第29話「みんなの工房」

「ただいまー」


 しーん。と静まり返った工房。

 こころなしか、緊張感すら漂う気がするので、ロメオの胸がちょっとドキドキ。


 ぎー。


 そうして、皆いるであろうリビングに顔を出した直後────。


  つーん!


「うわっ、くっさぁぁああ!」


 おええええええええ!


 え? 

 え?

 え?

 え? なにこれ?


 なにこの、

「死体の山はぁぁあああああああああああああああ!!」


 くっせー!!


「あーおかえりー」

「ロメ兄か? はやかったやんー」


 むにゃむにゃとテーブルに突っ伏していたジュリーとベッキーが目を覚ます。

 っていうか、なんだよ「この有様は!!


 地獄かぁぁ!


「あ、兄貴あかえりー」

「ぶほっ!」


 何やってんの?!

 プルート君なにやってんの! なにそのワゴン!!


「よかったー。無事だったんね……ボロボロみたいだけど」

「お、おう、むしろ家が無事じゃねーな。ボロボロどころかドロドロのおどろおどろしいことになってるけど……」


 なんで、腸とか骨が無造作に散らばってるんだよ!!

 そんで骸骨ー!!


 熊とか鹿とか猪とか頭順に並べるなよ!!

 なんお悪魔の儀式だよ!!


 あと、肋骨ぅぅう!!

 箱にギッシリ詰めんな詰めんな!! 怖いわ!!


「もー、うるさいなー、眠いのにー」

「せやでー。ようやくひと眠りしたとこやのにー」


 いや、すごいな!

 よく寝れるな!!


 むしろ、永遠の眠りについてる動物さんらが怒り狂って起き上がる勢いやで?!


「あはは、たしかに散らかし過ぎちゃったかな──……」

「散らかし過ぎたレベルじゃないけど……これもしかして」


 一方的に匂いと惨状にドン引きしていたロメオであったが、よくよく見れば、それらすべてサルマンさんの狩り小屋から回収してきた素材らしい。

 どれもこれも加工のあとや採寸の形跡がみえる。


「まさか……昨日まで夜通し作業してたのか!?」


 どーりで……。

 そうか、ロメオも戦っていたけど、ジュリー達も戦っていたんだな。


「ふふふ……ロメオがボロボロになってる──けど、そのぶんじゃ、無事だったみたいね」

 テーブルに突っ伏したまm、隈の目立つ顔で、綺麗に笑うジュリー。

「うへへへ、どやったウチの秘密ボタンは、役に立ったかー?」

 得意にギミックを成功した悪戯を確かめる子供のように可愛らしく笑うベッキー。

「その分だと、まだまだ改良が必要かな──」

 ペタンっと、集めてきた素材の上に倒れるプルート。どうやらほんとうに寸前まで働き、擁すれば追加の装備まで考えてくれていたようだ。


「あぁ……全部。全部役にたったよ──」

 ありがとう。皆。


「「「えへへへへへ」」」


 なんだかんだで疲れと断眠ハイで笑う家族みんな。

 その顔は決して綺麗じゃないけど綺麗だった──。


 そうだな。

 そうだった。


 この顔をこの子たちを、この家を守るために戦ったんだった。

 そして、これからも今後もまだまだ戦える──いくらでも、何日でも、ずっとずっと。




  ほんと、

  ありがとうな、みんな────!



 静かな感謝の気持ちを伝え、皆一塊になって抱きしめるのであった。


 うん、

 まぁ────そのあとで、掃除はしないとね。





  「くっさ……」






「「「同感……」」」





 悪臭漂うみんなの工房──。

 次の日、村長さんに悪臭の苦情をいわれることになるのだが、この時ロメオ達まだそのことを知らない────。




※ ※ ※




 王都──。

 アイゼン邸にて、


「そうですか、失敗しましたか」

「も、もうしわけも──」


 ふんっ。


「結構。もともとそこまで期待しておりませんので、」

「し、しかし!! 次こそは──!」


「結構」


 チリンチリンッ、


「お帰りだよ」

「な! お、お待ちください──どうか!」


 ──どうかぁぁ!!


 食い下がる者の顔をもはや見ることもなく、アイゼンは執務机の上のベルを鳴らすと家令が率いる屈強な護衛を呼びつけ、ソイツをつまみ出す。

 そして、ギャーギャー何かを叫んでいるのを最後まで聞くことなく、家令が綺麗に一礼して執務室の扉を閉めるのを見届け、大きくため息──。


「はぁー……やれやれ、遠回しな手段はうまくいきませんねー」


 徐に立ち上がり、窓の傍によると夕日に沈む王都の景色を目に収める。

 まるで燃えているようなその光景を見ながら反省点を自分で見出すことに。


「……連中、すぐに値を上げるかと思いましが、ギルドからの融資、ですか……まったく冒険者にまでなっているとは誤算でした」

 しかも、Bランク。

 そこそこ腕の立つ部類だ。

「いっそギルドごと潰してやろうと画策しましたが、今度はAランクとはねぇ……」


 偶然にしても運が悪い。

 ……せめてそれさえなければ、計画はは半ば成功していたかもしれない。


 初心者向けダンジョンの奥で、

 超上級の使役モンスターを解き放ち、ソイツに暴れさせて意図的に・・・・モンスターブレイクを引き起こす──……かの帝国でさんざん使った手だ。


 今回は帝国相手ではないが、

 数図鵜も聞かない、一筋縄ではいかない、ケチな男爵領で起こす騒動だ。どうなってもいくらでも調理可能──そう思ってわざわざ高いモンスターを持ち込んだのにこのざまだ。

 ……むしろ、今回の件であの工房の面々の活躍が知れ渡れば逆効果ですらある。


「いっそ、ギルドごと──そして、あの工房に小銭を稼がせる地方ごと壊滅してくれれば、もっと早くに根をあげたのに、参りましたねー」


 男爵領のとくにウール・プランツからもたらされる富と仕事──それらの需要があって初めてあの工房が鼻息を荒くしていることは調査によって判明していた。

 ビタースプリングスだけならまだしも、あのへん一帯の街が工房の顧客となると少々面倒くさい。


 借金の返済には程遠いとはいえ、経済効果的に見れば侮れないのが男爵領だ。

 なにより気に食わない。

 アイゼンに歯向かったあの4人がのうのうと仕事をして、それを流す連中が──あの町が、あの領地が気に食わない。


「ま、いいでしょう。次なる手はいくらでもありません──むしろ、それをどう凌ぐのか……むしろ楽しみになってきましたよ」


 ふふふふふ。

 うははははははははははははははは!


賢者の石・・・・を捜索するだけのはずが、随分面白いことになりそうですねぇええ」


 はーっはっはっはっはっはっはっは!!

 片眼鏡を王都の夕日に映えさせながらmひとり屋敷の中で笑うアイゼン。

 さてさて、

 工房 対 王国貴族の陰謀。この物語の終着点やいかに──。




────あとがき────


これにて一章完結!!

再開予定は今のところ未定です……。

ここまでで評価をいただけると幸いです。

よろしくお願いします。


次なる物語はロメオの剣の性能とジュリーのポーションに興味を持った人があらわれて。


さらには、男爵領ではダンジョンブレイクによる影響で一時的に治安が悪化し、治安維持行動が開始される。しかし、討伐隊のための装備が足りず急遽大量の武器の発注が各地に飛ぶのだか、その話がロメオ達のもとにも舞い込んでくる。そこで作った装備の数々がさらなる評判を呼ぶことになる。

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4人のアトリエ~上級冒険者として王都で成功したけど、借金まみれの妹弟達のために実家に帰省して、聖剣売ります!~ LA軍@多数書籍化(呪具師200万部!) @laguun

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