第2話
優馬は家を出た。すると、声をかけられた。
「そこのあなた。私は、よく当たる占い師です。今なら、無料で占って差し上げます」
見ると、道端にテーブルが置かれている。そして、その後ろに、占い師のような格好をした人物が座っていた。
「無料で占ってくれるんですか?!ぜひお願いします!」
優馬はそう言って、占い師のもとへ駆け寄った。
占い師は言う。
「まずは、あなたに関することを、いろいろ当てて見せましょう。あなたの氏名は……」
そう言って、占い師は優馬の氏名を言った。さらに続けて言う。
「中学2年生。得意教科は国語。昨日の休み時間に、刑事ドラマごっこをしていた。昨日の給食で、クリームシチューをおかわりした。小学生の時の将来の夢は、タイムマシンを作って過去へ行き、昔の人に現代の物を見せて驚かせること。お母さんは、『ですわでごんす』という語尾で話す」
「凄い!全部当たってます!」
優馬は驚いた。
「あなたはペットを飼っていますね」
占い師が言った。
「はい」と優馬。
「そのペットは、ドラゴンのようなトカゲで、あなたは『ドラちゃん』と名づけました」
「そうなんですよ。かわいいですよ、ドラちゃん」
「そのドラちゃんが、今、大変な危機にひんしているのです」
「なんですって!」
優馬は驚きのあまり飛び上がった。
「ドラちゃんにどんな危機が迫っているんですか?」
「ドラちゃんは、悪霊に取り憑かれているのです」
「悪霊?!」
「そう、悪霊です。その悪霊は生前、ドラゴンのようなトカゲにつまずいて転倒しました。そして、それが原因で死亡したのです。そのため、ドラゴンのようなトカゲを恨み、殺し回っているのです。
その悪霊が、ドラちゃんの命をむしばみ、死に追いやろうとしています。直ちに除霊しないと、ドラちゃんの命はありません。私は、除霊をするサービスも行っております。ご要望があれば、除霊いたします」
「お願いします!今すぐ除霊してください!」
優馬は頭を下げた。
「かしこまりました。今回は、あなたのドラちゃんを想う気持ちに免じて、特別に無料で除霊して差し上げます」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「では、ここにドラちゃんを持ってきてください」
「はい、すぐに連れてきます」
優馬はそう言って、家に駆け込んだ。
占い師に扮した翔太は、心の中でため息をついた。こんなに人が集まってくるとは。無料というところに惹かれたのだろうか。優馬にドラゴンの幼体を持ってこさせることが目的なのだが、ついでにこいつらも占ってやるか。適当に答えておけばいいだろう。
翔太は言った。
「次の方どうぞ」
1人の少年が前に出た。
「占って欲しいんだけど。俺って彼女できるかな?」
「できません。はい、次の方」
「僕が向いてる職業ってなんですか?」
「内閣総理大臣です。次の方」
「日本の経済は、これからどうなるんでしょうか」
「インフレになります。次の方」
「今度勝つ馬を教えてくれ」
「一番人気のない馬が勝ちます。はい、次の方」
「宇宙人に会いたいです。どうすればいいですか?」
「もうすでに会っていますよ。私たちも宇宙人です。次の方」
「占いの弟子にしてください」
「嫌です。次の方」
「私の運勢を占ってください」
年配の男性が言った。
「200年後に、もの凄い不幸に見舞われます。次の方どうぞ」
翔太は言った。
1人の女性が前に出る。
「私の趣味を当ててみてください」
「ランニングです。はい、次の方」
「違います。ランニングは趣味じゃありません。正解は、にらめっこです。この占い師、いんちきだ!」
女性は翔太を指差して叫んだ。場がざわめく。
「いや、いんちきだなんて……」と翔太。
その時、ドラゴンの幼体を持って戻ってきた優馬の声がした。
「えっ!いんちきなの?!この占い師さん」
「そうですよ。私の趣味を当てられませんでしたから」
女性が言った。
「なんだって!そんなやつに、ドラちゃんを預けるわけにはいかないな。ドラちゃんに、一体何をしようとしてたんだ、いんちき占い師め!」
優馬は怒りの表情で言った。
「そうだそうだ!」
人々が加勢する。
「私は危うく、200年後のもの凄い不幸におびえて、これからの人生を生きていくところだったんだぞ!ひどいじゃないか!」
先ほどの年配の男性が、声を荒げて言う。
(やれやれ、今回も諦めたほうがよさそうだな)
翔太は思った。そして言った。
「あっ、ちょっと用事を思い出しました。この辺で失礼します」
テーブルと椅子を畳んで、両脇に抱える。そして、背中に罵声を浴びながら、そそくさと去っていった。
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