第61話 最強の教室ー2

 太陽学園のカリキュラムは基本的には、国が決める高等教育レベルの授業を爆速で終わらせて、魔術の訓練を行うというものだ。

 別に頭の良かったわけではない俺は毎日、結構ギリギリだった。

 しかし、そんな日々も終わり魔術的授業が主になってくる。これなら得意だぞ!


 魔力制御とは、体の中に流れる魔力を制御する技術のことを言う。

 当たり前だがこれには技術がいる。

 たとえ自分の体であっても、思う通り動かせないのと一緒で、体を巡る魔力をイメージ通りに動かす技術を魔力制御と呼んでいる。


 俺はこれが得意だ。

 いや、得意になるまで練習したと言った方がいいだろう。

 魔力制御は、魔力の量に応じて難易度があがる。よく例えられるのは水だ。

 蛇口からでる程度の水ならば締めれば止まるし、量も調整できるが、ダムの放水を制御するのは難しい。そんな感じ。


 すると先生が箱から金属のビー玉のような玉を取り出す。


「これは魔力を通しやすい金属で出来た玉……マナスフィアと呼ばれるものです。ご、ご存じですか?」

「当たり前でしょ。それを最初にこの世界に広めたのが黒王家よ」

「も、申し訳ありません。そうでした」

 

 俺も使ったことがあるが、これを作ったのが黒王家なのか。初めて知った。

 するとその先生はそのマナスフィアを手のひらに乗せて、さらにその上にマナスフィアを乗せる。


「で、では二つ重ねることができるようになるのが課題です。自由にやってみてください!」


「久しぶりにやるなぁ、ちょっとどれだけできるか楽しみだ」

「夜虎、勝負ね!」

「あ! 私も、私も!!」


 そして俺はマナスフィアを手に取る。

 昔は5個いけたけど……いまなら。




「よし、6個だ!!」

「うわぁ。やーくんすご。私4つが限界」

「ローラは?」

「ちょっと話しかけないで!! 6個ぐらいできるもん! 絶対にできるもん!!」


「皆さん……さすがとしか……その魔力量でその魔力制御……」


 すると、冥が嬉しそうにこちらを見ていた。


「この程度もできないの? 駄犬」

「…………まじかよ」


 10個のマナスフィアを、それでいて軽々しく指先一本で重ねる冥がいた。

 魔力制御がやばいと思ってはいたが、ここまですごいのか。魔力制御に関しては、間違いなく俺よりも上だ。

 

「す、すごい!! 冥様すごいですよ!」


 俺は素直に賞賛した。

 一体どれだけの研鑽を積めばこんなことができるのか。

 すると満更でもなさそうに冥様が嬉しそうにしている。


「ふ、ふん! 当然よね! 私は黒王冥よ! 無限の魔王の名を継ぐ者よ」

「冥ちゃん、マジすご……」 

「あぁぁ! また落ちちゃった!!」


 ローラはまた崩して、ちょっと泣きそうになっている。

 冥様を見て、ぐぬぬと対抗心も燃やしていた。


「夜虎……どうやるの?」

「ん? これはな。こうやって手のひらに乗せて魔力を流すんだ」

「…………わかった。やってみるね」


 手のひらにマナスフィアを乗せるゼフィ。

 残念ながらゼフィは魔力制御が得意ではなかった。

 二つ目を乗せることができない。


「…………難しい」


 俺はゼフィの手を握って、魔力制御の間隔を教えようとした。


「ゆっくり……ゼフィは俺と同じぐらい魔力が多いから難しいと思うけど、できるようになるまで手伝うよ」

「…………ありがとう」


 嬉しそうなゼフィはゆっくりと集中して頑張ろうとする。

 しかし、魔力制御がほぼ0であの強さか。やっぱりやばいな、世界最強。


「あ、あれれ? うまくできなーい。夜虎教えて。手取り足取り、教えて!!」

「あたしも、あたしも! あれ! あとで家に呼び出して特別授業だぞ、ぐへへみたいなことしよ!」

「しないよ。それに先生がいるだろ」


 俺は先生を見る。

 泣きそうになりながら首を振っている。

 そのときだった。


 ガラガラガラ。


 扉が空いた。


「遅れて悪かったわ。代理ありがとう。もういいわ。ご苦労様」

「静香様! はい! はい! 失礼致します!! 失礼します!!」


 入ってきたのは静香お姉ちゃんだった。

 どうして?


「今日からこのクラスの担任は私です。安心して、大学で教員免許もとってるから」

「えぇ……みんな揃っちゃったよ」


 五大貴族の令嬢全員、このクラスに揃ってしまった。

 どうやら先生は静香おねえちゃんのようで、まぁこのメンバーを制御できるのはそのレベルしか思いつかないが。

 しかし女5、男一人はさすがにバランスが悪すぎる。せめて男があと一人。


「それと……入りなさい」

「しくしくしく……ぐすんぐすん」


 するともう一人の男……もとい犠牲者が泣きながら入ってきた。

 俺はすべてを察した。

 しかたない、お前の家はそういう家だ。

 でも俺はお前が来てくれて結構嬉しいぞ。


「今日からみんなの世話係に任命された貴人清十郎よ。有能だし、大抵のことは何でもできるから好きに使って」

「返して……俺の青春、返して……」


 俺は優しく肩を叩いた。

 ようこそ、最強……いや最凶の教室へ。

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