77「出発、再会」

「おい、出発前にどうでも良いかも知れんが、昨夜タイタニアからな、『丸顔のジジイが来た、昔の可愛かった面影が全くなくてショックだったわ』と連絡があったが一方的に言って切れた。お前ら知らんか? 丸顔のジジイ」


 タロウと顔を見合わせて頷きます。


「丸顔のジジイっつったらパンチョさんすね」

「たぶんそうでしょうね」


「パンチョ? 知らんな」

「ファネルさんの一番弟子の、っすよ?」

「ファネルの……、なんか昔そんなの見たような気がせんでもないような……」


 分かります。

 ガゼル様もお歳ですからね。昔の事がスッと出て来なくなりますよね。確か百十歳になられたくらいだったでしょうか。


「ねぇヴァンさん、パンチョさんてそんなとこ行く予定でしたっけ?」

「伺っていませんが、そんなコースになったんでしょうね。さすがに海を渡ってではないと思いますから、ブラム領を通ってタイタニア領、そこからファネル領に入るんでしょう」


 タイタニア領から北にも山がありますから、わざわざ過酷なコースを辿っている気がしますが。



「まぁ丸顔のジジイの事は別に良い。出発の準備は済んだか?」

「はい、滞りなく」

「では行け! 反応のないブラムとファネルによろしく伝えてくれ!」




 ガゼルの街を西から出て、山頂を右手に見つつ、西へ西へと向かいます。

 ブラム領の中心、父の所まではひと月足らずの予定です。


「アンセムさんとこからガゼルさんとこに比べたら近いんすね」

「ガゼル様も足が速いですが、なんと言ってもアンセム様は高速で空を飛びますからね。父の所から一番、ダントツで遠いのがアンセム様です」


 歩き始めて早々、タロウが口を開きました。


「ウギーあれから来なかったすね」

「ええ、あれからひと月以上ですから。もう一回くらい顔を見せてくれるかと思ったんですけどね」


 南の麓の森にいると仰ってたんで寄りたかったんですが、数日分の遠回りになってしまいますからね。


「まぁ、僕らと戦いたがってましたし、またひょっこり顔を出すでしょう」

「げー。ウギーと戦うのはもう勘弁っす!」

「私は戦いたいぞ! もちろん殺し合いという意味ではないがな!」


 そうですね。

 せっかく仲良くなりましたし、殺し合いはもう勘弁ですね。




 出発から十日ほど、ようやく岩場の多い所を抜けました。かなり山を下ったので久しぶりに森が見えてきました。


 ここまで魔獣や有翼人に襲われる事なく平和に来れました。


「そろそろ魔獣も多く棲息している地域です。用心して下さいね」


「おす!」

「腕がなるぞ!」

『承知でござる』

『平和、イチバン良イ』


 ガゼルの街で買い込んだ食糧も頼りなくなって来ましたから、普通の魔獣には襲ってきて欲しいくらいですけどね。


 森の手前、木々が疎らに生えた所で野営にします。

 献立は特に変わったものではありません。


 この十日間と同じように食事して就寝です。

 おやすみなさい。


 このまま何事もなく旅が続くと良いんですけどね。





 おはようございます。

 ヴァンです。


 まだ全然明けてないんで、夜なんですけどね。やはり何事もなく、というのは甘いですか。


 森の中から多数の獣の叫び声が聞こえ、鳥が一斉に飛び立ちました。


「みんな、起きて下さい」

「あんな声だ。もちろん目覚めている」

『それがしも』

『タロウ、寝テル』


 さすがタロウ。ぶれませんね。


「プックル、起こして下さい」

『分カッタ』


 プックルに元気がありません、本能的に怯えている様です。



「この威圧感……叔父上か……」


 いきなり大物過ぎませんかね。短い平和でした。



「久しぶりだぞ。元気だったか?」

「しばらく臥せっていましたが、今はもうすっかり元気です。イギーさんは?」


 森から左腕のないイギーさんと、人の姿で右目を閉じたアンテオ様が現れました。

 ロップス殿が抉った右目は回復していないんでしょうか。


 お互いの不足を補う様に、向かって左手にイギーさん、右手にアンテオ様が並んで立ちます。


「ああ、僕らはずっと元気だったぞ」

「そうですか。でもアンテオ様は元気そうでもないですね」


 目は落ち窪み、細身の体はさらに細く、やつれた様に見えます。


「そうか? この三ヶ月ほど色々試したんだが、この状態が一番バランスが良いみたいなんだぞ」


 ロップス殿が一歩前へ進み出ました。


「叔父上を解放しろ!」

「お、アンテオの甥っ子か。この前は一番最初に吹き飛ばされたクセに威勢が良いじゃん」

「やかましい! あの時の私と同じと思うなよ!」


 ロップス殿が踏み込もうとしたその時、ようやくタロウが起き出してきました。


「あれ? アンテオさんとイギーっすか? もしかしてバトル開始?」

「そうだ! ちょうど開始だ!」


 言うや否や、緑色の棒を作り出したロップス殿が跳びかかりました。

 イギーさんでなく、アンテオ様に向かって。


「叔父上! 目を覚ましてくれるわ!」

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