第5話(最終話)
翔太は、優馬の家のインターホンを鳴らした。しばらくして、玄関から優馬が顔を出した。翔太を見て言う。
「達也、遊びに来てくれたの?」
「うん。今、お邪魔してもいいかな?」
同級生の達也に変装した翔太は、優馬の家を指さして尋ねた。
「いいよ、上がって」と優馬。
翔太は、優馬の部屋に案内された。
そこには、以前に見た時よりも大幅に成長したドラゴンの姿があった。体重は小型犬ほどありそうだ。皮膚の凹凸、羽、角も、以前より大きくなっている。顔つきは、以前よりドラゴンらしくなっていた。飼育ケースに入れられてはいるが、翔太は足がすくんだ。
これ以上成長すると、手に負えなくなるだろう。今すぐ殺さねば。恐ろしいが、勇気を出して倒さねば。翔太は自分に言い聞かせる。
「どうしたの?達也。なんか震えてない?」
優馬が言った。
「なっ、なんでもないよ。ちょっと寒くて……」
翔太はごまかす。目的を遂行までは、さとられてはいけない。
「暖房入れようか?」
優馬が尋ねた。
「ああ、お願い」と翔太。
「じゃあ、物置からヒーターを出してくるよ」
優馬はそう言って、部屋から出ていった。
今がチャンスだ。翔太は、ドラゴンが入ったケースに歩み寄った。ロックを外し、扉を開ける。ドラゴンに手を伸ばした。
ドラゴンは、翔太の手から逃げようと暴れた。しかし翔太は、素早くドラゴンの背中をつかんだ。そしてケースから取り出し、床に叩きつけた。ドラゴンは苦しげに、高い鳴き声をあげた。
翔太はさらにドラゴンを攻撃する。今度は、床に倒れた相手を踏みつけた。家中に大きな音が鳴り響く。
するとドラゴンが、かん高い鳴き声とともに、口から炎を吐き出した。炎は翔太の顔に命中した。
「熱っ!」
翔太はのけ反る。
その隙に、ドラゴンは体勢を立て直した。そして、翔太の脚に噛みついた。
「うわぁぁぁっ!」
翔太は叫んだ。
ドラゴンは、翔太の脚の肉を噛みちぎった。傷口から血が流れ出す。翔太は床に倒れこんだ。ドラゴンは、さらに攻撃を続けようとした。
その時、優馬がヒーターを持って戻ってきた。部屋の光景を見て、声を上げる。
「達也!ドラちゃん!何してるんだ!達也を襲うな!」
そう言って、優馬はドラゴンの体をつかんだ。
その手から逃れようと、ドラゴンは身をよじる。そして、優馬の顔に噛みついた。そのまま、先ほどよりも強力な炎を口から放った。優馬の顔は燃え上がった。
「優馬!」
翔太は叫ぶ。
優馬は床に崩れ落ちると、動かなくなった。首より上は、跡形もなく灰になっていた。
「優馬!おのれドラゴン!これ以上の犠牲を出さないために、絶対倒してやる!俺が前にいた世界のようにはさせない!」
翔太はそう言いながら、ドラゴンの方へ向かおうとした。しかし、脚の怪我のせいで、思うように動けない。
そんな翔太をよそ目に、ドラゴンは外へ出ようとしていた。窓ガラスに向かって火炎放射をする。窓ガラスは溶けて、穴があいた。そしてドラゴンは飛び立ち、そこから出ていった。人間に敵意を持ったドラゴンは、世界に放たれた。
「ちくしょう!」
翔太は床をたたいた。
ドラゴンの火炎放射によって、優馬の家には火が回り始めていた。
「早く脱出しなくては」
翔太はつぶやく。しかし、やはり脚の怪我のせいで、思うように動けない。
「苦しい……。熱い……。誰か……助けて……」
視界がぼやける。翔太の意識は、だんだんと遠のいていった。
雷鳴が轟いた。林が燃え上がった。
ドラゴンを飼う者 川砂 光一 @y8frnau4
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