47「僕がやるんです」

 ちょっともう無理っぽいです。

 ここから挽回できる手立てが思いつきません。


 ロップス殿には悪いですが、ここにタロウ達がいない事が唯一の救いですね。


 タロウ、プックル――ロボの事を頼みましたよ。



 、ロボの事を。



 今頃はマエンの長の所へ辿り着いたでしょうか。

 ロボの熱はどうなったでしょうか。

 この先、僕とロップス殿がいなくても無事にファネル様の下へ辿り着けるでしょうか。


 この世界を、守れるでしょうか――










 ――僕は何を寝惚ねぼけているんですか。


 辿り着ける訳がありません。

 守れる筈がありません。


 僕がやるんです。


 僕がこの世界とロボを守らなくて、誰が守ると言うんですか。


「まだ遊んでくれるのかぁ?」

「……ちょっとだけ、待って下さいね」


 一緒に吹き飛ばされた大剣も手元にあります。

 僕はまだ戦える。

 手足に力を込めて、大剣を杖代わりに立ち上がります。


「もう良いかぁ?」

「もうちょっとだけ」


 左手を開いてナギーさんに向け、少しだけ時間を貰います。

 ポケットの中から、タロウに分けて貰ったリコの実を取り出し、全て口に放り込みます。


「……うぅぅ、酸っぱい」


 マナツメよりも魔力の回復量が若干大きいようです。

 僅かに回復した魔力を使い、全身から薄っすらと煙が上がり、勝手に傷を癒していきます。


「お待たせしました――行きます!」

 全力でナギーさん目掛けて突っ込みます。


「はは、そうこなくっちゃぁ」

 

 ナギーさんから連続して撃たれる魔術の矢。

 致命の一撃以外、全て無視です。


 肩を穿たれても、脚を穿たれても、止まりません。止まってなんてやりません。

 全力で突っ込みます。もう少し――もう少しで届きます。


「怖いなぁ。じゃぁさ、これならどうかなぁ」


 僕の方じゃない、明後日の方へ向くナギーさんの指先……その先には、血を吐きながらも四つん這いで立ち上がろうとするロップス殿。


 指先から放たれた魔術の矢が、ロップス殿目掛けて飛んで行きます。


「こ……ここで私狙いか……」

「……クソがぁ――!」


 横っ飛びに飛んで体を伸ばし、腕を伸ばし、大剣を盾にしてギリギリ弾けはしましたが、僕とした事がつい口汚く罵ってしまいましたね。


「ぐふぅっ」


 全身を伸ばしたせいで無防備になったお腹を撃ち抜かれ、再び地に叩きつけられました。

 天を仰ぐように仰向けです。


 煙を上げて癒す魔力もない。

 これはちょっともう、立てそうにないです。


「ナギーの勝ち! 魔獣を使うゲームとしては反則だけど、勝てば良いのよ、勝てば! ! はははは!」


 そうでしたか。やはりナギーさんたちは、僕を新たな礎だと考えて…………


 …………ん? あれ、なんでしょうか?



 いつの間にか――叩きつけられた時でしょうか――メガネが飛んでいった様なのではっきりとは見えませんが……上空を何かが飛んでいます。


 青白い……、なんでしょう、棒状の何か……


 勝ち名乗りを上げるナギーさんはどうやら気付いていませんね。

 棒状の何かが、ちょうど僕らの真上で点状に変化しました。


「ヴァンにトカゲ男。二人とも充分に楽しませて貰ったよ。では、さ――」


 ――――どん。という、鈍い音。


「――らば!」


 ……………………


 なんでしょう。

 ナギーさんの頭と胸から、青白い棒が生えています。


 正確に表現しましょう。


 頭に刺さった青白い棒が、ナギーさんを貫いて胸から飛び出し、そのまま地面に突き刺さりました。


 え?

 なんですか? これ。





「当たったっすよ! ね、見て見てプックル! 当たったっすよ!」


『タロウ、完璧、良クヤッタ』

「だっしょー! もっと褒めて!」


 森の方から賑やかな声が聞こえます。


「ヴァンさん! ロップスさん! 大丈夫っすか!」


 プックルに乗ったタロウが森を飛び出してきました。



 そうですか……トドメはタロウですか。

 そういえば少しだけ魔力を分けていましたね。

 美味しい所を持ってかれちゃいました。


「――うっわ、狙ったんすけどねもちろん。でもこんな、いや、こんな、ねぇ。こんなガッツリ刺さるとは……、ナンマンダブナンマンダブ……」


 なんまんだぶ? なんでしょうね。


「二人ともズタボロじゃないっすか!」

「……そんな事は良いんです。ロボはどうなんですか!?」


 少し沈黙。


「タロウ? ロボに何かありましたか?」


「ロボの熱なんすけどね――言いにくいんすけど……」



 ちょっと、めて下さいよ。変な間を取らないで下さい。


「アレ…………成長痛の一種っす! 放っといても治るっす!」


 ………………長めの沈黙。


「タロウ、どういう事か分かるように説明しろ」

 胸を押さえ、脚を引きずりながら近付いてきたロップス殿が尋ねます。


「いやね、マエンの長が言うには、急激な成長をするタイプの魔獣には良くあるらしいっす」


「霊獣も?」

「霊獣の事は知らないらしいっす。けど、リコの実――あの酸っぱい木の実っす――あれ食べて熱が落ち着いたから間違いないらしいっす」


 ……そうですか。


 僕らは特効薬を長靴一杯分も持ってたんですね。



 ま、とにかく、ロボが無事ならそれで良いです。




 うんしょうんしょと、タロウが僕とロップス殿をプックルの背に押し上げてくれました。

 メガネもタロウが探して来てくれました。幸いレンズも無事です。


「ロボの所まで! ゴーっす!」


 後ろでドサっと音がしたので振り返ります。

 タロウの飛ばした青白い棒が霧散して、支えの無くなったナギーさんが地に落ちた音でした。


 少し茫然と眺めていましたが、ナギーさんの衣服も体も、ボフッと音を立てて砂のようになってしまい、そのまま風に吹かれて飛んでしまいました。


 後には何も残っていませ――ん? 何か小さな針? の様なものが地面に突き刺さっています。


「おぉアレは! 大活躍した吹き矢の針ちゃんっす! 回収回収!」


 仲良くなった腐ってないマエンに貰った吹き矢ですか?


「そういえばタロウ、貴方の放った魔法で助かりました。ありがとうございます」

「いやいやいや! 今回たまたま上手くいっただけっすから! いっつもヴァンさんやロップスさんに助けて貰ってっすから!」


 謙虚な気持ちも大切ですね。


「久しぶりにタロウの魔力が混ざっていましたね」


「そうなんすよ! 今回は目で追えたっすから青白いの見たっす! あれってヴァンさんの魔力に俺のが混ざった色なんすよね?」

「ええ、以前、魔力循環で混ざった時よりも青が濃かった様に思いましたよ」


 以前のは僕の白が強かったですが、今回は渡した魔力が少なかったからか、タロウの魔力が多かったからか、青が強いように思いました。


「それにしてもアレ、吹き矢に魔力を籠めたんですか?」

「そうっす! 遠かったし、普通に風の刃飛ばしても当たんないと思ったんす!」


 いやぁ、ほんとタロウのセンスと言うか発想力と言うか、目を見張るものがありますねぇ。

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