第7話 強制連行

 秋口の夕方のこと。


 薄暗くなってきた頃に、リサから電話がかかってきて「今から迎えに行く」と言われました。


 僕はまだ何も答えていませんが、電話を切られたので、仕方なく準備をします。そうしないと、電話だけでは済まなくなるので、もう行くしかないんです……。


 車にはリサと見知った男友達が2人乗っていて、どこへ連れて行かれるのかも分からないまま、僕も車に乗り込みました。


 なんとなく嫌な予感はしていたのですが、30分くらいして止まった場所は——隣町にある廃校でした。


「えっ、ここ?」思わず呟くと、何言ってんだこいつ、みたいな目をしながらリサは車を降ります。何も聞いてないので、僕は廃校に行くことを本当に知らなかったんですけどね。


「え〜。行きたくないんだけど……」


 僕は心霊スポットとかには、行かないようにしてるんですよ。リサはそれを知っているはずなのに、なぜかたまに連れて行かれます。


 廃校はちゃんと管理されているようでしたが、1階にある調理室の窓が開いたので、僕たちはそこから入りました。おかしなものが視えませんように……。俯いて、みんなの後ろを歩きます。


 校舎の中は机も椅子もなくなっていて、カーテンもついていませんでした。何もないので荒らされなかったのかもしれません。


 3階まで全部歩いても特に何も起こらず、僕たちは外へ出ました。もう外は真っ暗で、冷たい風が吹いています。木がザワザワと音を立てて揺れるのが、嫌な感じだなぁと思いながら見ていると、離れた場所で、バン、バン、バン、と音がしました。車のドアを閉める音だと思いました。


 あ、ヤバい。早く行かなきゃ。と思い歩き出したのですが——乗ってきた車は動き出しました。大ピンチです。


 急いで追いかけると、もう見えなくなるギリギリ、といったところで車は止まりました。ずっとブレーキを踏んだままで、バックしてくれる気配はありません。おそらく揶揄われているのでしょう。


 しかし、追いついて車のドアを開けると、なぜかみんな無言でした。そのまま帰って、リサを降ろして、3人だけになった時。


「ふざけて置いて行かれたのかと思ってたけど、なんかリサの機嫌が悪かったよね?」


 と訊いてみました。すると。


「いや、ガチでお前のこと忘れてたみたいだよ」


「早く車を出せってうるさいから出したんだけど、あおいがまだ乗ってないって説明して、何とか止まったんだよね。はは……」


 友達2人は疲れた様子で、力無く笑いました。リサが意地を張って、僕を忘れたことを認めなかったのでしょう。



 忘れるくらいなら、連れて行かないでください。



〈つづく〉

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