第63話 最強の教室ー4
魔力制御の授業が終わった。
後半俺は3つ重ねるのが精いっぱいだった。
なぜかって? そんなの集中できるわけないだろ!
静香お姉ちゃんが近くに来て、ふわっと良い香りをするだけで緊張するわ!
ねぇ遺言の話ってなに? 追伸ってなに!? 婆ちゃんの戯言のことですか!?
「どうしたの? 調子が悪いようだけれど」
「い、いや……だ、大丈夫」
すると静香お姉ちゃんがもう一度、お手本を見せようとしてくれた。
しかし10個ぐらいで崩れてしまった。
慌ててマナスフィアを拾うので、俺も手伝ったら手が重なってしまった。
「あ」
「あ」
別にこれぐらいなんでもないことだ。
いつもの静香お姉ちゃんならふふふって笑うだけなのに。
「ご、ごめんなさい」
顔を赤くして、ガチめな反応をされた。
思わず俺も赤面してしまう。
「ねぇ、アザルエル。あれはどういうことかしら。教師と生徒の姿には見えないのだけど」
「なんだか怪しい……発情の匂いがするね。怪しすぎるね! 禁断の愛だね!」
「ち、違うわ! 勘違いしないでよね!」
「そ、そうだよ! 別に遺言だから仕方ないかとかそんなの思ってないから!」
「夜虎、どういう意味? 遺言ってなに?」
「へぇ? い、いや……なんでもないよ?」
ローラが詰め寄ってくるが、俺はそっぽを向いて口笛を吹いた。
「私が夜虎の嘘を見抜けないわけないでしょ? 吐きなさい」
「いや……それがその」
俺は後ろに後ずさる。
ポヨン。ポヨン?
「逃がさないよ。やーくん」
「は、挟まれた! 二つの意味で」
「これでもあたし……嫉妬するタイプなんだよね。でもむしろ燃え上がっちゃうというか。NTR興奮するというか」
パン!
すると静香お姉ちゃんが手を叩く。
「では、魔力制御はここまで! す、少し落ち着くために数学でもやりましょう!! はい、みんな席に座って!」
するとものすごい勢いで数学の問題を黒板に書いていく静香お姉ちゃん。
俺は渡りに船と、急いで席に座って問題に取り掛かった。
…………いや、なんだこれ? むずすぎて意味が分からんぞ?
「静香。テンパりすぎて高校レベルを逸脱してるわ……ふっ、あなたも所詮、メスなのね」
「へぇ? え、えーっと。み、みんなならできるわ! 力を合わせて明日までに取り組むように! ではお昼明けに!」
そういって静香お姉ちゃんは急いで教室を出ていってしまった。
一体なんだったのか。
俺は数学に取り組んだ。しかし一切わかる気がしない。なんだ極限を取るって。微分積分? 行列? なにそれ。
ローラを見ると、苦戦しているが何とか戦えているようだ。さすがに頭が良い。
アザルエルは……。
「えへへ。ムリムリ……あたし数学ダメなんだ。保健体育の実技しか得意じゃない」
ダメそうだ。俺と同じでもはや諦めモードである。
よかった。ギャルに勉強で負けたら俺の尊厳が破壊される。いや、多分学力はそんなに変わらないんだけど。
しかし実技とは? ちょっと気になるな。
「…………できた。夜虎、できたよ」
ゼフィを見ると、掛け算の計算ドリルを嬉しそうに持ち上げていた。
微笑ましい。
ゼフィの学力は残念ながら6歳の頃で止まっている。なのでゼフィだけは特別科目だ。
計算ドリルとか文字書きとか、そういうのをやっている。
「こ、これ……あってるかな……」
「見せて。…………すごいよ、ゼフィ! 全部あってるよ!」
嬉しそうにこぶしをぎゅっと握る。
守りたいこの笑顔。
「清十郎は…………」
ムカつく顔で、おそらくは問題を解いた答えが書かれたノートをみせてくる。
殴りたいこの笑顔。
くそ、こいつ全国模試トップクラスだった。
チャラ男なのに! 真面目に勉強やりやがって!
そして冥様も相変わらずだが解けているようだ。
「レベルひっく……魔術だけじゃなくて勉強も程度が低いわね。はぁ……私帰るわ。おじい様の命令だから仕方なく登校はするけど、私……あなた達と違って忙しいの」
そしてめんどくさそうに立ち上がって教室を出た。
相変わらず厳しい性格だが、でも俺には冥様は、どこか……俺達と、いや誰かと仲良くしたくない。してはいけない。
そんな雰囲気を感じた。
輪に入れないんじゃない。
入ってはいけない。
まるで自分に言い聞かせてるように見えた。
「でも……友達になりたいんだけどな」
彼女のことを何も知らないが、俺は冥様とも仲良くなりたい。
八方美人と言われればそうなのだろうが、なんだが孤独の道を進もうとしている冥様が気になる。
一人は寂しいから。
そして、放課後。
「はぁ! 終わった終わった! ひっさしぶりだな、学校なんて! でもなんかすごく楽しかった」
アザルエルが伸びをする。
そしてローラが課題の数学を静香お姉ちゃんに提出していた。
「うん。正解です……さすがね、オーロラさん」
「よし! あ……ローラでいいですよ。静香さん。これからお世話になるんですし、静香さんの方が年上ですから」
「そう? じゃあ……ローラ……よろしくね」
「でも負けません」
「え?」
「夜虎の心は私のものです。誰にも譲るつもりはありません。でも……私も貴族。覚悟はできています。紫電家のこともあるし、百歩譲って下半身を少しだけ貸すのは……最悪ですが……仕方ないとは思ってます」
「なんで俺の下半身の貸し借りがローラに決められてるの? ねぇ、なんで?」
「そう……ありがとう」
「ねぇ、なんで? 二人ともいい感じの雰囲気で握手してるけど、ねぇ、なんで?」
完全に無視である。
すると静香お姉ちゃんが手を叩く。
「じゃあ案内するわね」
「どこに?」
言われるがまま案内されたのは、応接室?
扉を開けると、なんだこれ。
まるでホテルのスイートルームだ。
ただし学生らしく質素な家具ではあるが、間違いなく高級品だ。
ソファもあれば紅茶セット? テレビだって置いてあるし、ここは一体……。
「うわぁ! なにここ! めっちゃいい感じなんだけど! 漫画とかである生徒会室って感じ?」
「居心地はよさそうね」
「静香お姉ちゃん、ここは?」
一体こんな部屋につれてきて何をするというのか。
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