第6話 雨の日に呼び出し
雨が降っている日の夕方。女性はマンションの入り口で傘を畳み、中へ入った。
古いマンションの廊下は薄暗い。エレベーターの中だけが明るく照らし出されているのが、少々不気味に感じる。早く部屋に入りたい。そんなことを考えながらエレベーターへ向かうと——柱の影に、白い服を着た男性がいることに気がついた。
「ひっ」と言葉にならない声が漏れたが、気付いてることをアレに知られてはいけない。
女性はエレベーターには乗らずに、横にある階段を駆け上がった。
雷が鳴り出した頃、男子高校生がマンションへ帰ってきた。
傘を持っていなかったので、制服もバッグもびしょ濡れだ。「最悪……」呟きながらエレベーターへ向かう。また母さんに怒られる。不貞腐れながら前髪を掻き上げた時。
柱の影から白いものが、ふわりと出てきた。
「うわっ!」叫ぶのと同時に勢いよく立ち止まり、靴の裏が、キュッ! と大きな音を立てた。
よく見ると、白い服を着た男性が立っている。男性は俯いて、何かを呟いているようだ。薄暗いはずなのに、顔は紫色に照らし出されている。
視てはいけないものを視てしまった。男子高校生はエレベーターには乗らずに、静かに階段へ向かった——。
心霊系ホラーのようですが、この『白い服を着た男性』は僕です(笑)
「友達の家でタコパをやるから来い」とリサに言われたのですが、言われた時間に彼女はまだ家にいたのです。そこから1時間ほど、僕は知らないマンションの入り口で待たされていました。
柱の影にいたのは、住人と会うのが気まずかったから。顔が紫色に照らし出されていたのは、見ていたアプリの画面が紫色だったからです。自分でも、完全に不審者だなぁとは思っていました。でもリサが来た時。
「うわっ。何やってんの、あんた。幽霊かと思った」と言ったんです。
そういえば不審者というよりは、幽霊に対する反応だったような……?
「あんたのせいで事故物件になったんじゃない?」
リサは笑いますが、別に僕のせいではないと思うんですよ。元はと言えばリサがあんな薄暗い場所で、僕を1時間も待たせていたのが悪いと思うんです。それと、とりあえず待たせたことを謝れ! まぁ、本人には言えませんけど……。
でも通りかかった人は怖かったでしょうね。薄暗い場所に、白い服を着た幽霊(僕)がいたのですから(笑)
マンションの皆さま、安心してください。僕は一応、生きています。
〈つづく〉
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