75.5「パンチョ:タイタニア領へ」
それにしても酷い目にあったわ。
我はアンセム領の北西から海へと至り、泳いで北を目指した。
鎧や剣は魔力で完全防水仕様にした袋に仕舞い、そうしておいて海を泳いだ訳だが本当に酷い目にあった。
数日間は真っ直ぐに北に進めたんだがな、最初に見つけた小島でたっぷりと休息し、また泳ぎ始めて二日後、潮目が変わって急激に西へ西へと流されてしまったのだ。
現在のこの世界の現状は皆が知るところであろうが、世界の果てには五英雄様方が維持されている結界がある。
これはあまり知られていないが、結界を強く押すと向こう側、昏き世界に抜けてしまうのだ。
西へ流されながら冷や汗をかいたものよ。
このままでは結界にぶち当たって昏き世界へと飛び出してしまう、とな。
しかし無事にタイタニア領へと渡りきった我を見れば皆、結界にぶち当たらなかったと安心するであろう?
否、ぶち当たったのだ、結界に。
ぶち当たる瞬間は本当に肝が冷えたぞ。完全に死を覚悟したわ。
結論を言うとだな、どうやら海やら川やらの水面下の結界は向こうへ抜けない様になっているようだ。
身をもって経験せねば分からなかったが、実際やってみれば当然だわな。でなければこの世界の海や川の水は昏き世界へだだ漏れだ。
その後は楽なものよ。
結界づたいに北へ北へと泳ぎ、疲れたら結界に体を添わせて休み、また北へと泳ぎ続けたのだ。
食事だけはひと苦労だったがな、結界にへばりつけば水面に上半身を出すくらいは出来たから、まぁ、なんとかなった。
思えば結界が無ければ、我は食事さえままならんかったのだ。
やはり計画は重要だぞ。心せよ。
時々は見つけた小島に上陸したが、恐らくひと月ほど海にいたのであろう。体がふやけてどうしようもなかったわ。
陸に上がって数日間は休息し、ふやけた体を戻すに努めた。
そして現在はタイタニア領の南西から北へ向かっている。
確か我の記憶では十日ほどの行程のはずだが、かれこれ二十日ほども歩いておるのだがまだ着かん。
まさかとは思うが、また迷子と言う事はあるまいな?
はっ、笑止な。
我はかつて世界を旅した男ぞ。
しかも我が師ファネル様に遂に出会えた地は、ここタイタニア領だ。
我に限って何度も迷子などと……
……ないよな?
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