81.5「パンチョ:七十年前のボルドヴィック」

 そうであったわ。

 ボルドヴィックの町はあの頃、昏き世界から来た神の眷属『神の影』に怯えて暮らす町のひとつであったな。


 今回は迷子になった上、海を泳いで渡る羽目になったお陰で訪れる機会を得た。


 長逗留になってしまったが、当時の事を覚えておられた老婦人にも会って話が聞けた。

 老婦人と言っても、我よりとおも下だがな。



 我は七十年前、十七であった。

 彼女は当時七つ。


 昏き世界から来た神がこの世界に降り立ち、いくつもの『神の影』が暴れ回った。


 いくつかの村や町は壊滅。このボルドヴィックも同様の未来を辿るかに思われたが、今で言うタイタニア領の向こう側、西の国からの軍隊が間一髪で間に合ったそうだ。


 我はこの頃、どこら辺りをウロついていたものか皆目覚えておらん。恐らく迷子になっていたのだろう。


 彼女は強そうな騎士達を眺め、これでボルドヴィックは救われた、そう思ったのを良く覚えていると。


 しかし軍隊と『神の影』の戦闘は一方的で、数日後には軍隊はほぼ全滅。

 残された騎士達は、援軍を呼びに本国に戻るとの言葉を残し西へと去ってしまった。


 あぁ、これでボルドヴィックも終わり、私も家族も、友達もみんな、終わりだわ――


 彼女はその時の絶望感で一気に老けたと、当時七つのクセに、そう思ったと。



 今、七十七歳になっても、あの時、颯爽と現れた五英雄様の姿は忘れない、とも。


 その直後に現れた五英雄、人族の勇者ファネルはとにかく明るく、竜族の長アンセムは頼もしく、獣人の王ガゼルは強そうで、妖精女王タイタニアは美しかった。

 そして真祖の吸血鬼ブラムは強く、美しく、恐ろしかったと。


 『神の影』との戦いは、七つの小娘から見ても、打って変わっての一方的なものになったと。


 その後、ボルドヴィックを襲う『神の影』を駆逐した五英雄はしばらくこの村を拠点とし、残る『神の影』と、昏き世界から来た神との戦いが激化していった。



 この頃だな、我がボルドヴィックに辿り着いたのは。


 師に弟子入りを志願し、認められ、この明昏天地あかぐらきてんちの宝剣を頂いたのだ。

 あの時、師は仰った。


『俺は魔法も得意だから普通の剣で良いんだよね。これ使ってこの村を守っててね』



 その後、五英雄様方が半年ほどで昏き世界から来た神を倒された。

 この村が襲われる事は一度もなく、我に出番はなかったのだ。



 さて、そろそろブラム様の城を目指して出発しようか。

 確か数日で着いたはずだな。


 老婦人に別れを告げ、ボルドヴィックでの長逗留にも別れを告げた――

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