76「出発へ向けて」
「次はブラム領を目指しますが、もう少し待って頂きたい。
ガゼル様のお屋敷の大広間です。牧草の美味しい店から戻った昨夜からは僕も大部屋に移りました。煙止まりましたからね。
「それはもちろん構わんが、日程的には大丈夫か?」
そうなんですよね。
アンセム様の下を離れたのが二月の頭、なんやかんやで現在は六月の中旬です。
年内にはファネル様の下を訪れねばなりませんから――
「残りは四ヶ月半です」
「あ、そっか、この世界は十ヶ月で一年だったすね」
「ええ。偶数月は二十七日、奇数月は二十八日の十か月で二百七十五日です」
「すっかり忘れてたっす」
でしょうね。
アンセム様の所で説明したっきりですからね。
「父の所を通ってタイタニア様、そこからファネル様の下へ行くだけならふた月半ほどです」
「余裕だな。何事もなければ――だが」
そうなんですよね。
『でもヴァン殿が万全の方が良いに決まってるでござる』
「強くなった私がいれば充分な気もするが、まぁ、そうだな」
「俺も強くなったっすけど、そりゃそうっすね」
二人とも自信ありげじゃないですか。頼もしいですね。
「時間も余裕があるんだかないんだかはっきりしませんが、出来るだけ万全で臨みたいですからね」
今日を含めて三日、その翌日に出発として準備を進めましょうか。
お供してくれるそうなので、ロボ一人を連れて明き神の山頂目指してひとっ走りしています。
鈍った脚には走るのが一番です。
『ヴァン殿、珍しく二人っきりで外出でござるな!』
「いつ振りでしょうね。もしかしてロボと出会った時のマロウの森振りですか?」
『そうでござるよ! デェトする暇もないでござるよ』
あの頃は僕の胸の中に入れて走りましたね。
『ヴァン殿! 遅くなってるでござるよ!』
万全でないとは言え、僕よりも走るのが速くなりました。タロウもロップス殿も、プックルはよく分かりませんが、みんな成長しています。
僕も負けていられませんね。
「ふーーっ、ロボは本当に脚が速くなりましたね」
『そうでござろ! あの頃のままのそれがしではないでござるよ』
それにしても、この登山道もボロボロですね。主にタロウが暴れたせいですが。
あんまり大きな穴は危ないので、土の魔法を使って埋めておきました。これで安心ですね。
街へ戻るとガゼル様の部屋で、ロップス殿がガゼル様から最後の教えを受けていました。
どうやら少ない魔力を活用する技術を教えて頂いているようですね。
ウギーさんに教えてもらった武器を作る技と、ガゼル様の身体強化を併せて戦えばさらに強くなりますね。
大部屋ではタロウとプックルがお昼寝中でした。
「しばらくベッドも使えんすからね。今の内に堪能しとくっす」
さすがはタロウですね。
『ヴァン殿!? また脚から煙が出てるでござるよ! 怪我したでござるか!?」
「ああ、大丈夫。これは筋肉痛です。ここのところずっとモクモクしてましたから出やすくなってますね。じきに止まるでしょう」
魔力に余裕があると、多少無茶しても影響が出ないので助かりますね。
「ロボの魔力操作の練習も今日はお休みして、僕らもお昼寝しましょうか」
『承知でござる!』
今日はもう何もしません。
のんびりとロボをモフモフして過ごしましょう。たまには良いですよね。
おはようございます。
ヴァンです。
「やはり父の反応はありませんか?」
「ないな。ファネルもないが、
それにしても、僕の十倍以上はあるであろう父の魔力がそこまで消費するって凄いですね。
万が一タロウにもしもの事があっても、替わりの生け贄を用意するのはやはり難しいですね。
「もう出発だな」
「はい。明後日を予定しています」
「オマエらがいたふた月と少し、なんやんかんやで楽しかったわ。無事に世界を救ったらまた顔を出せよ」
「ええ、無事にお役目を果たせましたら」
その後はタロウやロップス殿に加えてロボを相手に実戦訓練です。
みんな成長が見られて楽しかったですが、魔力が完全になった僕がそれでもまだ一番強いです。
ホッとしました。
ただの道に詳しいおじーちゃんポジションになるかと心配でしたから。
そして翌日は買い物です。
と言っても特別な買い物はありません。
みんなに新しい服を買い、保存食などに加えて旅の必需品を買い込んだだけです。
ちなみにふた月前にどこかにやった僕のメガネは既に新調済みです。
先月、街のメガネ屋さんに来て頂いたんです。モクモク煙が出てる中での視力検査は大変でした。
さて、今晩ぐっすり眠れば、明朝はブラム領を目指して出発ですね。
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