7 白い狐と青い春
高浜はマウスピース越しに女の子の姿を見ていた。難しい勉強のことや上がらない成績のこと当落選にいた部活のこと、イジメられて心が折れたことがサイレント映画のように流れる。
「わたしは許さない」
「だよな」涙をこぼした。「君も聖人君子じゃないもんな」
「誰も救ってくれなかった。家族も学校の先生も。わたしも」
「わかると言えば叱られる。でも一つ言えるよ。君くらい自分を許してあげな。必死で生きたんだ」
「急に言われても」
高浜は二宮に気づいた。このままではやられる。高浜の全身に力が流れ込んできて、二宮に注がれるように見えた瞬間、彼女を覆い尽くそうとしていた影が割れた。
ブランコに腰を掛けた二宮は表情のない顔で話した。
「中ノ瀬から聞いた。話す気はないと突っぱねてたけど、何とか」
中ノ瀬はパソコンにイジメていた生徒の名前と住所、進学先などをメモしていたということだ。
「三人の子どもは、わたしたちと同じ学校に通ってる。二人は小学生だと話してた。いずれ通うかもしれないと。中ノ瀬は加害者の名前を見つけたんだそうだ。意識したら二十年も前のことが日に日に募る。忘れようとすれば、まるで現実のように見える。ずっと悩んでいたらしい」
「なぜ追い続けたんだ」
「贖罪だ。誰かが覚えていてやらなければと考えた。いつの間にか彼自身が幻妖に囚われていた」
「中ノ瀬先生は苦しみから解放されるのか」
「そんなもの本人次第だ」すっと立ち上がった。「ところで彼女のマウスピースはどうする気なんだ」
「彼女の両親に渡しても、今さら訳わかんないだろう。お祓いでもしてもらおうと思ったんだけどね」
「あの人ならしてくれるかもしれないな」
二宮は誰かを思い浮かべたようどが、一人で首を振って否定した。
「権兵衛が欲しいらしい」
「またこんなもの集めてどうするんだよ。二宮から渡してくれ」高浜はマウスピースを渡した。「しかしこのままニコイチじゃ大変だな」
「わたしは構わん。電池切れで倒れることはないからな。ちゃんといつでも充電しておいてくれ」
「スマホかよ」
二人静 henopon @henopon
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