83「四人の有翼人」

「ロボ、もうしばらく一人で大丈夫ですか?」

『さっきは油断したでござる! もう大丈夫でござるよ!』


「気をつけてくださいね」



 土魔法・反重力を使い浮遊し、二階テラス上の四人の有翼人に近づき浮かんだままで話しかけます。


「そんな所で何してるんですか?」

「オマエ誰だ?」


 四人の内、一番小柄な少年が口を開きました。


「僕はヴァン。この城に住むブラムの子です」


 ゴソゴソと四人が相談を始めました。

 聴力を強化して盗み聞きしましょう。


「おいヴァンだってよ」

「新しい生け贄のヴァンかな?」

「ヴァンって言ってるしそうなんじゃない?」

「ブラムの子って言ってるしね」

「いや、でも、ヴァンってメガネじゃないの?」

「そう言えばメガネしてないね」

「だろ? だから偽物じゃない?」

「でもあっち見てよ。黒いヤギもいるよ?」

「あ、ホントだ」

「じゃあヴァンかな?」

「でもメガネがなー」

「そうだよ、メガネないもん」

「だよね、メガネがなー」

「やっぱメガネないから――」


 ………………


 らちが明きません。

 胸に仕舞っていたメガネを出し、視力強化を解いてから掛けました。


「あ! メガネ!」

「ホントだメガネ!」

「じゃあヴァンかな?」

「メガネだし黒いヤギいるしヴァンだよ!」



「僕はヴァン。この城に住むブラムの子です」


 やり直しました。


「オマエがヴァンか。待っていた」

「僕を待っていたんですか?」

「そうだ。ボクらはヴァンを殺すゲームの真っ最中だからな」


 おかしいですね。イギーさんが言っていた事と食い違います。

 しばらくは僕らを襲わないハズなんですが。


「イギーさんが計画変更がある、って仰ってましたよ?」

「え? ホント? ……ちょっと待ってて」


 四人がまた相談を始めました。


 下では激闘が繰り広げられているんですが……。

 四人の事は放っておいて参加してはいけないでしょうか。



 ザンっと音がして振り向くと、タロウの吹き矢がマヨウを一羽仕留めたところでした。


「やっと当たったっすー!」

「タロウ! その調子で頼む!」

「任しとけっす!」


明昏天地あかぐらきてんちの宝剣をその身で喰らえぃ! 飛べ明き風刃!」


 ロップス殿に守られながらも、パンチョ兄ちゃんが打ち振るった剣から飛び出した刃がマロウの首を刎ねました。

 あれが噂に聞く明昏天地の宝剣でしたか。ファネル様が使っていたという宝剣ですね。



『うわぉぉぉぉん!』

 さらに、ロボも爪で深く傷をつけたマイチョウに霊力砲をぶつけて砕きました。

 魔樹の樹皮は硬いですからね、良い作戦です。


 大丈夫そうですね。

 下はみんなに任せましょう。




「お待たせ」


「お話は済みました?」

「ボクらは計画変更など聞いてない! だからゲームを続ける!」


 そうなりましたか。

 良いでしょう。望むところです。


「一点だけ確認させて下さい」

 声を掛けながら、広々としたテラスにそっと降り立ちます。


「なんだ?」

「エンビア村を襲ったのは貴方達ですか?」


「そうだ」

「魔獣どもが腹減ったとうるさかったからさ」

「腹が減ったら食う。普通だ」

「それがどうかしたか」


「どうもしません。確認しただけです」


 言いながら魔力を全身に漲らせ、身体強化をさらにもう一段強くし微笑みます。


「楽に死ねるとは思わないで下さいね」


 素早く踏み込んで右端の有翼人へと回し蹴り、交差させた両腕で防がれましたが、そのままテラスの外へと蹴り飛ばしました。


「……不思議な感触でしたが、両腕とも折れたようですね」

「貴様! よくもノギーを!」

 一番小柄な少年が叫びました。


 そう言えばお名前も伺っていませんでしたね。

 敢えて聞こうという気もありませんが。


「喰らえ!」

「お決まりの魔術の矢ですか? 効きませんよソレは」


 矢の進行方向にこぶしほどの小さな障壁を張って弾きます。


「どなたも同じ魔術の矢ですからね。もう慣れましたよ」


 蹴り飛ばしたノギーさんを除く三人が魔術の矢を連続して放ちましたが、四つ五つと小さな障壁を同時展開して全て弾きました。

 案外上手くいくものですね。


「くそぉ! ボクはアレをやる! ヌギーとネギーは時間を稼げ!」

「分かったよニギー!」

「早くしてねニギー!」


 何をするか興味はありますが、簡単に時間を稼がせるのは本意ではありません。


「お二人で時間が稼げますか?」

「バカにするなぁ!」


 叫んだ一人が突っ込んできました。

 ヌギーさんでしょうか、それともネギーさんでしょうか。


 魔力で作った五本の爪を両手に伸ばして襲い掛かってきますが、以前戦ったウギーさんやナギーさんに比べると段違いに遅いです。


「岩の棘!」

「ぎゃぁっ!」


 テラスの床と手摺から飛び出したいくつもの棘が全身を突き刺し、突進を止めました。

 魔力の爪は僕には全然届きません。


 岩の棘に捕まったヌギーとネギーの片方を放っておいて、もう一人に近付きます。

 近づく僕に慌てて魔力の剣を作り出し構えますが、生成の速度もウギーさんに比べたらまだまだですね。


「岩の大壁!」

「なななんだぁ!?」


 対象を囲む様に四枚の大壁を立ち上がらせ、開いた上部から魔法を放り込みます。


「炎弾!」

「ぎゃぁぁっ!」


 そうしておいてから、振り向いて小さな魔力障壁を数枚作り、光の魔法・直光線を放ちました。


「がはっ」

「折れた腕はもう治ったんですか?」


 自前の羽で飛ぶノギーさんがこちらを指差し、矢を射った構えのままで胸を押さえています。

 ノギーさんが放った矢は障壁でちゃんと防げました。


「……なん、で、分かった?」

 直光線で射られたノギーさんが質問しました。


「僕は目が三つありますからね」

 言いながら上空を指差しました。


 それを目で追うノギーさん。


「あれ……なんだ?」

「僕の三つめの目ですよ」

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