80「エンビア村の惨劇」

 イギーさんとアンテオ様が去ってから数日が経ちました。

 僕らは西へ西へと、森の中を横断中です。


『ねえヴァン殿、あれから考えてたんでござるが』

「なんです?」


『それがしもロップス殿の魔力操作の技、できるでござろうか?』

「できるとは思いますが、お勧めはしませんね」

『え? そう……で、ござるか……』


 あ、見るからにションボリしてしまいました。


「止めておけ。この技のリスクはこの前話した通りだ」

『でも喰らわなければ良いってロップス殿も……』


「私には竜鱗がある。叔父上の竜鱗に比べればやわいが、それでもそこそこの耐久力がある。それが無ければこんなリスクの高い技はできん」

『……そう、で、ござるか』


 実際問題、恐らくロップス殿の竜鱗だって大して役に立たないでしょう。ロボに気を遣ってああ言ってくれただけだと思います。

 ロップス殿は相当な覚悟を持った上での選択ですから止めませんが、ロボには勧められません。


 ロボも以前に比べれば戦力に数えられるくらいには成長しています。

 昨日も森で出会でくわしたマトンや狐の魔獣マコたちはロボとタロウで仕留めて貰いました。

 それでももっと役に立ちたい思いがあるんでしょうね。


「それにロボの精霊力量がどの程度あるのか、僕らには見当もつきませんし、精霊力の効果的な使い方も分かりません。タイタニア様に伺ってから考えましょう」


 ロボの霊法の練習はあまり芳しくありません。魔法元素との相性は悪くなさそうなんですが、精霊力との混ぜ方が僕にもロボ本人にも良く分からないんです。


 やはり精霊力は精霊女王に教えて貰うのが一番でしょう。





 アンテオ様の威圧で追い散らされた獣や魔獣たちも森に戻ってきているようで、その後の数日間はチラホラ現れる魔獣を食糧としながら進みました。


 移動中もロップス殿は魔力操作の練習を怠っていません。

 この技の良い所はやはり、『魔力を放出および消費しない事』これが大きいですね。

 僕らが使う一般的な魔力による身体強化は魔力を消費しますが、この技は体内のあちこちに魔力を集めるだけですので、魔力量の少ないロップス殿向きです。


「この先の森が開けた所に村があるはずです。そこで一泊しましょう」






「村って……これっすか?」


 エンビア村は閑散としていました。

 建物は所々破壊され、地面には魔法で穿たれたであろう穴がいくつも開いていました。


「戦いの跡だと思うか?」

「戦いと言うよりは、蹂躙と言う方が正しそうですね」


 とにかく生きている村人がいないか捜索です。

「タロウはプックルと、ロボはロップス殿と、敵がいないとも限りません、三手に別れて怪我人がいないか探しましょう」

「おす! プックルよろしくっす!」



 結論で言いますと、一人の生存者もいませんでした。皆殺しです。

 予想はしていましたが非常に残念です。


「死体の数は少ないですが、夥しい血の跡……恐らくは魔獣の襲撃でしょう」

「喰われた……か」


 残された死体には噛み跡や爪跡に数種のものが確認できました。

 最低でも三種。恐らくマロウ、熊の魔獣マユウ、あとは鳥、鷹の魔獣マヨウでしょうか。


『何があったか、明き神なら分からんでござろうか?』

「そうですね。タロウ、聞いてみて貰えますか?」


 タロウが白眼をむいて口を開きます。


 少し沈黙。


「……明き神さま居なかったっす」

「そういう事はよくあるんですか?」

「けっこうあるっす。というかこの何日かはいつ行ってもいないっす」


 タロウは以前、明き神が中に入った、というような事を言っていましたが、タロウの中に明き神がいて会話できる訳ではなく、明き神がいる空間(?)に精神が出入りできるようになっているそうです。


「明き神の力は使えるのか?」

「それは問題ないっす。ほら」


 タロウが足から明き神の魔力を吸い上げ、紫の魔力を纏いました。


「ね。使えるっしょ」




 嫌な予感がします。

 僕の考え通りなら襲われる事はないでしょうが、ここでの滞在は見合わせて次へ向かいましょう。


「エンビア村での滞在は避け次を目指します。良いですか?」

「気にはなるが長く居たい所ではない。賛成だ」


 エンビア村を後にし、少し西へ向かった森の中で野営にします。



 重い空気の中、黙々と食事の準備を進めます。さすがにお肉を食べる気はしませんね。


「先程の村だが、どう思う?」

 食事が始まると共にロップス殿が口を開きました。


「こっちの世界ではああいうのって、あるもんなんすか?」

「無いことは無いです。ですが数種の魔獣が徒党を組んで、というのは僕が聞いた限りではありませんね」


 群れを作る魔獣は多いですが、マロウならマロウ、マエンならマエンという風に同種の魔獣で群れを成すのが普通です。


「それを踏まえてどう思う?」

「恐らくは有翼人絡み、でしょうね」

『え? でもイギーが襲わないって言ってたでござる!』


 イギーさんは、ヴァン達を襲わない、って仰ってました。


「襲われたのは僕らじゃないですからね。数種の魔獣を操って村を襲ったと考えるのが妥当かと思います」

「一体なんのためっすか?」

「なんのため?」

「俺たち襲わんのなら、もう魔獣いらんのちゃいます?」


 チャイマス?

 ああ、違います? ですかね。

 タロウの言うのももっともですね。


「確かにそうです。イギーさんが言っていた事を鵜呑みにせずにいた方が良いかも知れませんね」


 イギーさんが言っていた『計画の変更』についても、当初の計画も新しい計画も内容が分かりません。

 それに、『しばらくは』僕らを襲わない、と言っていました。いつかは襲う、という事ですよね。


「やはり出来るだけ早く五英雄の証を集めましょう。もうあと二日もすれば森を抜けます。その後二日で父の城です」

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