57.5「パンチョ:まだいたパンチョ②」

 我の名はパンチョ。

 知らぬ者は今すぐ覚えよ。


 と言ってもな、この街で我を知らぬのは生まれたての赤子くらいのものよ。


「人族の勇者ファネルの一番弟子パンチョ! 我が師ファネルの元を訪れる旅に出る! アンセムの街の皆! 達者でな、また会おう!」


 こんな爺いにワーワーキャーキャー言うてくれるのは嬉しいがな。

 凱旋パレードならまだしも、壮行パレードはらんだろ。

 街長のバカめが、パレード好きもいい加減にさせんといかんな。



 皆に見送られて門を潜る。

 我は久しぶりの自由だ!


「ところでパンチョ殿」

「おお、居たのか街長。どうした?」


「北のファネル領に向かうのならば、ブラム領も通りますよね?」

「通らなければ行けぬな。それがどうかしたか?」


「お願いであります! この色紙しきしにブラム様のサインを頂いて来て欲しいのです!」


 ……ブラム推しもいい加減にさせんとな。


「……寄れればな」

「ありがとうこざいます! 無事のご帰還、心よりお待ちしております!」


 どうせ待つのはブラム様のサインだろうが。


 まぁ良い。

 久しぶりに顔くらい見に寄ろうか。


 しかしブラム様は起きていらっしゃるのだろうか?



 街道に沿って北へ進む。

 まだ皆がこちらに手を振っておるな。


 もう面倒だから走るか。街の連中もいい加減に爺いの背中に飽きただろう。

 振り返って一度、大きく手を振って走り出す。


 見よ!

 八十七歳にしてこの健脚!


 ふははははは!

 久方ぶりの自由だ!


 ふははははははははは――――……はぁ。


 ひとり旅は寂しいのぉ。

 プックルめは連中と楽しく旅しておるんだろう。


 ……我も一緒に行けば良かったな。


 しかし書類作業がこんなに掛かるとは思わなんだ。もう三月も末に近い。連中がアンセム様の所から戻ったのが二月の頭。つまりふた月近い。

 さすがに連中もこんなに待ってはくれなかっただろう。


 言うても詮無いな。やめよう。

 また会えるのを楽しみにひとり旅を続けようぞ。


 ――むむ!?

 前方左手に見えるのはマロウの群れ!


「朝っぱらからたむろしよって! 我が剣の錆にしてくれるわ!」




「ぬぅぅぅ! マロウのクセに生意気な!」


 群れのうち十頭ほどは既に斬り裂いた。

 しかし残る四頭の連携が驚く程に良い。一頭を狙えば残る三頭がフォローに回りよるわ。


「しかし、うぬらはまだ魔法が使えんと見た。そして我も魔法が使えんと……そう見ているであろう?」


「甘いわ! 我は使えぬとも、師から頂いたこの宝剣は違う。この世界に二つとない、明昏天地あかぐらきてんちの宝剣はな!」


「喰らえぃ! 明き風刃!」


 明昏天地あかぐらきてんちの宝剣に、ほんの僅かの魔力を籠めて振る、さすれば飛び出す風の刃よ!


 よし! 二頭同時に首を飛ばしたぞ。さぁ残る二頭はどう出る?


 よしよし。

 それが魔獣の正しい在り方よ。

 我に敵わぬと見て、尻尾を巻いて逃げ出しよったわ。



 仕留めた十数頭のマロウを地に埋める。面倒だがマナーだからな。


 しかしあのマロウどもは勘違いしておる。

 我はあのタロウと違って魔法が使えん訳ではない。


 魔法元素的には基本の三つ、火、風、水しか使えんが、どれも一応使える。


 ただし魔力効率が異常に悪いのだ。さらに魔力量もかなり少ない。

 普通の風の刃を二回も使えば、もうそれだけで魔力枯渇を起こすほどだ。


 なので魔法は戦いには使わん。

 しかし、使えんのではなく、使わんのだ。


 魔力は主に生活の方で使わんといかん。ひとり旅では自分で火も焚けねばならぬし、炊事もせねばならんからな。


 よし、マロウは埋め終わったぞ。


 ではファネル様の下へ向かおうぞ!


 あ、いやペリメ村が近いな。

 ヴァンの母親の墓参りに寄ろう。

 あの人は美しかった。

 すでにブラム様に嫁いではおられたが、あの人こそ我の初恋にして唯一の恋。


 よし! 善は急げ、すぐ向かおうぞ!




〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜

パンチョ篇、ようやくスタート!

同時進行でたまに挟まります!

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