4 二宮さんはツンデレ
生徒指導室で高浜は体育科の宮本を前に話を聞かれた。
「どうやって屋上に入ったんだ」
「鍵が壊れてました」
「おまえは鍵が壊れていたら人の家にも入るのか」
「え……」
「おまえは屋上で二宮と二人で何をしていた。何をしていて金網にもたれたんだ。言えないのか」
「いや……」
「もし下に人がいたらどうなったか考えたか」
「すみません」
権兵衛が何とか人のいないところへ運ぼうとして失敗したのは見ている。突風に見えたかもしれないが権兵衛が掴み損ねていたのだ。
テヘペロだ。
「このことは親御さんにも話さんといかんからな。学校としても責任というものがある」
「センセ、そんななの気にしなくてもいいかと」
「あ?」
「い、いいえ」
「ここだけの話だ」指で呼ばれて相手が突き出してきた。「交際しているのか」
「幸いにもお付き合いなんてしてませんよ。頼まれてもイヤです。あんなの性格ブスですよ。いつも澄ましてるのは話すとボロが出るからです」
「おい」
「すぐ暴力ですからね。男女平等くらい学べ。だいたい人を慈しむという気持ちすら持ち合わせてるかどうか怪しい。どれほど二宮家が金持ちどうっ……」
振り向いたとたん、ビンタが飛んできた。目から火花が出た。首がもげるかと思った。冷たい二宮が煌めく瞳で見つめたいた。
「二宮の方は済んだのか」
宮本が話しかけた。
「はい。近いうちに親を呼んで今日のことを話すとのことです。ちなみにわたしはコイツと付き合うほどバカではありません」
「なぜ上に?」
「一緒に塾へ行こうとしていたら屋上に人影が見えたんです」
「あ、そうか。同じ塾か」
「はい」
「こんなにも差がつくんだな」
やかましいわっ。
痛い。
夕暮れの中、校舎のあちらこちらから人の視線が見えた。二宮は気にしてないように歩いたが、高浜は刺されている気持ちがした。
「美人は美人、金持ちは金持ち、成績は成績で妬まれる。わたしはすべて持っている」
「自分で言うな。俺は巻き添えで妬まれたくないね。成績悪くてもからかわれる。貧乏でも笑われる。下手くそでも文句言われる」
「何をしても人は何かしら探してくるもんだ。ちなみに付き合うならアンバランスがいい。美人にも弱点があるとなれば、人と安心する」
「腹立つな。付き合わないし」
「同意見だ」
グラウンドを抜けるとき、体育館から数人の男子生徒が見ていた。同級生も上級生も敵にしている。
「昔だ。まだ屋上が閉鎖される前のことらしい。いつも吹奏楽部か空手部が練習していたんだそうだ」
正門を出て歩道を歩いた。
「吹奏楽の人が転落した。トランペットを練習するのに貯水槽の陰でいたんだそうだ。女の子だと」
二宮は卒アルから転写された女の子の写るスマホを見せてきた。集合写真の中、まるでいたかのように加工されていた子は童顔だ。
「2000年だった」
「平成だ。自殺?事故?」
高浜が前を行く二宮の背に尋ねながら横断歩道を渡ろうとしたときのことだ。トラックが急ブレーキをかけて、後ろに引き倒された。
「赤だぞ」と怒鳴られた。
「何してるの」と二宮が睨んだ。
「え?」
高浜は横断歩道の向こうに二宮に似た影を見つけて追いかけようとしたが、今度はラリアットで止められた。見えてないのかと叫ぶと見えていると冷静に返された。確かに彼女の視線は影を追いかけていた。
「あれは何?」
「俺には見えるだけだし、聞こえるだけだから何だかわからない」
「狩るのはわたしだ」
道の向こうの影に矢をつがえる仕草をしたが、何も起きない。
高浜がぼぉっとしていた。
「何してる」と二宮。
「へ?」
「わたしの力はおまえが源だ。おまえも同じように思わないと矢を射ることなどできない」
「あ……」
「まあいい。やたら走られるくらいなら突っ立ってるくらいがいい。おまえが追いついたところでどうにもできないんだから」
「すみませんね」
拗ねたように答えると、
「死なれては困るんだよ」
と諭すように言われた。
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二人静 henopon @henopon
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