72「明き神の魔力」+

 タロウの繰り出した炎弾で辺り一面穴だらけですね。


 タロウが僕のお腹を指して言います。


「ところでこれ、いつ治るんすか?」


「ずいぶん前に竜の魔獣に腕を食い千切られた時は、元通りに腕が生えるまでひと月近く掛かりましたね」

『お腹から下でござるから……ふた月くらいでござろうか?』


 今もお腹から濛々と煙が上がっていますが、血も止まってとりあえず痛みはありません。


「ヴァン達はこれからどうするの?」

「とにかくガゼルの街に戻ります。まだ用事も済んでいませんし」


「ウギーさんは?」

「どうしよっかなって。指切りの魔術の効果が切れてもヴァンこんなだし、襲っても面白くないだろうしなー」


 そうでした。僕らは敵同士なんでした。


「しっかしモクモクモクモク邪魔な煙だね」


 ウギーさんが僕のお腹辺りにフーフー息を吹きかけて煙を散らします。

 

「うわ――グッロ! 煙で隠しとかなきゃだめだねコレ」

「ほう? 私にも見せてくれ。……グロ!」

「じゃぁ俺も。……グロいっす!」


 ……みんな酷いですね。

 お腹から下は爆発したんですから、綺麗な訳ないじゃないですか。

 ヴァン先生は悲しいですよ。


「ウギーさんも一緒に街へ行きませんか?」

「ぼくが? ヴァン達と一緒に?」

「ええ」


 うーん、と腕を組んで首をひねるウギーさん。


めとく。アギー達に見つかったらカッコ悪いし」

「そうですか。残念です」

「まぁしょうがないよね」


 ウギーさんが居なかったら、僕らは全滅していたかも知れません。


「ウギーさん、本当にありがとうございました」

「私も礼を言う。助かった」

『ありがとうでござる!』

『アリガト』


 タロウがウギーさんに歩み寄り、手を取りました。


「ほんっとうにありがとっす! ウギーのお陰でみんな殺さずに済んだっす!」


 ブンブンと上下に手を振ってお礼を言っています。


「人族の男――タロオだっけ?」

「タロっすよ!」


「そうかごめん。ところでさっきまでのアレはなんだったんだい? 怒るといつもああなの?」


 そうそう、それですよ。

 一体アレはなんだったんでしょうか。


「いや、その、明き神さまがっすね。力貸してくれるっつうんで借りたんすよ。そしたらなんか訳分かんなくなって、あんなんなったんす」

「へぇ、明き神が。それで元に戻ったからもう借りられないの?」


 んー? と首を捻るタロウ。


「そういやそうっすね。どうなんす――」


 ビクっ――


 急にタロウがパカっと口を開け白目になってブツブツ言い始めました。タロウを除く全員がビクッとしましたよ。


「――借りられるらしいっす」


 まさかタロウは今、明き神と会話したんですか?


「へぇ、やって見せてよ」

「じゃちょっと言われた通りにやってみるっす」


 タロウが地面に手を触れ、目を閉じて集中した途端、タロウの体に真っ赤な紅蓮の魔力が立ち上りました。


「おお! これが明き神の魔力!」


 ロップス殿が声を上げましたが……。


「え? そんだけなの?」


 そう、ウギーさんの仰る通り、大した量ではありません。

 またしてもタロウの口が開き、白目をむきました。


「――そうなんすか。分かったっす。なんかすんませんっす」


 誰かに謝ったタロウに黒目が戻ると共に、紅蓮の魔力が青味の強い紫色に変化し、強大な魔力と化しました。


「こうやって使えって明き神さん言うてるっす」


 魔力を立ち消えさせたタロウから話を聞きます。


「いやね、明き神さんの魔力使い放題って聞いたんすよ。そんなん聞いたら借りるっしょ? みんなピンチだったし」


 タロウなりに僕らを助けようとした、という事ですね。


「そんでまぁ力借りて、あんなんなって、ヴァンさん達が元に戻してくれたんすけど、あんなんなってた時に神さんの魔力使いまくったんで困ってるんすって」


「誰が?」

「明き神さんが。あのままでずっと居たら世界を維持する為の魔力まで俺が使ってまう所だったらしいっす」


 少し沈黙。



 ……ゾッとしますね。

 この世界を救う為に連れてきたタロウに、この世界を滅ぼされてたかも知れないとは……。


「だから、自分の魔力を使う為のきっかけ用に使えって事らしっす」


 タロウは依然として他者の魔力無しには自分の魔力が使えませんからね。


「それでタロウ、明き神に会って自分の魔力分かる様になったのか?」

「それが明き神さんが言うには無理なんすって。だから力貸してくれたらしいっす」


 そうですか。

 タロウに魔力を移す必要は無くなって、さらに父の呪いも解けましたから、全体の戦力は相当にアップしますね。


「状況は分かりました。じゃあガゼルの街まで戻りましょうか」


「じゃあぼくは行くよ。狼さん山羊さん、またね。他も元気でな」



 ウギーさんが北の尾根へと姿を消しました。

 本当にお世話になりましたね。今度会った時にも戦わずに済むと良いんですけどね。


「ヴァンさん! 俺が背負うっす!」


 タロウが背を向けしゃがんでいます。

 乗れ、と背中を指差して。


「甘えさせて頂きます。よろしくお願い致します」


 ロップス殿に肩を借り、タロウの背に体を預けます。


「ヴァンさん、ほんとごめんっす」

「平気です。みんな無事で本当に良かったです」


 お腹の所から濛々と煙を出しながら、タロウの背に揺られガゼルの街を目指します。


 これ、絵面的には相当シュールでしょうね。




◇◆◇◆◇◆◇◆

72.5「タロウ:明き神の魔力」


 しっかしアレが俺とは思えんすね。


 俺ってほら、基本的に草食系っすやん。

 日本におった時は喧嘩だってほとんど、いやいや、殴り合いなんかは全くした事なかったっすもん。


 そんな俺が『ぎゃあぉぉぉ』言うて火の玉ばら撒きまくって、ヴァンさん達殺そうとしとったんやで。


 我ながら信じられんす。




 でも、ちょっとね。

 ちょっとだけっすけどね。


 強い自分に快感を感じたんも確かなんすよ。

 いや分かってんすよ、やってた事が最っ低なんは。


 でもほら、分かるっしょ?

 男の子やもん。


 って俺、二十五歳の良い歳した大人なんやけどさ、みんな小学生の頃にやったやん?


 かめ◯め波出そうとするやん?

 ベギ◯マ唱えるやん?

 仮面のバイク乗りの変身するやん?


 まあそういう感じっすよ。

 そういやさっきの俺、かめ◯め波みたいなん出してたっすわ。ウギーに。



 『ぎゃあぉぉぉ』言うてた時の記憶あるんすよ。しっかりと。

 あのヴァンさんもロップスさんも、ウギーさんさえ押してたんすよ、俺。


 あの草食系の俺がやで。


 やっぱ男の子やからね、強いのは憧れるやん。


 ちょっとちゃんと強くなろうかなって、思うやん?

 思わへん?

 あ、そう。


 俺はちょっと思ってしまったっす。


 ヴァンさんの体が元に戻るまでは旅もお休みっしょ、たぶん。

 その間ロップスさんに刀とか教えて貰おっかな。


 でも技の名前がなー。

 厨二病にも程があるんよなー。

 んー、でも大きい刃物怖いもんなー。


 やっぱ魔法を磨く方が手っ取り早いかな。




 それにしてもヴァンさん軽いっすね。余裕で背負えるっす。

 ちゃんとご飯食べへんからやで。


 ってお腹から下ないんやったっす。

 誰のせいって完全に俺の、いや明き神さんが半分くらいは悪いんちゃう?


 明き神さんとマグマん中で喋ったやん。

 契約成立っす、のすぐ後にさ、俺んとこ近づいて来たと思ったらスルッと入りよんのよ、俺に。


 で気がついたら『ぎゃあぉぉぉ』よ。

 抵抗するとかそんな間もなかったんよ。


 やっぱ根っこは俺が悪いんちゃう気がして来たっす。




 ……うっわ、なんこれ!


 ヴァンさんずり落ちてきたからよっこいしょってしたら、ヴァンさんのお腹にちょっとだけ指先入ったー!


 ぬちょ、っつうか、ぬちゃ、っつうか、なんこれ内臓? 肉? えも言われん不快感! グッロ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る