第3話
優馬は慌てて家を出た。もう少しで学校が始まってしまうのだ。
「あと5分か。やばっ!急げ!」
優馬は駆けだす。すると声がした。
「ううっ……、しんどい……。誰かたすけて……」
見ると、人が倒れている。見たところ、50歳くらいの男性か。大丈夫だろうか。たすけた方がいいだろうか。
しかし、早くしないと学校に間に合わない。仕方がない、見て見ぬふりをしよう。優馬はそう考え、倒れている人の前を通り過ぎた。
すると、その人が叫んだ。
「こら!苦しんでいる人を、見て見ぬふりする気か!」
「ああ、すみません。どうされましたか?」優馬は足を止めて言った。「僕、早くしないと学校に遅れるので、手短にお願いします」
「それはこっちのセリフだ!家を出るの、遅すぎるんだよ!」
倒れている人が怒鳴った。
「え?」と優馬。
「ああ、いや、なんでもない」倒れている人が言う。「それより、私は今、ドラゴンみたいなトカゲの血を飲まないと死ぬ病気にかかっているんだ。今すぐ飲まないと死んでしまう。どこかにドラゴンみたいなトカゲがいないか、知らないか?手に入れば、そのトカゲから血を抜いてすぐに飲みたい。血を抜く器具は持っている」
「そんなことして、血を抜かれたトカゲは大丈夫なんですか?」
優馬は尋ねた。
「必要なのはほんの少しの血だから、そのトカゲが死ぬことはない」と倒れている人。
(僕のペットのドラちゃんは、ドラゴンみたいなトカゲだな。でも、ドラちゃんの血を抜かれるのは嫌だな。この人は「死ぬことはない」って言ってるけど、人に預けるのは不安だし……)
優馬は考える。すると、倒れている人が言った。
「私の妻は、昨年強盗に殺された。私が死んだら、幼い1人娘には身寄りがいなくなるんだ。どうかたすけてくれ」
(やっぱり、この人を見捨てるのは心が痛むな)
そう思い、優馬は言った。
「ドラゴンみたいなトカゲなら、僕が飼ってますよ。血を分けてあげましょう」
「本当か?!ありがたい。じゃあ、今すぐそのトカゲを持ってきてくれ」
「僕の大事なペットなんです。大切に扱ってくださいよ」
「ああ、わかった」
優馬はドラちゃんを取りに、家の中へ戻ろうとした。
そこへ、1人の人物が通りかかった。そしてその人物は、倒れている人に話しかけた。
「私は医師です。あなた、大丈夫ですか?」
「ああ、お構いなく。ちょっと調子が悪くて」
倒れている人は、手を振って言った。
「この人は、ドラゴンみたいなトカゲの血を飲まないと死んでしまう病気に、かかっているらしいですよ」と優馬。
「なんですか、その病気は。詳しく診させてください」
医師は興味津々で言った。すると、倒れている人が、立ち上がって言った。
「あっ、なんか治ってきました。じゃあ失礼します」
「あっ、ちょっと待ってください」
医師が止める。しかし彼はそれにかまわず、足早に去っていった。
(なんだったんだ、あの人。無駄に時間を使ってしまった。あーあ、学校に間に合わないな)
優馬はうなだれる。
「君、あの人のことを知っているかい?」
医師が尋ねた。
「いいえ、知りません」と優馬。
「そうか、残念だ。せっかく、興味深い病気の人を見つけたのに。研究したかったなあ」
医師は、悔しそうな顔で言った。
「それじゃあ僕、急いでるんで。失礼します」
優馬はそう言って、学校へと向かっていった。
日差しが顔に照りつけた。優馬は目を細めた。
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