61「アンテオと有翼人」
「――アンテオ様、お覚悟を」
大剣に魔力を籠め、刀身に魔力で魔術陣を描きます。手元から剣先まで、描き終わったら大剣を地に突き立てます。
魔術――光の檻。
魔術を発動。
突き立てた大剣から
あっという間にアンテオ様を包囲した黒い光が、触手を伸ばすように大地から飛び出しアンテオ様の頭上に集まりました。
『グゥァ? グルァァ』
キョロキョロと慌てるアンテオ様。容赦致しません。
「縛れ!!」
アンテオ様の皮膚に食い込むようにビシっと収束、そのまま地に縫い付けました。
ふぅー、なんとかなりましたね。
さすがのアンテオ様でも、コレは簡単には脱出できない筈です。
先ほど、
アレが無ければ檻の強度は下がり、さらに今頃は魔力枯渇でヘロヘロでしたね。
「アンテオ様、落ち着かれましたか?」
『グルァァ! グゥァァァァァァ!』
全然落ち着いてませんね。どうしましょう。
タロウのお陰でまだ暫くは
「――ちっ! やっと見つけたぞアンテオ! 見つけたと思ったら、すでにヴァンに捕らえられてるだと!?」
……またなんか来ましたよ。
多分アレです……
最悪の展開、ってヤツです。
新たに現れた人は頭上から現れました。魔法ではありません、自前の羽で飛んで来られました。
有翼人ですね。
「こんにちは、お久しぶりですね」
「ああ、久しぶりだぞ。元気だったか?」
初めて三人の有翼人に会った夜。
その後お会いしたのはアギーさん。こちらはあとの二人の内のお一人ですね。
「それなりに元気ですよ。貴方は?」
「あぁ、イギーも元気だぞ」
「イギーさんと仰るのですね」
「言ってなかったか? それは失礼したぞ。イギーだ。よろしくだぞ」
「ヴァンです。よろしく」
一見すると和やかな自己紹介を済ませます。
イギーさんと仰るこちらの方、初めて会った夜と大きく異なる点があります。
「ねぇイギーさん。
イギーさんの左腕が根元からありません。以前は確かにありましたが。
「ああ、これか? この竜にくれてやったんだぞ」
ツカツカとアンテオ様に近づくイギーさん。
『ギャァァァン! グルァァァン!』
「うるさいぞ!」
『ギャァン! グルゥゥ……』
再び殴られたアンテオ様が静かに唸りました。
「この左腕はな、魔術の核に使ったんだぞ。イギーたちがどうやって魔獣を使役しているか知っているか?」
「いえ、知りません」
「自分の魔力を籠めた肉体の一部にな、魔術陣を施して使役したい相手に食わすんだぞ。まぁ、普通は毛や爪なんかのちぎっても構わない部分を使うんだぞ」
なるほど、ワギーさんのマヘンプクや、ナギーさんの腐ったマエンなど、そんな風にして操られていたんですね。
「ただな。見ろよこの竜。この大きさでこの強さだと核もそれなりの物が必要だ。僕は左腕一本は必要だと考えたんだぞ」
「左腕一本では足りなかったということですね。アンテオ様は本領発揮には程遠いはずです。こんなに弱い筈がありません」
僕は推測にハッタリも交えて話してみました。
「ん? この竜が弱いのはコイツのせいだぞ。今は完全にイギーが掌握した。次に戦えば負けるのはヴァン、オマエだぞ」
どういう事でしょうか。
「こいつらは竜の姿だと巨大化するだろう。竜化した時に食べた物は、人化した時に体の大きさに合わせて腹の中で小さくなる。そのせいで魔術の核としたイギーの左腕も小さくなってしまったから魔術の力が弱まってしまったんだぞ」
なるほど。細かい経緯は分かりませんが、魔術が効く前に人化、そしていま再び竜化したせいで併せて左腕がサイズアップ、魔術が完成してしまったんですか。
「ヴァンのこの、檻の魔術もなかなかだ。しかしまだまだ甘いぞ」
イギーさんが僕の作った檻に手を触れ、魔力を流し込んでいるようですね。
しかしそんな事で破壊されるような檻ではありませ――
予想外にあっさりと、ガシャァンと音立てて、
――破壊されました。とほほ。
「な、まだまだだろ? 立て! アンテオ!」
『グルゥゥゥゥァァン!』
アンテオ様がこちらへ顔を向けて口を開きます。
ブレスですか。やばいですね。
『――ウワォォォン!』
ロボの霊力砲!
ドォンと音を立てて、アンテオ様の開いた口を直撃しました。
とにかくイギーさんを倒すのが先決です。口から煙を上げるアンテオ様は無視。アンテオ様の足下、イギーさんに突っ込みます。
「アンテオ!」
一歩動いただけで僕の前にアンテオ様が割り込みます。クソ!
ヒュッ――
アンテオ様が踏み出したその膝に、今度は魔力を籠めたタロウの吹き矢が突き刺さりました。
みんなやってくれますね。
膝を撃ち抜かれたアンテオ様が体を支え切れず、僕の前を横切ってたたらを踏みます。
僕の目の前にはイギーさん、そのイギーさんから放たれる魔術の矢。
読み切っていました。
魔力を籠めた大剣で叩き落し、イギーさんに肉迫します。
ガラ空きの胸へ大剣を突き入れ――
「アンテオ!」
――られません。
たたらを踏んだアンテオ様が闇雲に尾を振り、ちょうど僕とイギーさんを同時に薙ぎ払うかたちで二人まとめて吹き飛ばされました。
アンテオ様は尾を振った勢いを殺せずに、ズシィィンと大地を揺るがし地に落ちます。
同じ方向に吹き飛ぶ僕とイギーさん。
大剣を地に突き立てて吹き飛ぶ体を強引に留め、未だ宙にあるイギーさんへ蹴りを放ちます。けれど自前の羽により上空へ逃れられました。
「ダメだなこれは。アンテオの動きが鈍いんだぞ。それに連携が全く取れないんだぞ」
確かに二人の動きはちぐはぐです。このまま戦ってもなんとかなりそうな気がする程度には。
「アンテオ! 退くぞ!」
『グルゥゥゥ……』
首を振って体を起こすアンテオ様。そこに飛び込むひとつの影。
「――叔父上ぇぇぇぇ! この私が竜族の誇りを思い出させてくれる!
錐揉みしながら飛び込むロップス殿。
技の名前はアレですが、余りの高速回転で刃の先端が輝いています!
『グギァァァァァァァン!!』
「叔父上! 目を覚まされよ――グヌァァッ!」
アンテオ様の右眼を深々と抉りましたが、アンテオ様の尾に弾かれたロップス殿がこちらへ飛ばされました。ロップス殿を受け止め、数歩分後退させられます。
「ロップス殿! ご無事でしたか!」
「あぁ、平気だ。しかしすまんなヴァン殿、せっかく買ってもらった槍を折られてしまったわ」
『グルゥゥァァァァァ!』
ロップス殿に右眼を抉られたアンテオ様が雄叫びを上げています。
「アンテオ! うるさい!」
アンテオ様の肩に飛び乗ったイギーさんが一喝、途端に落ち着き払うアンテオ様。
「アンテオの掌握が甘い。貴様らの連携に対してイギーたちの連携が甘い。問題だらけだぞ。ここは退くぞ、アンテオ!」
アンテオ様がバサリと羽を広げひと打ち、瞬く間に飛び上がり、西の空へと飛び去ります。
「ヴァンよ! また会おぉぉうぅぅぅぅ……!」
タロウ達が森から出てきました。
「ドップラー効果っすか……」
どっぷらーこうか? なんでしょうかそれは。
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