第4話

 優馬は自宅で、ドラちゃんを眺めながら微笑んでいた。

「ドラちゃん、素敵だなぁ。かわいい。かっこいい。愛おしい」

 ドラちゃんにそうささやいた。

 その時、インターホンが鳴った。優馬は玄関に行き、ドアを開けた。

 そこには、1人の少年が立っていた。変わった服装をしており、幻想的な雰囲気を感じさせた。優馬を見ると、彼は口を開いた。

「こんにちは。私は、異世界にあるムーンルナ王国の使者です」

 優馬は驚く。

「えーっ?!異世界?!凄い!本当にこんなことがあるんだ!魔法とか使えるんですか?」

 少年が答える。

「木と木をこすり合わせて火をおこす、という魔法なら使えます」

「そんなの魔法じゃないよ!」と優馬。

「冗談はさておき、お聞きしたいことがあります。この世界にドラゴンがいるか、知りませんか?」

「ドラゴン?」

 優馬は聞き返す。

「はい」少年は答える。「事情を説明しますと、今、私たちの国は、魔王によって脅かされています。人々はこき使われ、ときには食われ、苦しんでいます。今まで何人もの勇者が魔王に立ち向かいましたが、全ていとも簡単に殺されてしまいました。そして我々は、次のような結論に達したのです。『魔王を倒せるのはドラゴンしかいない』と。

 しかし、私たちの世界では、すでにドラゴンは絶滅してしまいました。そこで、別世界からドラゴンを連れてくることになったのです。もしご存じなら、ドラゴンの居場所を教えていただきたいです」

「そうですか、それは大変ですね。しかし、あいにく僕は、ドラゴンの居場所を知りません」と優馬。

「幼体は、トカゲと間違えられることも多いようです。ドラゴンのようなトカゲを見た覚えもありませんか?」

 少年が尋ねるが、優馬は答える。

「ありませんね」

「本当にありませんか?」

 少年はもう一度尋ねた。

「ありませんって、言ってるでしょう」と優馬。

 すると、少年が声を荒げて言った。

「とぼけないでください!ドラゴンを飼っているでしょう!」

「飼ってませんよ。なんで、飼っていると思うんですか?」

 優馬は、少年に尋ねた。

「ええと……それは……その……」

 少年は言い淀む。

「言えないってことは、何か裏があるな」

「う、裏なんてありませんよ。その……あれだ。この前占いを受けているのを、見ていたんですよ」

 少年は弁明した。

「ああ、そういうことか。でも、知っていたなら、なんで『ドラゴンがいるか知りませんか?』って質問したんですか?」

 優馬は問い詰める。

「それは……質問した時は、あなたがドラゴンを飼っていることを忘れていたんですよ」と少年。

「ふーん、釈然としないなあ。

 まあ、どの道、うちのドラゴン?は渡さないよ。ドラちゃんっていうんだけど。ドラちゃんを、危険な目に遭わせたくないからね」

「そこをなんとか。魔王を倒さなければ、ムーンルナ王国の民に幸せは訪れないのです。家族を殺され嘆き悲しむ子供の姿を、何度見たことか」

 少年は必死に訴えた。

「嫌だ。ドラちゃんは、戦いの道具じゃないんですよ。絶対に渡しません」

 優馬はかたくなに断る。

「私たちを見捨てると言うのですか。渡してください!お願いします!」

 少年は懇願した。

「嫌なものは嫌だ!渡さない!」と優馬。

「くそっ。わかりましたよ、この馬鹿野郎!」

 少年はそう吐き捨てると、優馬の家から去っていった。

 やっと帰ったか、と優馬は胸をなで下ろす。そして、ドラちゃんのところまで行き、話しかけた。

「僕の大切なドラちゃん……」


 優馬の家から去った翔太は、異世界人の変装をしたまま、川辺を歩いていた。辺りには、風が吹きすさんでいた。

「今回も失敗か。まあいい。次、頑張ろう。チャンスは、まだまだあるんだ」

 翔太は、薄曇りの空を見上げてつぶやいた。雲の向こう側に、白い太陽の姿がぼんやりと見えた。

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