75「明き神の教会へ」
「まだっすかヴァンさん?」
「もうちょっとです。あ、ほら、見て」
『細いでござる!』
『細イ、モウチョット』
「おお、遂に消えるぞ!」
みんなで僕の足の親指を覗き込んでいます。
「いくっすよ! さーん、にー、いーち――」
「『消えたー!』」
この二ヶ月と少しの間、出続けていた僕の煙が遂に消えました。
感慨深いものがありますね。
「これでようやく堂々と外が歩けますね」
「長かったっすねー」
膝くらいまで回復した時にプックルの背に乗せてもらって街に出たんですが、衛兵さんに止められてしまったんです。
事情を知っている獣人の方だったので怒られた訳ではありませんが、外出は控えるように言われてしまいました。まぁ、当然ですね。
見た目はシュールですが、火事と見間違うほどの煙でしたから。
「じゃあ、足慣らしも兼ねて、教会まで散歩しましょうか」
「……教会、っすか?」
「明き神詣りの翌日に予定していたでしょう? ランド神父のご実家の教会ですよ」
「……ランド神父? 誰だ?」
『ちょっと分からないでござる』
『シュタミナー村ノ、神父』
覚えてたのはプックルだけですか。とほほ。
「あ、思い出した! マエンのじーちゃんの!」
「そうそう、その教会ですよ」
「いたな、そんなの」
ガゼル様のお屋敷から西へと歩きます。
良いですね、自分の足で外を歩けるのは。
ロボも嬉しそうに、寄り添うように僕の隣を歩いています。
こちらですね。
僕が管理しているペリメ村の教会より少し大きい教会です。
「ごめん下さい。どなたかいらっしゃいますか」
扉を開いて声を掛けます。
「どなたかな?」
豊かな白髭を蓄えたご老人がいらっしゃいました。
「アンセム領ペリメ村のヴァンと申します」
「これはご丁寧に。私はこの教会の神父、フランと申します」
ランド神父のお祖父様でしょうか。
「教えて頂きたい事がありまして伺いました」
「ほう。私に分かる事なら良いですが……」
よく考えると説明が難しいですね。
明き神の件、タロウの魔力感知できない問題ですね、これは一応解決しましたし、順番に、必要な事だけ伝えていきます。
ファネル様の下を尋ねる旅の途中である事。
ロッコノ村の北の森で賢いマエンに出会った事。
そのマエンからこちらの教会に研究熱心な神父がかつていたと聞いた事。
シュタミナー村のランド神父から、お父様とお祖父様が現役の神父であると聞いた事。
これらを順序だてて説明しました。
けっこう長く喋りましたが、フラン神父は居眠りする事なく聞いてくれました。
タロウ達はウトウトしていますが……。
「そうですか、ランドにお会いになりましたか。元気にしておりましたか?」
「ええ、二十年ほど前にお会いした時よりも随分と頼もしくなられておりました」
「……二十年前? 失礼ですが……」
「――? ああ、若く見えますが僕は八十二歳、ダンピールなんです」
「八十二歳! 驚きました。私と同い年ですな」
奇遇ですね。
僕もランド神父くらいの孫が居てもおかしくない歳ですか。
「して、私に聞きたい事とは?」
「はい、その老マエンから聞いた研究熱心な神父様の資料に、昏き世界の者どもの事が載っていないかと思いまして」
「恐らく私の祖父の事でしょうな。しかし私は研究の方はさっぱりでして……」
本職は神父さんですからね。研究熱心まで遺伝するとは限りませんよね。
「息子の方が詳しいでしょう。用事で出掛けていますがもう戻る頃です。しばしお待ち頂いてもよろしいか?」
しばらく待たせて頂く事にしました。
「昔に猿住んでなかったっすか?」
「先ほどの話に出たマエンの事ですな。ええ、祖父の若い頃には住んでいたそうです」
「じいちゃんのじいちゃんすか。マエンのじーちゃんいくつなんすかね?」
八十足す五十としたら百三十歳くらいですね。
「猿相手に研究内容をよく話したと言っていましたね。不思議と理解している気がしたとも」
「さすがっすねマエンのじーちゃん」
「ああ、戻ったようです。マルク、お客様がお待ちだ」
「お客様ですか? どなたです?」
ランド神父によく似た方が顔を見せました。
結論から言いますと、特に得るものはありませんでした。
研究資料も見せて頂きましたが、明き神信仰についてのものばかりで、昏き世界の者どもについてはほぼ皆無でした。
教会からの帰り道、足を伸ばして馬の獣人がやっている牧草の美味しい店までやってきました。
「そういやマエンのじーちゃんも昏き者どもについて、なんて一言も言ってなかったすもんね」
「そうなんですよね。もしかしたら何か分かるかもと何故か期待してしまいました」
「いや、しかし竜の因子については少し興味深いものがあった」
そうですね。
マエンの長の言っていた通り、竜の因子とは明き神の
『この世界の誕生から幾星霜を経て、溶岩や岩、鉱物だらけの世界に最初に生まれた生命が明き神の欠片を持つ竜でした。
今の竜族よりも大きな欠片を持った竜。そしてさらに年月が経ち、知性を持った竜が生まれ、そしてその他の生命が生まれ、それらを教え導いた竜たちがいた。
その他の生命には、我々人族も含み、その竜たちを神とも崇め、彼らの教えに従い豊かな繁栄を育んだ。
しかし、
大変興味深いお話でした。
長く生きていますが、この世界の歴史については知らない事ばかりですね。
『難しくってよく分からなかったんでござるが、明き神本人に聞けば良かったんではござらんか? タロウ殿が』
少し沈黙。
タロウの顎が下がり白目をむきました。
「…………そうっすか。大体その通り、人族は勉強熱心だな、って言ってるっす」
そうでした。
いるんでした、明き神本人がここに。
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