48「一緒に横を」+

 プックルの背で揺られ、随分と楽させて貰っています。


「それにしたってヴァンさんもロップスさんも、ボッロボロっすね」


 いや本当にボロボロですね。

 ロップス殿の胸の穴も、癒しの魔法を使ったとは言え表面の穴が閉じているだけですし、僕も体中が穴だらけです。


 吸血鬼の能力による回復も、魔力が足らないせいで煙が完全に止まったままです。


「そんなことよりロボは――本当に無事なんですか?」

「俺が長の所を離れる時には熱も下がり始めてスヤスヤ眠ってたっすけど、じきに目を覚ますらしっす」


 そうですか。マエンの長が言うなら安心ですね。

 とにかく早く元気なロボに会いたいです。



 プックルの背で揺られて森を進んでいますが、こちらから広場へ戻る向きでもちゃんと分かりにくくなっている様です。

 それでもプックルは自信満々に進んでいますが、迷子になりはしないでしょうか。


イタ』


 ちゃんと広場に戻って来られました。プックル、疑ってすみません。



『ヴァン殿! 心配かけたでござる!』


 どうやら目を覚ましていたらしいロボが、早速元気いっぱいに駆け寄ってきました。


 良かった、本当に元気そうです。

 プックルから降りて、僕も駆け寄りたいですがちょっと走れません。両手を広げてロボを迎えます。


 ――あ、え? あれ?

 遠近感がおかしいですね。

 激しい戦いだったからメガネがおかしくなったでしょうか?


『ヴァン殿ぉぉ!』


 ロボが僕の胸を目掛けて飛びました。


 ――は、迫力が……


 ガシッと受け止め…………、受け止め切れませんでした。

 ズンっという重い衝撃を受けて、踏み止まれずに仰向けに倒れてしまいました。


『ヴァン殿! ヴァン殿! 会いたかったでござるぅ!』


 ペロペロペロペロ僕の顔を舐め回すロボ。もう既に顔がベットベトです。


「ちょ――ちょっと! ロボ! ちょっと待って下さい!」

『は――っ! すまんでござる! 大丈夫でござるか!?』


 タロウの手を借りて立ち上がり、すまなそうにチョコンと座るロボへ顔を向けます。


「ロボ、すっかり元気そうで良かったです。しかし貴女、大きくなっていませんか?」

『え? そんな事ないと思うでござるが……』


 四本足で立ち上がって、自分の尾を、足を、クルクル回って眺め回すロボ。


『それがし……でっかくなってるでござる!』


 気付いていませんでしたか。

 四本足で立った状態で、これまでは僕の膝くらいまでだったのが今は股下くらいあります。

 二本足で立てば、僕の首くらいまではあるでしょうか。


 はっ! と慌ててロボの首へと手を伸ばして確認すると、ブラムの石がついたベルトは留め具を受ける穴が開いてしまって、ぶら下がってるだけになっていました。


 危うくロボを絞め殺してしまう所だったんでは……。ゾッとしますね。

 

『ついさっき目を覚ましたところじゃよ』

 マエンの長が教えてくれました。


「成長期って、そんな突然に成長するんですか?」

『魔獣にはそういう連中もいるな』


 そうですか、そういうものですか。


『これならすぐにでもヴァン殿のお嫁さんになれるでござるぞ!』


 それはまだ保留ですよ。


 しかしはっきり言って美しい。

 しなやかな体付きに、美しい白の毛並み。ロボの愛くるしさはそのままに、気品溢れる姿です。


「ヴァンさんヴァンさん、なに見惚みとれてるんすか」


 ……はっ。僕とした事がぼんやり見惚れていました。それ程に美しいです。


『自分でも分かるでござる。今までとは比べ物にならない精霊力を感じるでござるよ。これならもう足を引っ張らなくてすむでござる!』


 そうかも知れません。

 もう胸元に入れては動けませんが、頼もしいですね。


『あ、こんなに大きいとヴァン殿の胸には入れんでござる』

 ロボも気付いた様でしょんぼりしています。


「ロボ、胸には入れませんが、一緒に横を歩ける様になりましたよ。これからは僕と一緒に歩いてくれますか?」


『……――そっ、それ! そ、それは勿論でござる! こちらこそよろしくでござるよ! ……ま、まさかヴァン殿と早くも……、それがし、嬉しいでござる!』


 ――あれ? そんなに喜ぶこと言いましたか?


「ヴァンさんヴァンさん、それ、プロポーズに聞こえなくもないっす」


 え? 本当ですか?


 …………ホントですね。

 聞こえなくもない内容でした。

 ま、まぁ、はっきりとは何も明言はしていません。あえて水を差す事もないでしょう。


 タロウとロップス殿がコソコソと何か言っていますが、あえて無視です。


 首のベルトを外し、穴を変えて巻き直します。


『ヴァン殿……♡』





「マエンの長殿、ありがとうございました」

『なに、我は何もしておらんよ。リコの実を与えただけじゃ』


「それでも十分に助かりました。ありがとうございます」

『良い良い。お主らは腐ったマエン供を一掃してくれた。さらに翼をもった輩までな。十分すぎる見返りじゃ』


 ター村長に負けず劣らずの素晴らしい長ですね。


『しばらくはこの森で休んで行かれよ。どちらにしても、その体では動けんじゃろうしな』


 お言葉に甘えて休ませて頂きましょう。僕の魔力はひと晩でほぼ回復しますが、怪我の治療に魔力を取られますから丸三日ほど。

 さらにロップス殿の治療も同時に行う必要がありますから、四、五日は滞在させて頂きましょうか。


「すみません、しばらくご厄介になります」




◇◆◇◆◇◆◇◆


48.5「タロウ:成るように成る」


 見ってみー!

 さっすが、俺!

 まさかあんなまともに当たるとは思わんかったっす!


 やっぱヒーローは俺なんちゃうのコレは。

 吹き矢に籠めた魔力も青混ざってたし、ついに俺の時代が来たんちゃうの。


『タロウ、早ク、行コ』


 ――お、おう、そうね!

 ヴァンさんもロップスさんも寝転んだまま動けへんし、早よ助けたらんと!



 うっへぇ……。

 これ俺がやったんか。

 近くで見るもんとちゃうね。

 頭から棒刺さってるのになんか笑ってるみたいやし、死んだの気付いてないんちゃうこの人。


 なんまんだぶなんまんだぶ。


「二人ともズタボロじゃないっすか!」



 え、ロボの事?

 全然平気っすー! あれ成長痛やねーん! しかも俺が持ってた酸っぱい木の実が特効薬やってーん!


 って説明すんの気が引けるんやけど。

 いや、まぁ、するよ、説明。

 せんならんやろ。



 ほら、びっくりしてちょっと引いてるやん。

 でも怒られへんかったね、良かった。




 うぉ!

 ロボでかない!?


 ほらやっぱりヴァンさんぶち倒されたやん。


 でもべっぴんさんやなー。

 こりゃヴァンさんも見惚れるの分かるわ。


 うぉ!

 それヴァンさんプロポーズやん!


 あ、ちゃうの?

 でもロボめっちゃ嬉しそうやけど、良いんすか訂正せんで。

 あ、せーへんの。


 婚約首輪巻き直した時のロボの顔見てみーや。

 ウットリしとるやん。

 こりゃもう成るように成るっすね。


「ロップスさんロップスさん、あれもうアカンすね。ヴァンさんじきに所帯持ちすね」

「うむ、ロボの勝ちだ。しかし正直言って少し羨ましい」


 あ、やっぱ羨ましかったん?

 雌猿貰えんかったしね。

 でもあーたまだ十二歳やん!

 このオマセさん!


 俺かて彼女おれへんっつうの! 生まれてこのかた!

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