71「当てが外れました」

「モォ、ヤ、メ………………てくれぇぇっす!!」




 ――もう手を離しても良いですか?

 良いですよね、きっと。


 もうタロウの体から魔力は立ち上っていません。


 それに僕、もう限界ですしね。



 タロウの体から手を離し、そのままドサッと地に落ちました。


「……タロウ? 目は覚めましたか?」


 こちらに背を向けたまま、顔を手で覆って震えています。

 振り返って、ギャォァァ! とか止してくださいよ。


 僕の体から、タロウから無理矢理に奪った魔力が回復の煙としてモクモクと立ち上っていきます。

 タロウの体からはあの赤い魔力が霧散していきます。



 ふぅ、ギリギリでしたね。




 ……って、あれ? ちょっとコレやばくないですか?


「タロウ? タロウさん? ちょっと、聞こえてますか?」



「……ヴァンさんに会わせる顔がないっす」

 背中を向けてワナワナと震えるタロウ。


「いやいや、そんなの良いですから、ちょっとやばいんですよ」

 辺り一帯、さっきまでの僕の煙で真っ白です。


「……だって、俺、ヴァンさんに……、なんて謝ったら良いか……」

「良いですから! そんな事言ってる場合じゃないんですよ!」



なんですよ!」


 涙でグズグズの顔をこちらに向けるタロウ。


「ちょ――え? ヴァンさん足どこやったんすか!?」


 どっか行きましたよ、もお。


「ちょ、ヴァンさん、これ俺どうしたら良いんすか!?」


「魔力早く分けて下さい……ホントに死んでしまいます……痛いんですよこれ……」

「分かったっす! ……て、あれ? 嘘、え? なんで? なんで空っぽなん!?」


 ……本当に意識が遠のいてきました。


「ヴァンさん! 俺、魔力空っぽっす!」


 当てが外れました。

 タロウから奪った魔力か、タロウの魔力さえあれば、時間はかかっても回復する算段だったんですが……。


 辺りの煙が晴れ、キョロキョロするタロウが見えます。


 ……見納めになりそうです……


「ロップスさん! こっちっす! 早く! こっち来てっす!」

「おお、タロウ、元に戻ったか。一時はどうなるかと――」


「いやホントごめ、ってそんな場合じゃないんすよ! ヴァンさんやばいんす!」

「うぉ! ヴァン殿、腹から下どこやったんだ!?」


「だから早くヴァンさんに魔力分けて! 早くっす!」

「そんな事言われてももう空っぽだぞ……、すっからかんだ」


「プックルーーっ!! 早く来るっすーっ!」


 プックルとロボの足音が聞こえます。


 ……これも聞き納めかも……


『ヴァン、足、ドコヤッタ』

『ヴァン殿! なんて姿でござるか!?』


 ロボが僕の顔をペロペロと舐めてくれます。ザラザラした舌が心地良いです。

 そう言えば、いつからかメガネがありませんね。なんだかみんなが見にくいのはそのせいですか。

 死に掛けで目が霞んでいるのかと思っていましたよ。


 プックルの魔力が僕に移され、煙が立ち上り始めました。なんとか回復が始まりましたか。


『……スマン、魔力空ッポ、ナッタ』

「なんすってー!?」


 タロウが喋るとシリアス感が失われますが、プックルから移された魔力はすでに使い切り、回復の煙も止まりました。


 これもうどうにもなりませんね。


「ヴァン、悪いけどぼくも魔力空っぽなんだ」


 ウギーさんにまで心配かけています。可笑しいですね。さっきまで殺し合いをしていたのに。


「ウギーさん、先程はありがとうござ――うっ、ゲホっ、ガッ――」

「ヴァンさんが喀血! ちょーーっ! これどうしたら良いんすか!?」


 タロウの涙が止まりませんね。



「……タロウ、大丈夫。貴方が生きていれば良いんです」

「ヴァンさん、そんな事言わないでくださいっす!」


「……ロップス殿、プックル、ロボ、後は任せました。……先にリタイアしますが、許してください」


『ヴァン殿! 嫌でござる! それがしを置いて行かないで下され!』

「ヴァン殿……」

『…………メェェ』


 本当にお別れです。

 みんな、この世界をお願いしますね……












 …………あれ?



「……ヴァンさぁーん、あーん、あー……あれ? 煙出てないっすか?」


 ……出てますね、僕の回復の煙。

 どうして?


『ヴァン殿! どうなんでござるか!? なんとかなりそうでござるか!?』


 少しずつ魔力が回復しつつあります。

 煙による回復で消費する魔力量よりも、回復量の方が僅かに上回っているようですね。


「このまま行けばなんとかなりそうです。心配掛けました」

「良かったっすーー!! 俺のせいでヴァンさん死んだら、もう、俺――俺、もう――」


 うわぁぁぁぁ、と声を上げて僕にしがみつくタロウが泣き叫びます。

 ロボも同様です。心配かけてすみませんでした。


「しかし何があったんだ?」


 ロップス殿の疑問ももっともですよね。


「分かりませんが、恐らくが解けたんだと思います。というか、それしか思い付きません」


 父の呪い――父ブラムの魔力回復の為に日々奪われ続けた僕の魔力――それが遂に解けたとしか。


「なるほど。危うくブラム様のせいで息子が死に掛けたということか」


 否定はしません。


「何でも良いっす!」

『ヴァン殿が無事なら!』


 そうですね。

 なんでも良いです。


 みんなが笑顔になってくれましたから。

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