82「魔獣の群れ」
「……でかそうっすねー、まだ相当遠いからよく分からんすけど」
夜が明け、遠く西の方に父ブラムの城が遠望できるようになりました。
「次の目的地はあそこです。普通に歩けばあと二日ですね」
ここから先には村や町はもちろん、森もありません。
中央の城から周囲徒歩二日の範囲は全て同様です。
「さぁ、行きましょう」
代わり映えのしない景色の中、黙々と歩きます。
段々と大きく見える城に対して時折タロウが声を上げる以外には特別な事も起こらず進めました。
少し早く歩きましたので、残り半日の所で野営にし、翌早朝、また歩き出しました。
「やっぱデカいっすねー。そういや最初はあの城の中に着いたんすよね、俺」
そうでした。
タロウはあの城に強制転移で連れて来られ、それから僕の所へまた転移させられたんでしたね。
「あん時は広い部屋の中でいきなりアイアンクローだったんであんま建物の大きさは分かんなかったっす」
「この世界で唯一の五階建てですからね。さらに巨大な一枚岩をくり抜いて作られているらしく、非常に珍しい建物です」
「一枚岩をくり抜く? そんな面倒なもの誰が作ったんだ?」
「昏き世界から来た神――なんでしょうね」
へぇー、とみんなが感心しています。
一人で住むには大き過ぎると父はボヤいていましたが。
『……ヴァン殿――? なんか城の方、変でござらんか?』
『誰カ、戦ッテル』
ロボもプックルも目が良いですね。
魔力による身体強化を施して視力を上げ、メガネを外して確認します。
城の周囲には堀や塀などはありません。ただの荒野です。
その南側、正面入り口付近で砂埃を上げて、魔獣の群れと誰かが戦っている様です。
「――みんな! 走ります!」
「わわわわわ、急っすね!」
ドンッと地を蹴り走り出しました。
一度外したメガネは仕舞います。父の呪いが解けましたので、少々の魔力消費は問題ありません。視力強化したままで行きましょう。
先頭は僕、続いてロボ、荷物を担いだプックル、その後ろからそれぞれ身体強化を施したタロウとロップス殿が追い上げてきました。
「何だと思う?」
「魔獣の方はエンビア村を襲った群れかも知れません。魔獣と戦っている方は見当もつきませんが」
ある程度の様子が分かるほど近付きました。
やはり数種の魔獣、マロウ、マユウ、マヨウに加えて、珍しい動き回る魔樹も数体いるようです。
「みんな、全員で戦います。有翼人もいるかも知れません、気をつけてくださいね」
「当然だ!」
「おす! やったるっす!」
『やるでござる!』
『任セロ』
城の東から、南側へと真っ直ぐに急行します。
正面入り口が見える角度になってきました。
「パンチョ兄ちゃん!」
「え? あの戦ってんのパンチョさんなんすか?」
『誰でござるか?』
説明は後です。とにかく参戦しましょう。
たった一人で入り口を背にして魔獣の群れと戦うパンチョ兄ちゃんをはっきりと確認しました。
「風の刃ぁ!」
魔獣の群れ目掛け、大きめの風の刃を飛ばして数体の魔獣を切り裂き、こちらに注意を引きつけます。
「突っ込むぞ!」
言うや否やロップス殿が減速することなく、風の刃で開けた隙間を走り抜けパンチョ兄ちゃんと合流しました。
「パンチョ殿! ご無事か!」
「……おお、これは使者どの。久しぶりだな」
「まだまだ元気そうで何よりだ」
見るからに疲労していますが、特に傷を負ってはいないようですね。
魔獣の群れの半数以上がこちらに体の向きを変えました。
「タロウ、ロボ、プックル、来ますよ!」
肉弾戦向きでないプックルは一歩引き、魔力を循環させたままで待機。集団戦では眠クナル魔法が良いんですが、恐らくパンチョ兄ちゃんも眠ってしまいます。
さすがにプックルはパンチョ兄ちゃんの事が良く分かっていますね。
「おっしゃぁ! かかってこいっす!」
タロウも赤い魔力を循環させ、自分の魔力を混ぜて紫の魔力を纏いました。
「目一杯の身体強化っす!」
「タロウ! 万が一があっては大変です。出来るだけ前に出ないでくださいね」
「プックルはタロウの護衛をお願いします」
「えー。そうなんっすか」
『任セロ』
「ロボ、行きますよ!」
タロウを置いて、ロボと二人で前に出ます。
大剣を右手に持ち、僕も身体強化を施します。襲い来るマユウの爪を左腕で受け止めその胸を大剣でひと刺し。一撃で息の根を止めます。
僕の所に熊の魔獣・マユウが残り七頭。
ロボの所に魔力を持った魔樹マイチョウが四体。
ロップス殿とパンチョ兄ちゃんの所にマロウ七頭、鷹の魔獣マヨウが五羽。
多いですね。
ですが、それぞれ別種の魔獣同士の連携はないようです。
ロボとマイチョウはロボにとって相性が良いです。魔樹は根を蠢かせて移動するので動きが遅いですから。
「ロボ! 動きで翻弄して距離をとって戦ってください!」
『承知でござる!』
ロップス殿たちが一番大変ですか。
僕が担当するマユウはとっとと片付けましょう。
魔力を漲らせ、左の親指と人差し指で小さな円を作り魔術を発動。
――吸血鬼の霧――
左の指先から付け根までが円を潜り、潜った先で霧と化します。
片腕だけだと霧の量が少なくなりますが、マユウ七頭ならこれで充分です。
薄く広がった霧がマユウを包み、マユウの胸辺りで固定、一頭残らず絡めとりました。
即座に忍び寄り、右手で大剣を振って順に首を刎ねていきます。
「タロウ! マヨウを狙ってください!」
「マヨウ? どれっすか!?」
「鳥です!」
「鳥了解っす! 吹き矢カモン!」
タロウが吹き矢でマヨウを狙いますが、そんなに簡単には当たりません。
ですが空からの攻撃が減ったため、ロップス殿が一頭二頭と地上のマロウを斬り伏せました。
霧と化した左腕を元に戻し、枝を伸ばしてロボを狙うマイチョウを一頭叩き斬りました。
『かたじけないでござる!』
『ヴァン、二階ノトコ、有翼人』
プックルの声に導かれ、城の二階、パンチョ兄ちゃんが守っていた入り口上部に目をやります。
「ロボ、もうしばらく一人で大丈夫ですか?」
居ました。
二階テラスに四人の有翼人です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます