45.5「ロップス:幼きあの日」

 私の名はロップス。

 この世界でも高位の存在である竜族、尚且つ、そのおさの末子である。


 だ。


 兄達とは会った事もない。

 父の弟である叔父上を始め、放浪癖が酷いのは竜族としては珍しくもない。


 それは分かるが、すでに齢千三百を数え、結界の礎というお役目を全うする父を助けようという気概はないものだろうか。


 私は兄達や叔父上とは違う。

 父を助けるべく立派な竜族として成長する為に、日々の研鑽を怠らん。


「見よ! 我が剣の奥義! 烈風迅雷斬れっぷうじんらいざん!」


 ――ふふふ。


 なんとカッコいい技か。

 大木を一刀のもとに斬り伏せる威力もさる事ながら、とにかく名前がカッコ良い。

 さすがは私。


「若! 無闇に木を傷つけてはいけません!」


 爺か。面倒な奴に見つかった。


「……良いではないか。切り倒した訳でなし」


 そう、残念ながら少し傷を付けただけだ。


 やはり体重が軽すぎるのだろうか。

 もっとこう、体重をかけて斬った方が威力が増すんじゃないだろうか。

 烈風迅雷斬は速さに重きを置いた技だから、しょうがないと言えばしょうがないんだが。


 よし、後で爺の目を盗んで新たな技を開発しよう。

 そうだな、名前は……破壊力のありそうな、重たそうな名前が良いな……、


 烈火……重……、いや十……十山斬――


「烈火の如く、十の山をも斬り裂く剣、烈火十山斬れっかじゅうさんざん! これだ!」


「若……、新しい技も良いですが、もう少し名前はなんとかなりませんのか」

「何を言うか! カッコいい名前ではないか!」


 爺が呆れた目を私に向ける……。


 なぜだ。なぜこの名前の良さが伝わらんのだ。


「そんな事はどうでもいいんです」

「そんな事だと!?」

「もうすぐヤンテ様がお見えになりますよ、若」


 ヤンテとは私の母だ。

 これが頭の痛い元でもある。


 何を思ったか、人族の娘を父が娶ったお陰で、私は竜族でなく竜人族として生まれた。

 恐らくそのせいで私の魔力は、正統な竜族に比べると微々たるものとなってしまった。


 もちろん頭では解っている。

 父母なくしては今の自分が存在せぬ事を。


 しかしだ。

 私は父の為にも母の為にも、この世界の為にも、立派な竜族で在りたいのだ。


「若、久しぶりにヤンテ様にお会いするのが嬉しいのは分かりますが、にやけ過ぎです」

「な――! 何を言うか! にやけてなどおらぬ!」


 頭が痛い理由はもう一つある。


 母は世界一優しく、そして世界一美しいのだ。

 これについては異論は認めない。


 精霊女王タイタニア様が世界一美しいとの風評ではあるが、私は眉唾ものだと思っている。


 母より美しいものなど、この世界にあるはずがない! 断じてないのだ!


「今朝アンセムの街をお立ちのはずですから、そろそろこちらに着く頃でしょう」

「もうそんな時間か! 急ぐぞ爺! 技の練習は今度だ!」

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