70「ヴァンの煙」
『早くしろ! 弱体化がいつ始まるか分からんぞ!』
急がなければなりません。
ロップス殿とプックルが捻り出してくれたこの時間を無駄には出来ません。
「ウギーさん、申し訳ありませんが力を貸して頂きたい」
「良いよ。乗りかかった船だ」
助かります。
とにかくタロウの意識を取り戻させたいですが、先ほどのウギーさんの一撃でも戻りませんでした。
衝撃では難しいでしょうか。
「ぬぅりゃぁぁ!
ロップス殿の奥義がガンガン当たりますが、タロウが怯む様子がありません。
障壁を纏っている訳でもないのに異常です。
どうやら受けたダメージを溢れる魔力で直ぐに回復しているようですね。
ロップス殿の動きが目に見えて鈍くなりました。弱体化が始まってしまった様です。
時間がありません。
やはりこれしか思い付きませんね。
正直言ってやりたくありませんが。
「ウギーさん、タロウの意識を刈り取るのは難しいように思います」
「そうだな、ぼくもそう思うよ」
「ですので、タロウの魔力を刈り取ろうと思います」
「魔力を?」
できると思うんです。
「僕らは日常的に魔力の貸し借りを行なっています。問題なのは、合意の下でしか行った事がないという事です」
「なるほど。強引に奪う必要があるんだな」
ウギーさんは理解が早いです。
「ええ。そこでウギーさんにはタロウの魔力を引き出す役をやって頂きたいんです」
「分かった。次にトカゲ人間が離れたら突っ込むよ」
問題はそれだけではないんですが、どうせやるしかありませんからね。
「問題はそれだけじゃないと思うんだけど、ヴァン、期待してるよ」
ウギーさんにはバレていますね。でもコレしか思い付きません。
「ぐわぁぁ!」
炎弾の直撃を受けたロップス殿が、斜面の下方へ向けて吹き飛ばされました。
「離れた! 突っ込むぞ!」
ウギーさんがタロウ目掛けて突撃。
タロウの側頭部に強烈な蹴りを放ち、真横に吹き飛ばされたタロウが地を転がって行きます。
タロウが両手で地面を押すように突き、跳びあがりました。
そこをウギーさんの魔力弾が連続してタロウに直撃します。
「どうだ人族の男! 参ったか! ――って、全然参ってないね。困っちゃうなー」
ピンピンしていますね、タロウ。
「りゃぁぁぁぁ!」
ウギーさんが魔力を溜め、全身から黒く輝く魔力を迸らせました。
「『ギャァォアァァァァァ!』」
タロウの体からも迸る炎を象ったような魔力が立ち上ります。
僕も急いで準備です。
タロウの後方へ回り、息を殺します。
残る魔力は一割程度、これを全て体に纏わせるタイプの障壁に回します。タロウの総魔力の底が見えないので、できるだけ空っぽにしなければなりません。
「喰らえ人間!」
ウギーさんが放ったのは魔法元素なしの魔力弾、単純な衝撃だけですが、とんでもなく強大な一発です。
「『ギャァォアア!』」
タロウの両腕から放たれる魔力砲も同様に魔法元素なし、二人の中央で衝突しました。
「なんって歯応えのある人族! 気に入ったぞ! 全力で行くよ! りゃぁぁぁ!」
ウギーさんの体から立ち昇る魔力が勢いを増します。衝突した魔力が押し合い、ややウギーさんが押しています。
「『ギャァォアアァアァア!』」
タロウの纏う魔力も勢いを増します。
今が狙い目ですね。
タロウの背へと跳び、しがみつきます。
タロウの両腕を巻き込みながらしがみついたので、同時にタロウの魔力砲が消えました。
「うぉっとぉ!」
ウギーさんの魔力弾が僕らの頭上を
タロウの纏う魔力に身を焼かれますが、障壁だけを頼りに無視。強引にタロウの魔力を僕へ移します。
上手くいきそうです。少しずつタロウの魔力が――
「あぁぁぁぁぁ!」
僕に流れ込むタロウの魔力が、一気に勢いよく流れ――
「がぁぁぁぁ!」
既に僕の許容量を超えています。
それでも魔力を移すのを止めません。
タロウから噴き上がる魔力に依然衰えはありません。
元々無理のあった策です。
分かりきっていた事です。
タロウの魔力量は恐らく、少なくてもファネル様と同程度、僕の数倍は間違いありません。
ぐぅぅぅ――でもちょっと想定以上です。
それでももう声は上げません。
――あ。
右脚が膝の下あたりでドンっと破裂しました。
めちゃくちゃ痛いです。
ちょっとさすがに声を上げそうでした。
既にタロウにしがみつく両腕と胸、頭にしか障壁は張っていません。
タロウから奪った強大な魔力を使い、吹き飛んだ右膝から回復の煙が濛々と立ち上ります。
振り解こうとするタロウが体を振るのに合わせて振り回されますが、絶対に離しません。
右膝から下がありませんが、腕さえ離さなければ良い。
このまま、
どれほど時間が掛かろうが、絶対に離しません。
「『ギャォァァァァァ!』」
タロウが周囲に魔力を放出し、少し離れた所で様子を見守っていたウギーさんとロップス殿が吹き飛ばされます。
生憎と近過ぎて僕には当たっていませ――
――あ……
左膝も弾けました。やられましたね。めちゃくちゃ痛いです。
……ちょっと、いや、かなり無理の方が大きいでしょうか?
両膝から煙が立ち上りますが、依然タロウの魔力に衰えは見えません。
うぅ……、ちょっと怖い想像をしてしまいました。
頭と胸、それ以外はいくら無くなっても魔力さえあれば回復の煙のお陰で再生可能ですが、明らかに煙で消費する魔力よりも流入量が多いです。
いきなり全身が爆発なんてしないでくださいよ。
お願いですから
気が狂いそうな痛みは……辛抱してみせますから。
「『ギャォァァ!』」
タロウが飛び上がり、地面に僕を打ちつけます。
そんな事で離しませんよ。
めちゃくちゃ痛いですけどね。
「『グルゥァァァ』」
立ち上がったタロウに引きずられる様にしがみつきます。
周囲は僕の煙で霞みがかった様になってきました。長い人生でこんな事は初めてです。
長生きするものですね。
――ぉぅええ。
……口から魔力が溢れそうでした。
もう、目から鼻から、穴という穴から魔力が漏れそうです。
――ぐうぅぅ、……あぁ……
あぁ……、今度はお腹で爆発しました。
さらに勢いを増して濛々と立ち上る僕の煙。
もう周囲は完全に真っ白です。
痛みに意識を持っていかれそうです。
「『グゥルァァァ……
……なんです?
タロウが何か言いましたか?
「『
「『モォ、ヤ――メテクレァァ、ッス……』」
「モォ、ヤ、メ………………
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