第62話 最強の教室ー3
◇
「静香お姉ちゃんが俺達の先生なの?」
「えぇ、そうよ。これもおばあ様の遺言の一つね」
「い、忙しいんじゃ」
「ここより優先する場所はないわね。安心して。案外楽しみだったのよ」
静香は思い出していた。
自分に書かれた千代子の遺言。
五大貴族の一番の年長者として、みんなを引っ張って行って欲しいことなどなど。
そしてもちろん夜虎と同じように追伸に書かれたほぼセクハラも。
それを思い出しながら夜虎を見る。
「ん? どうしたの?」
「な、なんでもないわ! 勘違いしないでよね!」
静香への遺言の書でも、追伸 夜虎と子供を作れ。という千代子の言葉があった。
つまり、何をするのかを想像するとさすがに静香も顔が赤くなる。
「はぁ、最後まであの人は…………何泣いているの! はやく座りなさい、清十郎!!」
「魔術師にも労基はありませんか? ないなら俺が作ります」
◇夜虎
清十郎が教室に来てくれたおかげで俺は随分と心が楽になった。
やっぱり友達だよな! 頼むぞ、清十郎。俺一人ではこの量は捌けない。
しかし、静香お姉ちゃんが先生か。
こんなじゃじゃ馬たちを制御できるのだろうか。
「では、授業を始めるわよ。魔力制御の途中からね」
「へぇ、静香が? 私がやってあげましょうか? 夜虎にビビッて棄権したぐらいだしね。ふふ」
「結構よ。魔力制御なら私の方があなたより上だから」
「はぁ? 言うじゃない」
すると静香お姉ちゃんは当たり前のように、マナスフィアを重ねていく。
10個、11個、気づけば20個。
「や、やるじゃない」
「私、あなたと違って魔力が低いからね。これぐらいは当然よ」
魔力が低いと確かに魔力制御は楽だそうだ。
とはいえ、これはそんなレベルじゃないだろう。
静香お姉ちゃんは、とても努力の人だけどその努力をみせない人なので俺もその強さは正直わからない。
だが魔力制御に関しては、俺の遥か上だろう。
「ちなみに、おばあ様は最高で30個いけたそうよ」
「30!? もう意味がわからない」
「夜虎は今年中に20を目標ね。大丈夫、できるまでやればできるようになるわ」
「…………」
俺はその言葉にトラウマがある。
静香お姉ちゃんは厳しい。自分にはもっと厳しいが、小さい頃に滅茶苦茶な修行をさせられた記憶がある。
口癖は、できるまでやればできるようになるわ。だった。
当たり前である。
ちなみに勉強もそうである。夏休みに遊びにいったら一日缶詰で宿題を終わらせさせられたのを思い出す。
それから魔力制御の訓練が始まった。
「夜虎、こうするのよ」
「う、うん」
俺の後ろから静香お姉ちゃんが抱きしめる形で俺の手を握る。
香水だろうか。ふわっと薫る上品な匂いがとても静香お姉ちゃんらしくて少しドキドキした。
「こ、こうかな」
「そうよ。上手ね……もっと強くできる?」
「う、うん」
なんか距離感近くない?
いや、こんなもんだっけ?
「せんせー! 生徒と先生の距離感じゃないとおもいまーす。なんか性的な雰囲気にみえまーす」
「そ、そうよ。静香さん。夜虎に近づき過ぎよ!」
「別に一緒にお風呂にも入った中なのだけれど。ね、夜虎。今更お姉ちゃんに変な気を起こすことはないものね? そうだ、久しぶりにお風呂に入る?」
「え? そ、それは……」
「あ! 夜虎、顔が赤いわ! は、離れなさい! 職権乱用よ!」
「あなた達じゃ夜虎に魔力制御を教えられないでしょ? せめて10個できるようになりなさい。それまでは毎日これよ。悔しいなら早く上達しなさい」
「ぐぬぬ!!」
ぐうの音しか出ないローラとアザルエル。
しかし、なるほど。こうやってやる気を出させるのか。
さすがお姉ちゃんだ。
「夜虎……今晩、うちに来て。二人っきりで教えてあげる」
「へぇ?」
「ちょ、ちょっと! 静香さん!」
「エ、エロい……エロ教師だぁ。なんか大人のエロさを感じるよぉ……これが成人した女の魅力。負け……た」
なんでアザルエルは敗北者みたいな膝の付き方をして、崩れてるんだ?
まぁこれも全部二人にやる気を出させるためだとわかっているので俺に動揺はない。
確かにドキっとしたけどな!
そして二人がなんとか10個積み上げるぞと、やる気になって集中している。
よし、俺も頑張るぞ!
「夜虎」
「なに? 静香お姉ちゃん」
するとほんとに俺にしか聞こえない声で囁いた。
「今晩、ほんとに私の家に来て。おばあ様の遺言のことで」
「………………へぇ?」
千代子婆ちゃんの遺言……まさか。
いやいや! あぁ! そうか。なるほど!
何か静香お姉ちゃんだけに伝えたこととかがあるんだろうな! 多分そうだ!
「…………追伸の件でね」
「…………ふぇ?」
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