32「三人の有翼人の子ども」

 依然としてタロウとロボは寝たままです。


 プックルは必要以上の事を話しませんし僕もどちらかと言えばそうなので、プックルと二人で歩くのはこれはこれで楽ですね。


「僕はほとんどお腹空きませんので、プックルのお腹が空いたら休憩しましょうね」

『分カッタ、デモ、多分、マダマダ平気』

「無理しなくて良いですからね」



 結局そのまま日が暮れるまで歩きました。

 野営の準備を始めましたが、タロウとロボはまだ起きる気配がありませんね。


「プックルと二人だと走ってもないのに速いですね」

『プックルモ、ヴァンモ、速イ』


 一応タロウとロボの分も食事を準備します。簡単なものなので内容についてはわざわざ説明しませんけどね。


「それにしても起きませんね」

『スマン、プックル、ヤリスギタ』


 まぁしょうがないですよ。魔法を見せろと言ったのはタロウとロボですし。


 起きない二人を放置して、二人で食事を済ませて後片付けをしていると――


 誰かこちらに向かって来ます。三人……ですね。


「こんばんは」


 こんな遅く、しかもこんな荒野で意外にも子供の声です。


「こんばんは。こんな所でどうされました?」

「いや何、ちょっと挨拶をね」


 気軽にそんな事を言いながら、焚き火の明るさが届く所まで近づいてきました。


 現れたのは三人の子供。

 三人とも肌は浅黒く、とても大きな目です。どうやらただの人族ではなさそうですね。


「貴様がブラムの子ヴァンだな」

「そうですが……それが何か?」


「どうせ貴様らは間に合わん。無駄な努力をせん事だ」

「そうだぞ。こんな山羊しか仲間にいないんだ。魔獣に襲われてゲームオーバーだぞ!」


「君たち、何のことを言っているんですか?」

「貴様は使命を全うできんと言っておる。我らがいるのでな。今日はそれだけ伝えに来た。またな」


 三人の子供は背から翼を広げ飛び去りました。

 蝙蝠こうもりの羽に似た翼の有翼人。

 僕もずいぶんと長生きですけど、そんな特徴の人は初めて見ました。





「おはよ〜、…………あれ? 俺なんで寝てんだっけ?」

『おはようでござる。なんだかよく寝た気がするでござるな』


「おはようございます。二人とも丸一日寝ていましたよ」

『二人トモ、スマン、ユルセ』


 プックルの魔法で二人が寝てしまった事、それから丸一日経っている事を説明しました。

 そうなんです。今はあれから翌日のお昼前なんです。


「そうっすかー。プックルの魔法でそんな事になるんすか」

『プックル殿の魔法は凄いでござるな』

『ソウ、プックル、凄イ』


 昨夜の浅黒い肌の子供たちについても説明しました。

 一人はやや横柄ながら理知的そうな少年。

 もう一人ははしゃぐ様子が子供らしい少年。

 さらに一人は興味なさげな視線が印象的な少年でした。そう言えば彼だけは一言もなかったですね。


「そんな事があったんすか」

「タロウとロボの事には気付いていないようでしたね」


「心当たりあるんすか?」

「全くないです。蝙蝠の羽に似た翼を持っていました。人族でも獣人でもない、その中間のような風貌でしたが、僕は聞いた事もないです」


 以前にタロウが言っていた、ウサ耳とかウサ尻尾が生えたおかしな生き物にやや近いかも知れません。

 なんだったんでしょうね、あの子たち。


「でもまー子供っしょ。嫌な事言われたってヴァンさんの相手じゃないっすよ!」

「まぁそうですね。気にしたって始まりません。またな、と言っていましたし、今度会った時にお話してみましょう」



 それからは特にどうという事もなく進む事ができ、ペリメ村を出て三日目の昼頃、目印の大木まで問題なく着きました。

 ここからは北へ進路を変えて、およそ一日の距離ですね。


『大きい木でござるな』


 ロボが頭上の大木を見上げて感想を呟きました。


「そうでしょう。タロウ、これなんの木か分かりますか?」

「え? そう言うって事は俺の知ってる木っすか? ……あ、マナツメじゃないっすか?」


「正解です」

「実がなってないと分かんないすね」


「ここまで大きく育った魔樹は実をつけないんです。

 何故かはよく分かっていませんが、自分の周りに同種の魔樹が育たない様にするためと言われています。

 ほら、この木の周りには他の木が生えていないでしょう? この木が付近の草木から魔力を吸収してしまうからなんです」


「なるほどっす!」

『さすがヴァン殿は物知りでござる!』


「質問っす!」

「タロウ、どうぞ」


「人や動物は平気なんすか?」

「良い質問ですね。このマナツメは平気ですが、吸血魔樹と呼ばれる魔樹が存在します。近付いた生き物から魔力をこっそり奪うものや、積極的に枝や葉、蔓を伸ばし雁字搦めにしてから魔力を吸収する魔樹などがありますね」


『それ怖いでござる!』

「ええ、気をつけないといけません。命に関わる魔樹ですね」


 昼食をとりながら、久しぶりの授業でした。

 では午後からは北へ進みます。


 日暮れ前まで歩いて野営し、翌日の昼前、目的のヴィッケルの町に到着しました。


「ペリメ村よりは大きいっすけど、アンセムの街より小さいっすね」

「そうですね。村より大きいのが町、町より大きいのが街ですね」

「音が同じだから街と町は分かりにくいっすね」


「同じじゃないですよ?」

「……あ、そうか。日本語だと同じなんすよ」


 そうでしたね。タロウにはニホンゴで聞こえるんでした。


 とりあえずロップス殿の母上の家を探しましょうか。ヤンテ様でしたね、確か。

 町の入り口で衛兵さんに尋ねます。


「ペリメ村から来たヴァンと言います。ヤンテ様をお尋ねしたいのですが、お住まいを教えて頂けますか?」

「あ、ヴァンさんですね。ロップスくんから伺っております。ヤンテ様は町の中央付近の赤い屋根の家、割りと目立ちますので行けば分かると思いますよ」

「分かりました。ありがとうございます」


 ロップス殿も着いておられる様です。

 今から伺うとちょうどお昼時ですね。


「みんなお腹はどうですか? 空いていますか?」

「空いてるっす!」


 訪問してすぐにお昼を催促はちょっとどうかと思います。食事を済ませてから伺いましょうか。

 衛兵さんにお店も尋ねて教えて頂きました。


「お店で食事を済ませてから伺いましょう」

「お店っすか! 俺こっち来てから外食初めてっす!」


 そういえばそうでしたね。

「何が食べたいですか?」

「美味しければなんでも良いっす! ヴァンさんのご飯で舌が肥えた俺を唸らせてくれれば!」


 それはどうでしょうね。僕の料理は相当なものですよ――なんて言ってみたりして。

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