からふるでざいん
@atenamur
第1話 クロカワ ユミ
「そろそろ行くね。もうここには戻ってこないから、その、今までありがとう。」
「ええ、こちらこそありがとう。元気でね。」
最後に親と会話したのはいつ頃だったか、そんなことも思い出せないまま私は親戚のおばあちゃんの家に居候して、一ヶ月がたった。
「おばあちゃん、ただいま」
「おかえり、千花ちゃん」
学校から帰宅した私は大抵の場合、すぐに自分の部屋に戻るのだが今日は珍しく散歩をしたい気分だった。
すぐに制服を着替え、出発する用意をした。といってもジャージのズボンにTシャツを着ただけだ。
春が漂う今の季節ではこの格好でも十分に温かい。
珍らしく鏡の前に立ってみると、ストレスで白くなった鬱陶しい髪の毛が肩まで伸びていることに気がつく。
それをみると思わずため息が出てしまった。
伸びた前髪も、悪い姿勢も、親元を離れた時はまだ幾分マシだったなあ、なんて今更考えたところで苦笑するしかない。
そのまま財布をポケットの入れ、私は家を出た。
学校から帰ったのが4時半くらいなら今は5時くらいだろうか、30分弱の間に私が徒歩で移動できる距離なんて限られているし、周りの人や知り合いと鉢合わせるのも面倒なので、いつも人があまり入っていない繁華街の裏道をひたすら真っ直ぐ進んだ。
そこから歩くこと数10分、目の前にある建物が立っていた。地元の駄菓子屋さん程度の大きさの建物だ。
『黒川何でも屋』という看板がついていて、中に人気はなかった。
こんなところにあるんじゃ客は来ないだろう。
不気味に思った。けれど私の好奇心がおさまることはなかった。
「すいませーん、ごめんくださーい。」
そういって息を殺した建物の中に入る。
意外に中は掃除が行き届いていて人が生きれる場所だった。
「ええ!だれ?」
お店?何でも屋の後ろ側から同年代くらいの女の子が歩いてきた。
私は思わず目を見開いてしまった。その子があまりにも綺麗だったから。
青く透き通ったその瞳や、綺麗に梳かされた綺麗なピンク色の髪が靡くたびに芸術作品を見ているような気分になった。
「えっと、あの、何でも屋とお伺いして…」
女の子は嬉しそうな顔をして、「ええ?お客さん?あぁあと、その、いらっしゃい」
その子はにっこりと笑って私に座ってくださいと言い椅子を用意してくれた。
そして、私がその椅子に座った時、女の子も反対側に座り改めて喋り始める。
「私はこういうものでして、」そう言いながら私に名刺をくれた。
そこのは『黒川由美;黒川何でも屋オーナー』と書いてあった。
「わ、私は白波千花です」
そういって握手を交わした。
「では、早速本題に入りましょうか。何がお望みですか?」
からふるでざいん @atenamur
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