第60話 最強の教室ー1
国葬から翌日。
まさかこんなことになるとはだれが思っただろうか。
五大覇祭の熱も冷め、夏休みが始まろうとしている日本。
その中で魔術師を育成する国立高等教育学校――太陽学園の一室。
「で、では……出席をとりま……す!!」
本来は生徒を叱責し、教育する立場にある教師の声が裏返る。
緊張で、汗をかき今にもぶっ倒れそうだった。
「ア、ア、アザルエル・ロートオリフラム様!!」
「はーい!」
「オ、オーロラ・シルバーアイス様!!」
「…………ええ」
「こ、黒王冥様!!」
(ぎろり)
「ひぃ!? い、いらっしゃいますね。大変申し訳ありません!! えー……白虎夜虎君! あぁ、安心する」
「あはは……お疲れ様です」
「…………ゼ、ゼフィロス・ヴァイスドラグーン様!!」
「…………はい」
そしてまるで一仕事終えたように疲弊し、椅子に座る先生。
出席確認だけでこれである。
ちなみに生徒は俺達だけで、特別クラスが編成された。
先生は若い女の人で、何度か見たことある先生なんだが……今にもぶっ倒れそうだな。
「ねぇねぇ、やーくん。あたしの制服どう? やばいっしょ?」
「何をもってやばいと言うのか定義を教えてくれ」
「抜けるかでいうと?」
「ノーコメント」
長い付け爪とばっちりメイク。
糞熱い夏だというのに、なんでカーディガンを腰に巻いているのかはわからない。
「可愛いと思ったのになぁ……」
しょぼんとするアザルエルが、可哀そうだったので俺は嘘ではなく本心で言った。
「可愛いとは……思う」
「ほんと!? よっしゃ!」
「や、夜虎! 私は! 私は可愛い? いや、抜ける」
「もう少し……恥じらいを。それに別にローラの制服は初めてじゃないんだけど」
「可愛いって言わないとだめよ。まずは嫁を褒める。当たり前の事よ」
「まずは嫁じゃないという当たり前を…………いえ、すみませんでした。怖い顔やめて。すごい可愛いです」
すると俺の服を引っ張る誰か。
そっちを見ると、ゼフィロスだった。
ゼフィロスももちろん制服を着ているが、俺に見せるようにくるりと回る。
「制服着たの初めて…………変じゃない?」
「全然! 変じゃないよ! すごく可愛い! ゼフィはまるで天使だな!」
「…………」
ぽっと顔を赤くするゼフィ。
俺はゼフィには甘いぞ。
もはや妹かなんかだと思ってるぐらいだ。もっと笑顔にしたい。アメちゃんとかあげたい。
この小動物みたいな可愛い子を笑顔にしたい。
するとローラが、ゼフィと同じように俺の前でくるくると回りだす。
回るたびに俺を見るが、何がしたいんだ?
「はっ! 発情期のメスばっかり」
「何か言いたいことでもあるのかしら。冥?」
「べっつに?」
そして教室の端には、黒王冥様も座っている。
しかし、チャイナ服ではなく太陽学園の制服を着ている冥様は普通に美少女がカンストしている。
だが……どこか輪に入れてない。そんな感じ。
「あ、あの……授業を始めてもよろしいでしょうか」
「すみません、先生! ほら、みんな座って! 座って!」
そして授業が始まる。
国葬から翌日、事前に婆ちゃんが全て手続きを済ませていたとはいえとんでもない速度で全てが円滑に進んだ。
もちろん抵抗する者もいた。黒王冥様とか。
だが、これは約束。
現当主に命令され仕方なくという感じ。
「はぁ……なんでこの私が、こんな狭い国の狭い場所で授業を受けなくちゃならないの? しかもなにこの椅子。木? 硬いし、ありえないんだけど。不愉快」
「も、申し訳ありません!」
「で……あなたが私に何を教えるの? 魔術の理論はどこまで知ってるの? せめて帝級ぐらいはあるんでしょうね?」
「す、すみません、上級でして……」
「はぁ? 上級? 話にもならないんだけど」
「冥様、それぐらいに」
「私は当然のことを聞いてるだけよ。この私を拘束しといて、上級程度の教師の授業? 時間の無駄ね。はぁ……最悪。なんでおじい様はこんなこと……」
相変わらずだが、異国でいきなり留学しろと言われればこうなるのも仕方ないか。
ふん! っと腕を組んで足を組む。
先生はそろそろ心が折れて泣きそうだ。
「で、では……授業を始めます。一限目……ま、魔力制御の授業です!」
「へぇ……魔力制御。この私にね」
「うう……は、はやく来て……」
ちょっと半泣きになりながら先生は誰かを待っているようだった。
誰がくるんだ?
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