第3話 映える写真

 茹だるような暑さが続く夏のこと。僕はリサと滝を見に行きました。


 僕は涼しい場所を求めて。リサは、涼しげな風景を撮影して、SNSに投稿したいのだそうです。


 人が少ない早朝を狙って滝へ行くと、先客がいました。


 高い場所にある岩の上には、黒い服を着た男性が立っています。朝日を浴びて光り輝く水飛沫が綺麗だったので、その男性も写真を撮りに来たのだろう、と思いました。


「うわぁ〜、綺麗だねぇ。早く来てよかったよ」


 リサはそう言いながらカメラを構えましたが、それは確実に男性が写り込んでしまうアングル。


「SNSに投稿するんだよね? あの男の人が写っていると、まずいんじゃないの?」


 僕が男性を指差すと、リサはなぜか首を傾げました。


「はぁ? どこに男の人がいるの? 何言ってんの?」


 驚いた僕がリサの方を向いた瞬間、視界の端に、黒い塊が落ちていくのが見えました。そして、それと同時に、大きな石でも投げ込んだような、バシャン! という音が。


「今、滝壺に何かが落ちなかった……?」


 すごく嫌な予感がしました。全身に鳥肌が立っています。そして僕の嫌な予感はよく当たるんです。


 すると、リサは「あぁ」と声を上げて滝壺を見つめました。


「そういえばこの滝って、心霊スポットらしいよ」


「えっ。ここで亡くなった人がいるってこと……?」


「そういうこと」


 ——もしかすると、僕が視たあの男の人は、ここで亡くなった人なのかも知れない……。


 一気に寒くなって吐き気がしました。おそらく僕じゃなくても同じ反応をする人が多いはず。たぶん、視てしまったんです。


 というか、心霊スポット。リサは僕が心霊スポットには行きたくないのを知っているのに、なぜ連れてきたのでしょうか——。


 するとリサがため息をつきました。


「あ〜あ。惜しいことをしたよね」


「何が?」


「写真じゃなくて動画にしておけば、幽霊が飛び込むところが映ったかも知れないのに……」


 そう呟いた彼女の顔は、本気で後悔しているように見えました。食べたかったケーキが、売り切れになっていた時と同じ顔……。


 ——リサは幽霊を撮りたかったってことか? しかも、飛び込むところを……?


 彼女はSNSに投稿するためなら幽霊すらも恐れないようです。それに人の心もどこかに置き忘れてきたようです。


 飛び込むということは、その人はたくさん悩んで、追い詰められた人で。それなのにSNSに投稿したかったということですよね?



 幽霊より、キミの方が怖いんだけど。




〈つづく〉

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