74「二ヶ月後」

 お腹が爆発してから二ヶ月経ちました。


「タロウ! 待たせたな!」


 みんなで大部屋でのんびりしていたら、急にガゼル様に呼び出されました。

 僕の脚もようやく足首まで元に戻った所で相変わらず煙モクモクです。


「急にどしたんすか?」

「どうしたもこうしたもない。ワシの証をくれてやろうと思ってな」


 そういえばまだ頂いてないんでしたね。二ヶ月は滞在する予定でしたから、余裕がある気がして忘れかけていました。


「あ、そうなんすか。何して認めてくれたんすか?」

「いや特にない。強いて挙げれば、二ヶ月も住んでおったからな、タロウの人となりも良く分かった、まー良いかなってな」


 少し沈黙。


「……そんなんで良いんすか?」

「ワシが良いと言えば良いんじゃないか?」


「んーー、まー……、そっすね! ありがたく頂戴するっす」

「良し。タロウ、近く寄れ」

「おす」


 ガゼル様のいらっしゃる一段高い所へタロウも登ります。

 ガゼル様は大きい獅子の獣人、二人で登ると狭そうですね。


「登らなくても良い。降りろ」

「おす!」


 そしておもむろにタロウの顔面を掴むガゼル様。


「ちょっ! 待っ――! 嫌な予感しかしないんすけど! まっ――」


「ふん!」

「ぐわぁぁ――――ふんす!」


 タロウが魔力で身体強化を発動したようです。


「こらタロウ、それでは出来ん。魔力を閉じろ」

「嫌っすよ! なんでみんなアイアンクローなんすか!」


「他の連中は知らんが、ワシはこうしか出来ん」

「…………分かったっすよ」


 渋々といったていでタロウが身体強化を解除しました。


「今だ! ふん!」

「ぐはぁぁぁぁ……ぁぁ……」


 ガゼル様の手が離れるや否やドサリと崩れ落ち、頭を抱えて転げ回るタロウ。


「うぅぅ、なんで五英雄の人はことごとくアイアンクローなんす……」

「どうだ、上手くできたか確認しろ」

「できてなかったら怒るっすよ、もお」


 タロウが胸元を開いて覗き込みます。


「おぉ! 黄色! アンセムさんの緑の横に黄色の丸!」


 タロウの胸の中心からやや左側に緑に塗り潰された円、その内側に新しく黄色に塗り潰された円が現れました。


「緑の次は黄色っすか。次が赤だったら信号みたいやーん!」


 シンゴウ? なんでしょう、久しぶりに分からない言葉ですね。


「ふう、上手くいったか」

「あんまり自信なかったんすか?」


「全くなかった。ワシ、身体強化にしか魔力使えんからな」

「そうなんすかー」


「おいタロウ。そうなんすかー、で流す所じゃないぞ。身体強化にしか魔力使えんということは、魔法が使えんという事だ」


「そうすね。それがどうかしたんすか?」

「バッカおま、魔法なしで五英雄の一人たり得たということだぞ?」


 ロップス殿の言う通り、ガゼル様以外は魔法も得意な方々ばかりです。

 その中で見劣りしない戦力足り得るのは、圧倒的な武力によるものですね。


「そしてぇ! そんなガゼル様に二ヶ月みっちり鍛えて頂いた私! 今後の活躍に期待するが良い!」


 ビシィッと両手の親指を立てて御自分の胸の辺りを指して言うロップス殿。

 そうだったんですね。ロップス殿はタロウの特訓に付き合いながら、御自分の特訓もされていましたか。

 頼もしいですね。


「ヴァンの回復はどうだ?」

「あと数日で完全に元通りですね」


「では数日後には出発か?」

「あ、いや、元通りになってから数日はなまった体を元に戻すのにあてて、十日ほどで出発ですかね」


 みんなレベルアップしてますもんね。鈍った体では足手まといになりそうですよ。


「そういえばロップス殿、新しい槍をまだ買っていませんが買いに行きますか?」

「ふふふ、もう必要ない。ウギーにコツを教えてもらってからの特訓で完全にマスターした。見よ」


 ロップス殿の掌の中に魔力で作った球体が現れ、それを握りしめると緑色の細い棒が出現しました。


「長さも太さも、強度さえ魔力の調節だけで思い通りだ。しかもだ、何が良いって使い捨てでないのが良い」


 棒が球体に戻り、ロップス殿の掌から吸収されました。


「私の魔力は大した量じゃないからな。良い事教えてくれた、ウギー様々だ」


 色々応用が効きそうですね。今度僕も練習してみましょうか。



「次はブラムの所か?」

「ええ、順路的に父の所、その後でタイタニア様ですね」


 ここガゼル領の西隣がブラム領、そのさらに西がタイタニア領です。


「父の呪いも解けましたし、目も覚めているでしょうから」


「それなんだがな。本当に目覚めておるのか?」

「と言いますと?」


「オマエから聞いたその、ブラムの呪い、か? それが解けたのは分かるが、結界を通じて呼び掛けても反応がないのだ」

「え? そうなんですか?」

「あぁ。タイタニアだけは煩いほどだが」


 てっきり父が目覚めたから呪いが解けたものと思っていました。僕の魔力を必要としない程度には回復した、という事なんでしょうか……?

 実は僕の考えでは、明き神の魔力をタロウから大量に奪ったお陰で父の呪いへの魔力流入量が増え、その結果父は目を覚まし、尚且つ僕の体もギリギリ爆発せずに済んだ、のかも知れないと考えていましたが……。


「考えても分かりませんね。どうせタイタニア領に向かう道中です。一度寄ってみるしかないでしょうね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る