第64話 部活動ー1

「みんなにはこの部屋で部活動をやってもらいます。あなた達用に特別に用意した部屋よ」

「部活動!?」

「えぇ、活動内容はあなた達で考えて。顧問は私。外出するのなら引率するので自由にね」

「なんか婆ちゃんの思惑が色々透けて見えるんだけど」

「ふふ。でもね……環境こそが人を成長させる。環境の力を舐めちゃだめよ。じゃあ今日中に活動内容を決めて、名前と一緒に報告するように」


 そういって静香お姉ちゃんはまるでホテルのスイートルームのような部室を出ていく。


「やっほーーー! わぁふっかふかだぁ!」


 アザルエルがソファにダイブする。


「なんかすっごい青春! って感じでわくわくするね! 今日からここがあたしたちのモラトリアムだぁ!」


 するとローラもソファに座ってとんでもなく長い足を組む。

 パチンと指を鳴らした。


「はっ! ご用件を! 姫様!」


 清十郎が、ローラの前にシュババ!っと膝をついた。

 一切躊躇いがない。こいつ、いつの間にかローラに調教されてやがる。

 なんかアリシアさんを思い出すな。

 元気かな……五大覇祭が終わった後、国に帰っちゃったけど。

 

「お茶にするわ。用意を」

「はっ! ダージリンでよろしいでしょうか。ティーフードも銀座から一流のものを取り寄せております」

「そう、有能ね。清十郎。褒めてあげる。靴を舐めなさい」

「はっ! ありがたき幸せ!」


 なんだ、あいつ。恥を知れ。

 



 


「さてと、じゃあまずは部活動の内容から決めましょうか」


 ティーカップを優雅に飲むローラは、やはり完璧なお嬢様である。

 アザルエルはまぁ適当だが、所作は綺麗だ。さすがに育ちが良い。

 ゼフィはちょこんと座ってお菓子を美味しそうにモグモグしている。ハムスターみたいだな。可愛い。


「といってもあまりわからないわね。清十郎、発言の許可を与えるわ」

「はっ! ありがたき!」


 そういって清十郎が顔上げた。

 なんで顔を上げたって? 四つん這いでローラの足置きになってるからだ。


「ねぇ、ローラ。とりあえず清十郎を足置きにするのやめない? すごく気になるんだが」

「夜虎、気にするな。幸せというのは、人それぞれ形がある」

「俺は友達がそんなんで不幸を感じている」

「まぁ、冗談は置いといて。部活動だろ? このメンバーでスポーツってのもなぁ」


 そういって清十郎が立ち上がる。

 本当に冗談だよな? そうだよな、清十郎。信じていいんだよな?


「スポーツには興味ないわ」

「ですよね。ローラ様もそう言ってるし……別の案を」


 一般的に部活動といえば野球やサッカーだろうがここは太陽学園。

 日本屈指の魔術師養成学校だ。

 ならばこそそういった部活動も多くある。例えば魔術研究会とか。


「夜虎はなんかあるか?」

「え? じゃ……じゃあ修行クラブとか?」

「却下。御屋形様……千代子さんからは、夜虎が絶対そう言うからそれはダメだってさ」

「なんでだよ。楽しいだろ、修行! もっとやろうぜ、修行!」

「部活終わった後、好きなだけやれ」

「じゃあなんだよ、他に案があるのか」


 俺はゼフィを見る。


「ゼフィはなんかしたいことある?」

「したいこと? …………みんなと一緒に入れたら……それだけで楽しい。今が……すごく幸せ」


 俺は泣いた。


「はいはーい! あたし、したいことめっちゃある!」

「じゃあ、アザルエル。性的なこと以外なら発言を許す」

「ちょ! エロキャラ扱いしないで? えーっとね…………プール行きたい!」

「それは部活動っていうか、ただの願望では?」

「あ、あとね。キャンプ! バーベキュー! 花火大会とか旅行とか! みんなで行ったら楽しいと思うんだ!」


 アザルエルは楽しそうに、やりたいことを語った。

 確かに気ごころ知れた友達と遊びに行くのはわくわくする。

 しかし、今は部活動を決めなくては。


「いいんじゃね?」

「いいのかよ」

「大学のイベントサークルみたいで。青春を楽しむならぴったりだと思う」

「私もそれが良いと思うわ。自由が利くし、それに……夜虎と遊びに行けるなら……私はそれがいい」


 ゼフィを見ると、キラキラした目で俺を見ている。

 遊ぶの? みんなで? わくわく。っとまるで子供のようだ。


「……そっか」


 その笑顔を見て、俺はやっと婆ちゃんの意図がわかった。


 婆ちゃんは俺達に遊んでほしかったんだ。

 俺は10年修行しかしていない。

 それはローラもだ。強くならなきゃと遊ぶことを封印していた。


 アザルエルだって、たくさんの修行期間があり、五大貴族で気を許せる友達がいないと聞く。

 多分、それは冥様も同じことだろう。

 そしてゼフィは言う必要もない。

 つまり俺達は学生でありながら学生らしいことを一切体験していないんだ。


 魔力は強き意思に宿る。

 

 その意思を見つけるために、たくさんの経験をしてほしい。年相応に青春をしてほしい。

 婆ちゃんはそう言っているんだろう。なら答えは決まってる。


「じゃあ、そうしよう!」

「やった、決まり!!」

「あ、部活動の名前を考えないとですよ。ローラ様」

「…………貴族クラブとかでいいんじゃない?」

「ダメだろ」





 貴族クラブ……改め貴族部というまぁそれはそれでどうなんだ? という部活動の名前が付けられた。

 活動内容は、シンプルに遊ぶ。そんなのでいいのか? と思ったが静香お姉ちゃんに許可された。


「とりあえず今週遊びに行こうよ!」

「あなた達一つ忘れてない?」


 すると清十郎が、俺達全員に紙を配る。

 あぁ、五大覇祭とかでゴタゴタしてたから忘れていた。


「来週の水曜から三日間。太陽学園、そして西の太陰学園との恒例行事、式神合宿が始まります。その準備を忘れないように」


 そうだった。

 夏休み前に、この合宿があると事前に言われていたんだった。

 

「えぇ! みんなで旅行!? すっごい楽しみなんだけど!!」


 アザルエルが飛び跳ねる。

 そして日程を見てさらに飛び跳ねた。


「まじ!? 海水浴あるの!? 最高じゃん!」

「えぇ、京都のビーチは綺麗よ。私も高校生の頃に行ったわ」

「じゃあさ、じゃあさ! 今週末は、この合宿用の買い物に行こ! ローラちゃん、一緒にいこ!」

「ええ、いいわ。水着……サイズが合わないし買わなきゃ。ゼフィもいくわよ」

「うん…………夜虎は?」

「俺? 俺は訓練用の水着があるから……」

「だめよ、夜虎。こういうのは集団行動。そう! 部活動よ!」

「…………わかったよ。その代わり平日は修行させてくれ」

「うん! 約束ね! やった!」


 ニコッと笑って飛び跳ねるローラたち。

 五大貴族なんて言われているが、こうしてみるとほんとにただの女子高生だな。





 キーンコーンカーンコーン。


 17時を知らせるアナウンスが校内に響く。

 

「じゃ! そういうことで!」


 俺は部室を後にして、ローラたちの止める手を振り払い、特級修練場へと向かった。



 特級専用修練場。


「みんなには悪いけど…………ごめん。今は遊ぶ気にはあんまりなれないんだ」


 婆ちゃんのことはしっかり受け止めたつもりだ。

 でもやっぱり俺の中で引っかかるのは、俺が弱いせいだという事実。

 酒吞童子がどれほど強いのかわからない。でも……婆ちゃんが今の俺では勝てないと判断したということはそうなんだろう。


 虎太郎様……つまり先代の紫電家当主がどれだけ強かったかはわからないが、間違いなく俺よりも紫電は使いこなせていたはず。

 なのに、負けた。魔力量は俺の方が上だとしてもだ。

 酒吞童子……世界最強の鬼。

 人の憤怒の結晶体――そう聞くと一個人が戦えるような相手ではないが。


 チチチチ!!


「俺が倒さないといけないんだ」


 俺は紫電を纏って、いつものトレーニングを紫電バージョンで行った。

 俺はまだ紫電を使いこなせない。6歳の頃に発動してから封印していたから仕方はないが。

 そしてそれは婆ちゃんが酒吞童子から俺を守るためだったこともわかっている。


 遺言通りなら今は使っても構わない。 

 確証はないが、婆ちゃんが命を懸けて時間を稼ぐと言った。なら俺は信じる。


「くっ!!」


 いつものトレーニングの一つ。

 20メートルシャトルラン(1時間で1万回)をしているのだが、勢いよく飛び過ぎて壁に何回かめり込んでしまう。

 いつもの雷なら余裕でウォーミングアップ程度なんだが、暴れる紫電、これは調整が難しい。

 俺の魔力制御は冥様や静香お姉ちゃんほどじゃないにしても相当に高いはずだが、これは骨が折れるな。


 でもだからこそ、俺のために時間を稼いでくれたんだ。

 必ずものにしてみせる。



 2時間後。



「ふぅ…………きっつ……でも……キモチイイ」


 久しぶりの筋トレで、筋肉が喜んでるのを感じるぞ!

 そうだろ、アンディ、フランク! え? ボブとキャサリンももっとしたいって? よしよし、じゃあスクワットしよう! 

 えーっとあったあった。よいしょっと。


 俺は500キロのダンベルをセットして、肩に担ぐ。

 美しい姿勢でスクワット。やはりスクワットは最高だ。すべてのトレーニングの基礎である。

 雷槍をはじめ、足腰は命。

 

「9997! 9998! 9999! 10000! よし!」


 トレーニング開始からすでに3時間が経っていた。

 本来ならここで終わるのだが、今日はもっともっとしたい気分だったので追い込むことにする。


 いずれ来る最強との戦い。

 ざわつく心は、修行しているときだけ安心できる。


「はぁぁぁ! 19999! 20000! きっつぅいけど、終わり!! え? わかったわかった、アンディ。仕方ない奴め。次はベンチプレスをしような! 夜は長いぞ! 今夜は寝かさないからな」




 

 それを窓からこっそり見る三人。


「ねぇ、ローラちゃん。アンディって誰? なんで夜虎は一人で楽しそうに会話してるの?」

「アザルエル、夜虎はね……実は変態なの。筋トレ好きな奴は全員マゾなのよ」

「痛いのって気持ちいいもんね! あーでもそれじゃ……私が責めなきゃか。練習しなきゃ」

「ねぇ、ローラ。痛いのって……気持ちいいの?」

「ゼフィはまだ知らなくていいのよ。もう少し大人になってからね」

「私も同い年なんだけど……」


 するとローラは背を向ける。


「あれ? ローラちゃん帰らないの?」

「私も部室でもう少し、マナスフィアの訓練続けるわ……ちょ!?」


 するとアザルエルがローラに後ろから飛びついた。


「私もする! 今日はみんなで夜更かしだね! 目指せ10個!」


 そしてゼフィもローラの服を引っ張る。


「私も……いい?」

「ふふ…………もちろん。じゃあ京都への式神合宿までに10個積み上げれるように頑張りましょう」

「おぉ!」

「おぉ……私は二個だけど……おぉ!」


 紫電千代子の思惑通りに、若人達はお互いを刺激し合い、さらに高みへ登り続ける。


 目指すは京都へ向けて。

 だが、まだ彼女たちはまだまだ学生気分。

 青春を謳歌し、幸せなモラトリアムを享受していた。

 しかし、知ることになる。


 自分達は世界の守護者であることを。

 呪いの都で。


 




 とある巨大な屋敷の一室で、コンコンとノックの音が響く。


「道満様……よろしいでしょうか。貴人でございます」

「入れ」

「失礼致します。……ん? マナスフィアですか」


 メイド服を着た美しい女性は、自分の主人を見る。

 椅子に座り、カランという音を立てグラスに入った酒を飲みながら月を見る。

 その片手の指の上には、マナスフィアが積み上げられていく。


 さらにまたマナスフィアを投げ、その頂上にトンっと乗る。

 すでにその数は50近く、ピクリともせず詰みあがる。


「今の魔術師はそれで魔力制御を学ぶらしいですね」

「あぁ、どんなものかとやってみたが案外悪くはない。が……所詮は子供の玩具だな。緊張の無い場での魔力制御などミスするはずもない」

「道満様とお比べになるのはいささか可哀そうかと……」

「で、準備はできたのか?」

「はい、滞りなく。出発の準備が整いました……向かわれますか?」

「あぁ……」


 直後、男の指先には5つの小さな玉が出現した。

 回転し、円環を為し、そして。


「……五行円環」


 虹色の光がマナスフィアごと消滅させ、屋根まで貫き空に消えた。

 男はゆっくりと立ち上がる。


「あの日から千年……というとお前とももう千年か。随分と長く……歩いてきたな」

「はい……あなたにお仕え出来て、私は心から幸せでした」

「お前の主は清明だろう」

「道満様も同じほどお慕いしておりますから」

「ふっ…………では、あいつの元へと向かおうか」


 そして男はにやっと笑い、屋敷を出た。

 その後ろには十一の神にも等しき天将と呼ばれる式神を連れて。


「晴明………千年の戦いに終止符を打とう」


 そして現代と過去の最強の魔術師が京の都へと歩みを進める。

 幾星霜この世界を守った平和が生まれた古都――京都へ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


少し日常が長すぎましたかね。

では、やっとこの物語の本編に入ります。

京都百鬼夜行編です。もっと速く提示すればよかったと大変に後悔中ですが、頑張っていきましょう。

この三章は私がこの作品を書き始めるきっかけになった書きたかったシーンがたくさんある章です。きっと皆さんの心に届くはずなので、ぜひ完結までお付き合いお願いします。熱すぎて頭沸騰すると思います。


【あとがき】


本作はランキング上位を目指しております。

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現代最強の魔術師・白虎夜虎~呪殺率世界一位の日本に転生した俺は、死にたくないから死ぬほど鍛えて呪いを祓う~ KAZU @kazu-ta

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