81「元気がない」
おはようございます。
ヴァンです。
あまりしっかりとは眠れませんでした。
なんだか色々と考える事が多いと落ち着きませんね。
もちろん僕は一日二日眠らなくてもどうという事はありませんけどね。
「みんな、そろそろ起きて下さい。朝食を済ませてとっとと出発しましょう」
「……もう朝っすか? あんまり寝らんなかったっす……」
そうですか?
割りとすぐにタロウのいびきは聴こえてきましたが……
「なんか考える事が多いと眠れんすね」
「タロウ、もしかして貴方、今でも魔力循環しながら寝てるんですか?」
「してるっす。いつからか魔力循環してる方がよく眠れるようになったっす」
明き神の魔力が使えるから必要ないんですけど、魔力の扱いの練習になって良い事ですね。
そんな事できる方が異常ですけど。
みんな起きましたね。
僕が用意した朝食へ、タロウ、ロボ、ロップス殿、最後にプックルが手を伸ばしました。
もちろんロボとプックルは手を使いませんよ。
タロウの悩み事が何かは分かりませんが、僕の悩み事の一つは――プックルの事です。
いつ頃からでしょうか。
見た目や言動はそう変わりませんが、なんとなく元気が無さそうなんですよね。
今考えると、イギーさんとアンテオ様に初めて会った頃からでしょう。
獣の本能として竜族を恐れる気持ちのせいだと思いますが、心配ですね。
「プックル、お腹いっぱい食べて下さいね」
『ヴァン、肉、多メデ、オカワリ』
あれ? 食欲たっぷりですね。
気のせいだったでしょうか?
たっぷりと盛って差し出したスープを、舌を上手に使ってペロリと食べたプックル。満足そうです。
元気なら良いんです。
「じゃあ行きましょう。あと二日で森を抜け、もう二日で父の城です」
いつも通りちらほら現れる魔獣や獣を肉に変え、見つけた木の実や野草を回収しながら進みます。
「そういやロップスさん」
「なんだ?」
「ガゼルさんに体術も習ったって」
「おお、この前も少し使っていただろう?」
「え? どれっすか? 分かんなかったっすけど」
唐突に、ロップス殿が人差し指を立てた右手を上に掲げました。
「天が許したとしても!」
左手の人差し指を伸ばし地面に向けたロップス殿。
「この大地が許したとしても!」
立てた両手の親指で御自分の顔を指すロップス殿。
「この私が許さん! ……この
「ガゼル仕込みの技、厨二過ぎーー!」
まさかあの部分がガゼル様仕込みとは……。それって体術に含まれるんでしょうか……?
「それって何か意味があるんですか?」
「意味? 意味なんかいらんだろう。強くてさらにカッコ良ければ」
カッコ良いんでしょうか。
僕、おじーちゃんなんで若者が分からないです。
「ガゼル様が言うには、自分を鼓舞して戦いに挑むのだそうだ。それがあのような形として昇華されておると。うむ、実に理にかなっておる」
…………なるほど。
なんとなく納得してしまいそうですね。
「そうっすか。ロップスさんだけじゃなくてガゼルさんも厨二病だったんすか」
「そのチュウニビョウというのは何なのだ?」
「中学二年生がかかる、カッコいい物が好きになる、ある意味で病気みたいなもんっす」
「チュウガクニネンセイ?」
「十……三歳くらいっす」
「じゃぁ私はほぼちょうどだな。問題なし」
本当にちょうどですね。ロップス殿は十二歳ですし。
「ガゼル様はいくつだ?」
「百十歳を少し過ぎたくらいかと」
「なら百歳抜いてちょうどだな。一周回って良しとしよう」
ロップス殿のおかげで雰囲気が明るくなりました。やはり重い空気のまま進むのは気持ちの良いものではありませんね。
予定通り二日で森を抜け、抜けた所で野営です。
「明日から二日、背の低い草ばかりの草原を歩けば父の城です。夜が明ければ城が遠望できると思います」
「ブラムとーちゃんだけお城住まいなんすね」
「元々は昏き世界から来た神の城だったんですが、そこで結界を作ったので住まざるを得なかったとの事です」
焚き火を囲んで夕食にします。
イギーさん達と出会ってから後は、肉や野草もそれなりに確保できましたのでしばらくは食材には困りません。
「昏き世界から来た神、って何しに来たんすか?」
「詳しくは分かってないんですけど、この世界を手中に収めるのが目的だったと言われています」
「はっきりは分かってないんすか」
僕が知る当時の事をみんなに話しました。
――僕が十一歳の時です。不気味な紅い光で夜空を染め、轟音と共に昏き世界から来た神が飛来しました。
その際、地上に降り立った衝撃で付近の村や町は消滅。その後、当時この大陸にいくつかあった国から調査隊が派遣されたそうですが、調査隊が見たのは広大な窪んだ荒野が広がり、その中央に城だけが聳えていたそうです。
明日から歩くのがその時にできた窪地ですね。
その後、昏き世界から来た神の眷属『神の影』と呼ばれる黒く霞んだような人型をした物が数百体現れ、時に人と、時に魔獣と、こちらの生き物に入り込むように同化。
同化した生き物を乗っ取ってしまいました。
体を得た『神の影』は窪地から近い町や村を襲い始めたんです。
各国は軍隊も差し向けましたが、敢えなく返り討ち、そこで立ち上がった五英雄たち。
五英雄の活躍によって、『神の影』は全て駆逐、昏き世界から来た神をも倒しましたが、世界の四分の三は失われ現在の姿に、というのが七十年前の戦いです――
「はい!」
「はい、タロウくん」
「その『神の影』って強かったんすか?」
「そうらしいです。同化した生き物の力を数倍から十倍程度引き上げたそうです」
少し沈黙。
「十倍って……。強くなりすぎちゃいます?」
チャイマス、は、違います、ですよね。このあいだ覚えました。
「ええ、僕もそう思います。一対一なら僕でも勝てるでしょうが、数百体ですからね」
変に盛り上がるタロウを尻目に、やはりプックルに元気がない気がします。
気になりますね。
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