大好きなソーシャルゲームが完結する

壁打ち

第1話

それが起きたのは、親しい友人たちとの飲み会が終わり、一人帰路についている時だった。



飲み会のあった場所から近いからと今日は実家へと向かっていた。 人の気配が殆どない道を、ご機嫌に鼻歌混じりで歩いていると不意に男のスマホがなった。



ポケットから取り出してみてみるとそこに表示されていた名前はとても懐かしい物だった。 中学時代に番号を交換して結構仲が良かったが高校で離ればなれになりそのまま疎遠になっていたやつだ。



こんな久しぶりに連絡なんてなんだ、壺か怪しいビジネスかと思いつつもとりあえずと道の脇に避けながら電話を取った。



「もしもし」


『もしもし、久しぶり。 俺の事覚えてる?』


「覚えてるよ、どうしたんだこんな急に。 こまめに連絡も取ってなかった俺に何か用か? セールスとか勧誘は残念ながらお断りだぞー?」



変わらない声が聞こえてきて少し安心しながらも、目的が分からない以上は少し警戒しながら、しかし冗談のように相手に投げかけた。



しかし帰ってきた答えは男が考えていた事とは全く違うものだった。



「そんなんじゃないよ。 あのさ、お前が中学時代にめっちゃはまってたソシャゲあったじゃん」


「よく覚えてんな、いやまだ細々とだけどちゃんとやってるよ。 それが?」


「いや、SNS見てたらそのゲームがサービス終了するみたいなのが流れてきてさ。 それでそういえばハマってなって思い出したから大丈夫かなってつい電話しちゃったんだ」


「……………………………………………………………………今なんて言った?」


「いや、お前がハマってた―――――がサ終だって」



は? サ終? 終わり? 何が?



「は……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



驚きのあまり外だということも忘れ咆哮する。 幸いにも周りに人はいなかったが近くの家から通報されてもおかしくないような声量が夜に消えた。



「ちょ、ちょっと待って!?」



確かに今日は公式生放送がある日だ。 昔はちゃんと毎回みていたが最近は放送が終わった後公式SNSやファンが上げてくれている切り抜き動画を後から追うくらいだった。



暴れる心臓を必死に抑えながらスマホを操作しハンズフリーにし、そのままSNSを開いた。



そこに書かれていたのは「メインストーリー完結」「オフライン版へ移行、以降更新なし」……終わり方としては整っているが、それは確かにサービス終了を告知されるものだった。



「うわまじか、まじだ、えーーーーー嘘だろ……」


「思ったよりもショック受けてるじゃんか」


「いやでも予兆はずっとあった……イベントでキャラが配布されなくなったりとか、最近は月1で新キャラが出なかったりそれが最近は2か月連続だったしイベント自体も復刻メインになってたし」


「いやそれはもうモロそうじゃんか」


「でもさぁ、無くなるなんて思ってなかったよ。 7年続いてたんだぞ」


「そっかもうそんなになるのか。 ……あのさ、今どこに住んでんの?」


「一人暮らしにはなったけど地元には残ってるよ。 今日も飲み会終わりで今実家に向かってる」


「お、まじか。 実家ってあそこだよな、今からそっち行っていい? 酒とかツマミ買っていくからさ、お前の思いのたけを聞かせてくれよ」


「いやそれ、俺の嘆きをツマミに酒飲むき満々じゃねーか」


「あっはっは、それもまああるけど、俺もやりこんでたゲームが終わってショック受けたことあるからさぁ。 こういう時くらい思いっきり愚痴っちゃえよ」


「……クッソーお前いいやつだなぁ!」


「だっろー? じゃあゆっくりそっち行くから。 またついたら連絡するわ」


「あいよーありがとーじゃあな」



昔とまるで変わらない調子の会話を終え、通話が切れたのを確認すると再びSNSを確認する。 ゲームの機能としては殆ど残されており、ストーリーもバトルも面白い部分はしっかりと楽しめそうな、ある種理想ともいえる終わり方だ。



しかし、それでも……もう更新が無くなってしまうという所にどうしても寂しさを抑えることはできなかった。



7年。 男からしてみたら人生の3分の1を共にしてきたのだ。 そう思うのは当たり前だった。 決して大流行したわけではない。 内容も過激な部分もあり受け入れられずやめていった人もいるだろう。



男はそうやって過去を追うように考え出したら少し腹が立ってきていた。 そもそも最近のメインストーリーのボスの難易度おかしいだろ、いやそれ以前にシステムで入れ込まれてる敵だけ有利なシステムやめろってマジで。 それならこっちにも対策の対策になるものをキャラが言ってたように用意してくれよ。



昔と比べて快適にはなったけど細かく通信で画面が止まるのも何とかして欲しかったし、クエストスキップのチケットもイベント用のはもっと配ってほしかった。 ストーリーの中でもかなりキツイ描写があったし。 好きだったキャラがなんとかなったとはいえ個体識別も出来ないような肉塊以下になった描写をされた時はもうスマホを投げつける勢いだった。



不満点は数多くあった。



だが、好きな部分はそれ以上に、抱えきれない程になっていた。



キャラクターが好きだ。 デザインは今風でないと言われることはあっても、今を必死に戦い続けるキャラクター達は非常に魅力的だ。 敵だったキャラがスタンスを変えないまま、それでも共存・共闘し仲間入りしたときは感動すら覚えた。 多様性とはこういう事なのか。



ストーリーが好きだ。 最初に打ち出された悪魔と天使、そして人間というファンタジーな要素からは考えられない程どんどんと進展していき、絶望し、希望が見え、また絶望が降りかかり、それを乗り越えていく。 先の読めない、しかしながら更新のたびに期待を超えたその物語にずっと夢中だった。



バトルが好きだ。 会社が特許を取っているのでそのゲームでしか味わえないバトルはランダム要素の中から自分のしたい事、そして相手に何をさせないかを都度思考して相手を打ち倒すのが好きだ。 又は、パワーのあるキャラや相性のいいキャラで無理やりボスを打ち倒していくのが好きだ。



……好きなキャラが酷い目に合って悲しかったが、あれからリョナ物で興奮するようになってしまったのは誰にも言えないことだ。



まだまだ考え出せばキリがない。 だが、道の真ん中でいつまでも止まっていてはしょうがない、と再び帰路を歩き始める。



オフライン版になるまで、まずはストーリーの完結を見届けよう。 そして、オフライン版になったらゆっくりと、飽きるまでしたい事をしよう。 到底無理だと思っていたキャラごとの専用装備も時間をかければ全員分作れるかもしれない。 困難なボスを自分の好きなキャラだけで攻略してみてるのもいい。



悲しさも寂しさも確かにある。 だが、そのゲームと共に歩いて、成長してきた自分は確かにここにいるのだ。



体の奥に確かな柱があるのを実感した男は、しっかりとした足取りで実家への道を進んで歩いていった。

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