が摂れないという人がいる。
世界的にみると約六五パーセントの人が乳糖不耐症。
内訳は偏っているが、東アジアなど約九〇パーセントに達する地域もあれば、
ヨーロッパやアメリカのように、
乳糖不耐症の人がほとんど存在しない地域もある。
ちなみにこれが僕の考える絶対に信じていい牛乳の情報だ。
ここまで書くといくらか言いすぎなところはあるけれど、
様々な健康効果にメリットやデメリットを与えるほどのものは、
一つもないんじゃないか、と。
そういうのって鵜呑みにせず、そうであったらいいな、そういう効果もあるらしいな、
と突き放して受け止めた方が絶対に心の平和につながる。
それに、ミルクにある栄養成分も信じてよい、
各種栄養素がバランス良く含まれた準完全栄養食品という事実をだ。
牛乳といえばカルシウムを思い浮かべるが、それだけではなく、
蛋白質、脂質、炭水化物、ミネラル、ビタミンが、
バランスよく含まれている。
いつぞやゴルゴ13氏が牛乳を飲んでいたけれど、
あれは、全国牛乳普及協会の広告(二〇〇九年)
牛乳の栄養価の高さを啓蒙する広告だ、
何しろ僕がニヤニヤしてしまうのでいけない。
ただ、「牛乳を飲まないと健康になれない」という大きな間違いだ、
政府酪農的牛乳信者の誕生。
残念ながら、ありとあらゆる知名度のあるもの、宗教だ。
前述したように、乳糖不耐症の人や、アレルギーを持っている人もいる。
そうでなくとも、「牛乳の味が嫌い」という人はいるものだ。
そういう人にとって、飲みたくもないのに、
わざわざ牛乳を飲むという苦労が生じてしまう。
そんな健康生活の在り方そのものが、前時代的と言わざるをえない。
「牛乳が好きになれるようにすることが第一」で、
たとえばバニラやシナモン、はちみつを加えたり、
フルーツと混ぜてスムージーにすること、
牛乳の風味を柔らかくして美味しく感じられる。
カレーライスと牛乳の組み合わせを筆頭に、カステラと牛乳、
餃子の後の牛乳、コーラと牛乳によるミルクコーラとかね。
もちろん料理に使うことで自然と牛乳を摂取できるし、
カフェラテやミルクティーとして楽しむのも、
牛乳の風味を好きになる一歩だ。
全然関係ない話をしてもよいなら、
牛乳は「コロイド溶液」と言われ、液体の中にタンパク質や脂肪が、
粒子となって存在している。冷蔵庫で保管しているうちに、
脂肪の粒子同士、タンパク質の粒子同士が集まりたがるので、
飲む前に振ることで本来の美味しさに戻るという話がある。
というような話をするのは、おそらく牛乳における健康効果は、
場合によっては大抵が見当外れといっても差し支えないと思うからだ。
これは論文や研究あるあるで、
十年前はこうだったけど五年後別の答えになり、
そして昨年実はどちらでもなかったことがわかりました、というようなね。
その五年後、十年前がやはり正しかった、というようなことも有り得る。
ただそういう中でも、妊娠時に牛乳を飲むのはよいことだ。
カルシウムは赤ちゃんの骨や歯の形成に必要な大切な栄養素だ。
とはいえ、妊娠時に急に牛乳が飲めなくなる人もいるらしいけどね。
あと、妊娠時の食べるものがお腹の子供にどう影響するか、
つまり牛乳ってどうなのか、
というような大変デリケートな問題もある。
酒や煙草はよくないと知られていて、
飲みすぎなければカルシウムが手軽にとれる牛乳はよい飲み物だ。
ただ飲み過ぎがどうしてよくないかっていうことだけど、
牛乳を毎日五〇〇ミリ以上飲むと、
腸管からじわじわと出血し、鉄欠乏性貧血になることがある。
これは、乳幼児から中・高校生に稀に見られるわけだけれど、
妊娠時はむしろ貧血予防に鉄分を取っていった方がいいので、
飲み過ぎは止めた方がいいだろうという見解だ。
それゆえ十代の内は牛乳を飲んだ方がいいというけれど、
分量は二〇〇ミリ、
毎日飲む習慣がおそらくベストな選択肢だと思う。
また牛乳の飲み過ぎは脂肪の多量摂取になるというのも、
これは外せない問題だろ―――う。
大人のお姉さんや、お兄さんの自棄牛乳ならそれはいいのだ。
また牛乳だってピンからキリ、嗜好品としての牛乳の時代は来ている。
僕だって自棄煙草というかニコチンを摂取したくて、
たまらないことがあるのだ。え、それはただのニコ中?
あと、牛乳のパックを開いて干してリサイクルして地球にやさしい、
というような話があったけど、
牛のゲップのメタンガスは二酸化炭素の二五倍もの温室効果があるし、
家畜排泄物による悪臭や水質汚染といった環境問題の発生があり、
排泄物を積み上げて放置するといった「野積み」や、
地面に穴を掘り貯めておくといった「素掘り」など、
排泄物の不適切な処理や管理を行う農家もある。
また自然環境では牛は十年から十五年ほど生きられるが、
乳牛の平均寿命は五、六年ほど。
役目を終えた後の乳牛は処分されて、食肉になる。
もちろん乳牛は産まれてすぐに母親から隔離され、
妊娠期間が終わるたびに人工授精によって妊娠させられ、搾乳される。
牛乳パックを開いた如きでお前は何をヌカしているのかと、
純粋に述べたい気持ちもあるが、
もちろん、それはそれ、これはこれだというのもわかっている。
心掛けは大切だし、継続は力なりだ。
これからは合成牛乳の時代も来るかも知れない。
しかし、無加工状態でタンパク質と栄養素の含有量で牛乳に匹敵するのは、
豆乳のみ。オーツ麦飲料やアーモンドミルク、
ライスミルクなどはビタミンやカルシウムなどの栄養素を添加している。
さらに、遺伝子改良したバクテリアによって、
「栄養的に牛乳と同等な人工乳」を、
生み出すスタートアップ企業も現れている。
この科学生成された人工乳ならば、
植物由来の人工乳で作ることができないチーズも生産可能だ。
味気ないという気はするけれど、環境への影響は少なくなるだろう。
牛乳の話 かもめ7440 @kamome7440
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