第2話 誰のため?

 熱がある状態でしたが、なんとか運転をしてたどり着いた農園。


 最初は車で寝ておこうと思いましたが、喉が乾いていたので、いちごが美味しそうに見えました。リサもお金を出してくれると言うので、結局、僕もいちご狩りをすることに。


 いちごは冷たくて(熱があるから)甘くて美味しかったです。


 そしてふと気がつくと、リサがいませんでした。熟れたいちごを探しに行ったのでしょう。いつの間にか僕は、ぼっちになっていたのです。


 ぼっちカラオケはまだいいけど、ぼっちでいちご狩りは、ちょっとつらい……。


 ハウスの中を見まわすと、リサは遠くの方から、いちごをたくさん持って、僕の方へ向かって歩いていました。


 ——僕の分をとりに行ってくれたのか。


 さすがに熱があるので、優しくしてくれるようです。


 そして近付いてきたリサは言いました。


「ねぇ。ちょっとこれ、持っといて」


 スーパーで見るような、パックが4つ入ったいちごの箱を僕に渡します。僕が持っていた収穫用のパックは取り上げられて、近くにあった段ボールの上へ……。


「家族にいちごを買って来てって、言われたんだよね」


 そう言って、彼女はまたどこかへ行きました。


 ——だったら最初から、家族と来ればよかったんじゃないの……?


 だって僕は熱があるんです。それなのに運転をさせなくてもいいと思うんです。でも、恐ろしくて言えません。1つ何かを言うと、100倍くらいで返って来ます。


 結局それ以降は、いちごを食べることができませんでした。なぜなら荷物持ちをさせられて、両手がふさがっているから。




 リサを家まで送り届けた時、いちごがたくさんあったので「1パックちょうだい」と言ってみました。荷物持ちもしたし。他のお客さんに「かわいそうに」みたいな目で見られて心が疲れたし。


 するとリサが、スッと手を出しました。


「はい、800円」


 ——あ、持ち帰り分は金を取るんだ……。




 咳をすると血の味がしました。


 たぶん風邪のせいじゃなくて、ストレス。




〈つづく〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る